第30話 ナドルの最後

 オークの領域は何時も通り生命に溢れ騒がしい。

 薬草はっと。

 こういう時に限って中々見つからない。




 草むらがガサッと音を立てた。

 魔力視を使っているから、魔獣が潜んでいたのは分かっている。

 ゴーレムが迎撃に出た。

 魔獣はもの凄い勢いで飛び出し、ゴーレムをかわして俺に迫る。

 やばい速すぎるぞ。

 ジグザクの動きにゴーレムが翻弄されている。

 フラッシュ魔法を放つと魔獣は目が見えなくなったみたいだ。


 剣で止めを刺して、魔獣をみる。

 こいつはエッジラビットだな。

 大きさ50センツほどで、頬骨から左右に刃のような突起が突き出ている。

 要注意、魔獣のうちの一つだ。

 素早い動きで翻弄され首を切られ亡くなる冒険者が後を絶たない。

 危なかったな。

 魔力の反応がゴブリンの上位種ほどしか無かったから油断してた。




 魔獣が出てきた茂みを見ると薬草がある。

 見つかる時ってこんなもんだよな。

 周りの雑草をポッドに移す。

 群生している雑草を半分ほど集めると馬ゴーレムは満杯になった。

 雑草で飾り付けた馬ゴーレムは新種の魔獣にも見える。


 その後、借りている家の庭が一杯になるまで何往復もした。

 マリリの方は上手く行ったかな。




「こんにちは、マリリさんはいます?」


 ルシアラの店の中に入り俺は言った。


「いらっしゃい。おかげさまで上手く行ったわよ」


 マリリが俺を迎えてくれた。


「じゃあ明日は、フェリライト村ですね」

「そうね。荷馬車を借りたから、明日出発できるわ」


「俺も一緒に行きましょうか?」

「そうしてくれると助かるわ」

「準備する物とかあります?」

「護衛をね、女ゴーレム使いを雇いたいのだけど、戦闘ゴーレムが無いのよ」


「護衛は俺だけでも充分だと思いますけど」

「今後、活動するのに専属の護衛が欲しいの」

「確かに俺は毎回って訳にはいかないですね」


「戦闘ゴーレムなんとかならないかな」

「お古の魔木ゴーレムなら五体あります。譲りましょうか」

「ツケにしておいて頂戴。後で必ずお金を払うわ」

「ええ、いいですよ」


「それなら、ゴーレム使いを呼んで来るから待ってて」




 マリリはベットゴーレムを作っている女の子に声を掛けて俺の所に連れて来た。


「この子が護衛になる予定のチェル。こちらはフィル、友人よ」

「フィルです。よろしく」

「チェルです」


 チェルは銀髪でたれ目の大人しそうな女の子だ。

 歳は俺より若い気がする。


「チェルはゴーレム使い、長いのか」

「この店に手伝いに来るまでは殆んど使ってません。照明と生水のスキルが便利でそればかりでした」


「宿屋みたいな所だとそのスキルは便利だろ」

「知らない大勢の人と仕事するのが恐くって」

「そうか」


「この店の仕事も楽しいけど、色々な所にも行きたいんです」

「馬ゴーレムは使えるのか」

「店に置いてあるので練習しました。店の外に置いてあるウッドゴーレムはフィルさんのですよね。どうやって五体いっぺんに動かしているのですか」

「秘術だ。恐い目でセシリーンが睨んでいるんで言えない」


「まさか貴様、禁忌の内容を人に伝えたりしてないだろうな」


 護衛の為にマリリの後ろに控えているセシリーンが言った。


「してないですよ。そんな訳で言えない」

「二体ぐらいなら経験でなんとかなると聞きました。頑張ってみようと思います」


「マリリさん、この後どうしましょう」

「魔木ゴーレムを受け取ったら、フィルの家で雑草の積み込みかしら」




 西門の倉庫の中は継ぎ接ぎのゴーレム十体と正目の魔木ゴーレム五体が所狭しと置いてあった。

 俺は正目の魔木のゴーレムだけ選んで表に出した。


「わー、魔木ゴーレムが沢山あります」

「どれでも好きなのを選んでいいよ」

「どれにしようかな。決めました。この肩に角の生えたのにします」


 チェルは正目の魔木ゴーレムの一つを指差した。


「壊れたらまた新しいのをあげるよ。練習のつもりでバンバン使ったら良い」


 チェルは戦闘ゴーレムが嬉しいのか、受け取ったゴーレムを使い始めると、駆け足させたりジャンプさせたりしている。

 サービスとして余っていた鋼の剣一本を着けてやった。




 チェルと別れ西門の解体場を通りかかるとティルダに出会った。


「まだ冒険者してないのか」

「今は初心者講習を受けているところよ」

「あれ、俺は初心者講習受けてないぞ」

「情報を集めるのも冒険者の仕事よ」

「そうか、Cランクになったから、今更受けれないよな」

「ええ、Fランク限定だわ」


「ちなみにどんな事やるの」

「依頼の受け方とか、魔獣の解体の仕方などよ」


 更に色々と聞いたが知らない事は殆んどなかった。




「ところで約束、覚えているわよね」

「えっと、なんだっけ」

「道場に行く約束よ」


 ティルダが少し怒ったようだ。

 少しすねた口調で話す。


「そうだな、そんな話もあった。フェリライト村に行かなくちゃいけないから、三日後の朝でどう」

「ええ、良いわよ。ここで待ち合わせよ」


 帰り道、通行人が少ない一角に出た時にライタが警告を発した。


『この紫の魔力はナドルだ。気をつけろ』


 俺は魔力視で見ると前方でナドルが待ち構えていた。

 そして、家の隙間に人が隠れているのを発見する。


「いひひひ、財産を全てをあなたの賞金に上乗せしました」

「迷惑な奴だな」

「これで決着です」


 ナドルは投石具を出すとぐるぐる回し始めた。

 ナドルは囮で家の隙間に隠れているのが本命か。


「ライタ土魔法と隠れている奴にスタンガンだ」


 家の隙間で小さい悲鳴が上がる。

 そして、ナドルから放たれた瓶は土魔法に阻まれ砕けた。


 家の隙間から瓶がコロコロと転がって来る。

 すかさずライタが念動で瓶をナドルにぶつけた。

 瓶はナドルに当たりその身を濡らす。


「ぐぉ。この毒は解毒剤が存在しません。先に地獄で待っています。いひひ……」


 ナドルは口から泡を吹き出すと倒れた。

 俊足もっているのだから逃げればいいのにつぶやくと、ライタが死に場所を探していたのじゃないかと言った。


 俺を監視していたギルドの職員が姿を現す。

 この人の魔力は覚えていて、何時もスキルで見えないように後を付いて来ているのは知っている。


「後片付けを頼んでもいいのかな」

「行っていいぞ」


 これって人を殺した事になるのかな。

 念の為自分で罪状鑑定のスキルを掛けると無罪との判定が出た。

 あれ、無罪になっちゃうんだ。

 正当防衛って事になるのかな。

 俺はライタが殺したと思っているから、感情に乱れがないのかも。

 どっちにしろ問題なければいいや。

 それよりも裏の賞金が上がった事の方が問題だ。

 裏の賞金稼ぎが大挙して押し寄せてくるなんて事に、ならなきゃいいけど。




 家に戻るとマリリとチェルは荷馬車で家に到着していた。


「すいません、お待たせしました」

「鉢植えが全部薬草になる草なのよね」

「そうです。今回は色々な種類を少しずつ持っていった方が良いと思います」

「チェル出番よ。魔木ゴーレム使って練習してみなさい」

「はい」


 荷馬車に積んであった魔木ゴーレムが動き出し、雑草を次々に積み込んで行く。

 これで村に行く準備は整ったな。

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