第2章 Sランク成り上がり編

第26話 違法奴隷解放

 闇ギルド襲撃から夜が明けて、俺はトレントを狩る為の情報を得る為にギルドに行った。

 朝のギルドは混雑していて慌しい。

 窓口に並ぶと、凄く待たされた。

 やっと俺の番だ。


「おはよう」

「あのね、ちょっと困った事があるのよー」


 フェミリが甘い口調で言って来た。

 なんか面倒事を押し付けられそうな予感。




「一応聞くよ」

「違法奴隷を大量に保護したのだけど、契約の解除を闇ギルドの人間が拒否しているの」


 死刑になるのなら、奴隷も道連れってとこだろうな、胸糞悪い。

 フェミリはアントムのおっさんから、俺が契約解除した事を聞いたのだろう。


「契約を解除して欲しいって言うんだろ」

「ええ、そうよ。お願いできるかしら」

「顔を隠したままで良いのなら。それと、トレントの目撃情報を全部欲しい」

「なら、決まりね」




 俺はフェミリに連れられて、違法奴隷の居る場所に向かった。

 人通りの少ない区画へ入って行き、道は色街に向かっている。


 んっ、囲まれたな。

 男が前と後ろから合計二十人ほど出てきた。


「フェミリさん、後ろを頼みます」


 フェミリが背中合わせになり、なにやら鞘から引き抜く音が聞こえた。

 とうぜんゴーレムの護衛は連れている。

 ゴーレムを周りに展開させた。




 ここならあれも問題ないな。


「ライタ、水魔法の粘着だ」

『がってん承知。水魔法』


「なんだ足が動かねぇ」


「はうっ」「あがっ」「いひっ」「がっ」


 ライタが指示を出したのだろう、魔力ゴーレムが雷魔法を使い男達を眠らせる。




「気をつけて毒が漂ってくるわ」


 フェミリが警告して来た。


「ライタ、空気タンクに切り替えだ。フェミリさんにもお願い」

『イエッサー』


 ナドルが出てくるって事は、こいつらは闇ギルドの残党か。

 前方からゆっくりと人が歩いてきた。

 やっぱりあの白衣はナドルだ。


「いひひひ、役に立たない人達です」


 水魔法の圏外から、ナドルが話し掛けて来た。

 今度はどんな手を使うのかな。

 ナドルは懐に手を入れると水鉄砲を取り出して来た。

 毒液を掛けるつもりだな。




「ライタ、土魔法の防御」

『オッケー、ボス』


 土で出来た盾が水鉄砲から次々に撃ち出される毒液を受け止めた。


「垂れる毒液を念動で返してやれ」

『アイアイサー』


 毒液がナドルに降りかかる。


「ぐっ、どうやら毒を少し貰ってしまったようです」

「おとなしく捕まるんだな」


「あなたの実力を見誤っていました。水魔法と土魔法と念動とゴーレムを同時に使うとは思いませんでした。引かせてもらいます」


 ナドルは何やら取り出すと地面に投げつけた。

 辺りに霧が立ち込めナドルは見えなくなる。

 魔力視には見えていて、ナドルはもの凄い勢いで遠ざかって行った。

 あれは俊足のスキル持ちだな。

 覚えておこう。


「またの再戦を。いひひひ……」


 声が建物に反響した。

 霧が晴れたので、倒れている男達を武装解除しようかと思ったら、全員事切れている。

 霧がたぶん毒だったのだろう。




「フィル君、戦闘中の独り言は何?」


 こういう時の言い訳はライタと相談して決めてあった。


「ひとりぼっちだった頃に闇の人格が芽生えて。普段は左腕に封じてある。今では彼が色々な手助けをしてくれるんだ」

「そう、悪い事聞いたわね」


 フェミリが可哀相な子を見る目になった。


「実害はないんだ」

「そういう症状の人の話を昔聞いたわ。大人になると治ると言っていたけど」

「まあ、ほっといて」




 しばらく歩き目的地が見えてきた。

 建物を幾重にも人が取り囲んでいる。

 物々しい警備だ。

 慌てて持ってきた仮面を被る。


「異常は無さそうね」


 フェミリが警備の一人に話し掛ける。


「はい、異常なしです。ところでフェミリさん後ろの仮面の男は誰ですか?」

「悪いけど言えないわ。秘密よ」

「了解しました。お通り下さい」




 けばけばしい看板の建物に入る。

 一階はホールになっていて、際どい格好の女の子が二人掃除していた。


「みんなを集めて至急よ!」


 フェミリが声を張り上げると女の子達が二階へ行く階段を上がって行った。

 しばらくすると際どい格好をした女の子が沢山出てくる。


『絶景かな、絶景かな。エロフィギュアの参考になりそうだ』

「ライタ、黙ってろ。でないとスキルを切るぞ」

『へい、へい』

「もっと、ましな服がないんですか」


 俺はフェミリに話し掛けた。


「しょうがないのよ。警備に予算を取られちゃって。それに今の段階では証人の役は果たせないから、理由が無いわ」

「さっさと終わらせるか。列になって並んで並んで」




 一番左端の列の先頭の女の子を呼ぶ。


「俺のスキルを受け入れてくれ。信用できないかも知れないが」

「私が保証するわ」


 フェミリが助け舟を出してくれた。


「はい、分かりました」


 俺は魔力ゴーレムを作り彼女に侵入させ契約魔法の核を潰した。


「どうだろう。本当の名前を言ってみて」

「私はシャノです。言えました。源氏名でなく本名が……」

「これであなたは自由だ。好きな所に行ける」

「ありが……と……うえーーん」


 彼女は同僚に引き取られ列の後ろに消えて行った。


「次の方どうぞ」


 そして、この場にいる全ての違法奴隷を解放した。


 しばらく一人で泣いていたのだろう。

 目を真っ赤に腫らした最初に開放した女の子が寄って来た。


「なんと言っていいのか。とにかくあなたは救いの神です。一同を代表してお礼を言わせて下さい。ありがとうございます」

「気にしなくていい。仕事なんだ」




 その後、賭場や事務所を回り、違法奴隷を解放した。

 終わった後にギルドでフェミリが話しかけて来た。


「今日はありがとう。ざっと違法奴隷から話を聞いたわ。この分だと違法奴隷商人を何百人と死刑台に送れそうよ」

「そうですか」

「トレントの目撃情報は全て揃えたから持っていって」


 資料を受け取りパラパラとめくる。

 場所はどこもワイバーンの領域だな。

 これは腕が鳴るな。


 ワイバーンの領域まではちょっとした旅だ。

 片道二日は掛かる。

 現地の作業を計算に入れれば全部で一週間ほどの日程になるだろう。




 旅に行く前にマリリに挨拶しとかないと。

 ルシアラ土産物店の前に俺は立った。

 窓の所ではマリリが又、ぼーっと外を眺めている。


 ドアを開けて挨拶して、マリリの所に行く。


「マリリさん、俺、少し旅に出ます」

「そう、さびしくなるわね」


「おい、マリリになんか励ましの言葉を送ってやれよ」


 ルシアラが側に来て言った。


「状況は悪いのか」


「どうやら、相手はマリリを亡き者にするつもりらしい」

「えっ、なんかあったんですか」

「殺し屋が来たんだよ。セシリーンさんが撃退してくれたがな」

「どうしてそんな事に」

「真偽官の手配が済む前に片を付けたいのだろう」


「死んでいれば証拠は後からでっちあげられるって事?」

「そうだな。でも不思議なんだ。失敗したってのに次の手を打ってくる様子が無い」


 ああ、闇ギルド襲撃しちゃったから、次の手が打てないのか。

 元違法奴隷の証人が沢山でると闇社会はもの凄く混乱するかも。

 なら、当分は安心か。

 それにセシリーンは腕が立ちそうだ。




「マリリさん、商業ギルドを通さない商売の種を見つけますから、気を落とさないで下さい」

「えっ、そんなにしてもらうのなんて悪いよ」

「気にしないで、マリリさんには世話になったから」

「それなら、お言葉に甘えさせて頂くわ」


「フィル、今日はうちで飯食っていけよ」

「そうだな、せっかくだから頂くよ」


 ルシアラの店での楽しい夕食は終わり、俺は気合を入れ直した。

 よし、明日からは遠征の準備とマリリの商売の種、探しだ。

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