◆その886 オリハルコンズの再会3

「……お、おいおい、何言ってんだよミケラルドの大将っ。アンタがここに集合って言ったんじゃねぇか」


 呆れ交じり、しかし強烈な重圧プレッシャーに顔を強張こわばらせながらもそう言ったハンに、ミケラルドはわざとらしくポンと手を叩いた。


「おっと、そういえばそうでした」


 いつものようにおどけて見せるも、皆は沈黙を貫かざるを得なかった。

 そう、ミケラルドに一番近いとされるナタリーでさえも……。

 この緊張を最初に壊したのは、ナタリーでも、リィたんでも、アリスでもなかった。


「ミケラルドさん……どうしたんですか! その魔力っ!」


 一気に目を輝かせながらミケラルドに歩み寄ったのは、その場で一番の成長を遂げた勇者エメリーだった。

 ミケラルドの周りをクルクルと周り、正面から、横から、後ろからジーっと見つめるエメリーに、ミケラルドは鼻高々に答える。


「いや~、皆さんを鍛えておいて自分が成長していなかった、なーんて恥ずかしいじゃないですか。だから、私も頑張っちゃいました」

「凄い……以前のミケラルドさんの比じゃない魔力です」


 興奮気味にミケラルドに肉薄するエメリーを、ナタリーとアリスが止める。


「エメリーちゃん、それ以上はダメ……!」

「エメリーさん! 早く離れてください! けがれが!」


 エメリーを引っ張った二人を横切り、リィたんがミケラルドに近付く。


「穢れって……」


 落ち込むミケラルドを覗き込むリィたん。


「ん? どうしたの、リィたん?」

「ミック、何をした? ここにはもう新しいモンスターなどいないだろう?」


 リィたんは飛躍的に成長したミケラルドの魔力に、驚き以上の好奇心を抱いていた。


「ふっふっふ……」


 そう笑いつつも、ミケラルドの視線はリィたんの胸元に釘付けである。


「ふっふっふ……」


 笑いに含みを持たせつつ、間延びし返ってこない答え。


「ミック?」


 小首を傾げるリィたんに気付いたナタリーがエメリーから離れミケラルドに向かう。


「こら!」


 と、ナタリーが叱るも――、


「こらこらナタリー? 今、リィたんとお話中だから」


 珍しくミケラルドも引かない。

 顔をしかめたナタリーは、その隣を横切る少女に全てを託す。


「アリスちゃん、お願い」

「はい」


 ミケラルドがアリスのために造った【聖杖せいじょうアリス】が、創造主へと向けられる。


「ちょ! アリスさんっ!?」

「ここに魔族がいたので」


 成長したアリスの【聖加護】が、ミケラルドに向けられる。

 火を怖がる獣のようにジリジリと後退するミケラルドを、キッカ、メアリィ、クレアが苦笑する。

 ミケラルドが壁に追い詰められる中、ナタリーはリィたんの手を引き、大部屋へと連れて行く。

 いい加減リィたんの衣服を着替えさせるためである。


「アリスさん?」

「何でしょう」


 強い視線と共に、聖杖せいじょうアリスの杖先は未だミケラルドの眼前に置かれている。


「一応なんですけど」

「はい」

「私ってオリハルコンズのリーダーなんですけど?」

「リーダーが規律を乱すと?」

「先程の場合、乱れてたのはリィたんの衣服では?」

「屁理屈は結構です」

「はい、すみません」


 そこまで言ったところで、アリスは異変に気付いた。

 本日、法王国の冒険者ギルドにオリハルコンズを呼んだのはミケラルドである。

 しかし、ここにはオリハルコンズのメンバー全員がいる訳ではなかった。


「あれ? そういえばレミリアさんは?」


 そう、剣聖レミリアがこの場にいなかったのだ。


「あぁ、レミリアさんは既に現地でお待ちです」


 ミケラルドは下ろされた杖を見て、近くのテーブルに腰掛ける。

 そんなミケラルドの言葉に皆一様に首を傾げる。


「「現地?」」

「昨日は一日お休みをあげたでしょう?」

「え? まぁそうだな」


 ハンが言うと、ミケラルドはニコリと笑った。


「という事は皆さんの魔力は全快……まぁ、リィたんはさっきまで色々やってたみたいですが、彼女の場合どうとでもなりますからね」

「……話が見えませんね」


 ラッツの問いに、ミケラルドはラッツではなく別の者に目を向けたのだ。

 その視線の先を追うと、そこにはシェルフの姫――メアリィがいた。

 ミケラルドの視線を受けたメアリィはハッとした様子で、同じエルフであるクレアを見たのだ。

 そして今一度ミケラルドに向き直ると、


「「まさかっ……」」


 そう零したところでナタリーとリィたんが戻って来る。


「そういう事ね」


 ナタリーの補足をするようにリィたんが言う。


「なるほどな、このタイミングでSSSトリプルダンジョンに潜るのか」

「「っ!?」」


 全員驚きはもっともだった。

 オリハルコンズは先日SSダブルダンジョンを攻略したばかり。立て続けにSSSトリプルのダンジョンに向かうなど、誰も予想だにしていなかったのだ。

 そう、ミケラルド以外は。


「ソロでSSダブルダンジョンを攻略出来るラッツさんとハンさん。補助のいろは、、、を完璧に叩き込み、【魔力タンクちゃん】によって魔力総量が底上げされたキッカさん。ランクAながらランクSダンジョンをソロ攻略出来るようになったナタリーとメアリィさん。強靭な足腰と忍耐力を手に入れ、【魔導アーマー】を完璧に使いこなすクレアさん。雷龍シュガリオンに匹敵する力を手に入れたリィたん。龍族を凌ぐ力を身に付けたエメリーさん。そして、オリハルコンズの要――SSSトリプルパーティの中枢を任せられる程に成長したアリスさん…………立会人オブザーバーとして私が付けば、今のオリハルコンズに攻略出来ないダンジョンなんてありませんよ。勿論、レミリアさんもSSダブルダンジョンを攻略出来るように叩きました」

「そ、それにしても……急だよね……」


 尻込みするようなキッカの言葉に、ミケラルドが答える。


「正直、エメリーさんが勇者として覚醒した今、いつ魔王が復活するかわからないんですよ。だから、急というより現時点で後手であるという事はご理解ください」


 ミケラルドがそこまで言うと、キッカは「うっ」と言葉を呑み込んでしまった。


「冒険者ギルドおよびシェルフ族長のローディ殿には既に話をつけてあります。ちゃっちゃと行ってさっさと攻略して霊龍を質問攻めにしちゃいましょう」


 ニカリと笑うミケラルドに賛同の笑みは少なく、引き攣って硬直する者ばかり。

 だが――、


「うん、行こう!」


 エメリーが賛同し、


「行きましょう!」


 アリスが賛同を見せると、ラッツとハンが覚悟を決めた。否、男として決めるしかなかった。これを受けたキッカが折れ、苦笑したナタリーとメアリィが折れる。クレアがメアリィにひざまずくと、ミナジリ共和国の守護龍がドンと胸を叩く。


「……ふっ、面白いじゃないか」


 全員からの賛同が得られたところで、ミケラルドがくすりと笑う。


「それじゃあ行きましょうか」


 かくしてオリハルコンズはSSSトリプルダンジョンへと向かうのだった。

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