その877 寂しい休日

『そうですか、オリハルコンズが遂にSSダブル認定を受けましたか』


【テレパシー】で話していた相手は法王クルス。

 そのクルスから俺はオリハルコンズの近況を聞いていた。


『あぁ、冒険者ギルドが正式に公布した。アーダインの苦労は容易に想像出来るが……』

『はははは、内部からオリハルコン贔屓びいきなんて言われてそうですね』

『武闘大会からそう経っていないにもかかわらず、集中的にランクが上がれば不満もあるだろう。が、その不満を一蹴する出来事があったんだ』

『え? そんな事あったんですか?』

SSダブルダンジョンの攻略した翌日、ランクSパーティであるあの【青雷せいらい】が冒険者ギルドに不服を申し立てた』


 青雷って、確か強さこそ申し分ないものの、イマイチ向上心に欠けるパーティだったよな?

 リーダーで槍使いの【エイジス】、タンクの【ウルト】、細剣使いの【アッシュ】、女魔法使いの【ホルン】。ここに闇人やみうどの【タヒム】が加わってパーティ活動をしていたはずだ。

 まぁ、あの後タヒムは契約更新時に抜けてもらってミナジリ共和国に来てもらってるし、ホルンなんかゲラルド君の護衛の仕事をしてたようだし、あまり記憶に残ってないんだよな。


『それでどうされたんです?』

『キッカ君とハン君がこれに乗ってな』


 あぁ、そういう展開か。

 あの二人も青雷に浅からぬ縁というか、不満というか、まぁそういうのがあっただろうしな。


『でも、オリハルコンズ相手だと青雷は厳しいんじゃ?』

『いや、受けたのは【緋焔】だ』

『えっ、ラッツさん、ハンさん、キッカさんの三人っ? 四人相手の喧嘩に乗ったんです?』

『その通りだ。まぁ、喧嘩というよりかは、ギルドの目が曇っていないという証明のような感じだったらしいがな』

『大丈夫だったんです?』

『圧勝だったそうだ』

『どちらの?』

『わかってて言ってるだろう?』

『いえ、念のため確認を』

『ラッツ君はいつも通りだったみたいだが、キッカ君とハン君の方が勝った事に驚いていたそうだ』


 やっぱりガンドフまでのあのデスマーチが効いたんだろうな。

 出発前と到着後だと、魔力の質が別人になってたし、そもそも、ランクS、SSダブル共に攻略した後だろうに。

 一人多いだけの向上心のないランクSパーティが勝てる道理がない。


『ははは、面白い話を聞かせてもらいました』

ガンドフそちらはどうだ?』

『軟禁状態ってところですかね』

『はははは、今や世界一忙しい人物といっても過言ではないからな、ミックは。ナタリー殿の配慮だ、休める時に休んでおけ』

『そうさせてもらいます』

『うむ、では私も執務に戻る。夜にはクリスと訓練もあるからな』

『え、鍛えてるんですか?』

『老いぼれの身なれど、一人でも民を救えるのであれば、わが身を磨く意味も見出せるというものだ』

『王様みたいじゃないですか』

『良い言葉だろう? 年老いた時に使わせてやろう。もっとも、その時にはもう私はこの世にはいないだろうがな』

『ははは、考えておきます』

『ではな』


 そう言って、法王クルスは俺とのテレパシー談話を終えた。

 それまで俺はベッドの上で女豹のポーズをとりながら、最高品質の布団にくるまり、ただボーっとしていた。ストレッチにはいいのだが、テレパシーを使ってるとどうも他のポーズをとれないのが難点だ。

 ベッドに仰向けになり、見慣れない天井を見つめる。


「うーむ……暇じゃね?」


 普段は休みが欲しい欲しいと思いながらも、いざ休みが出来たら何をしていいかわからない。現代地球であれば娯楽も沢山あろうが、この世界ではそうもいかない。

 何とも寂しい休日である。


「魔王の尖兵……か」


 今回に関しては不可解な点が多かった。

 十体現れた尖兵の内、九体の尖兵を古の賢者が倒した。

 正直、アレが十体現れていたならば、今頃ガンドフは崩壊していただろう。だからこそ気になる。

 何故、観測者気取りの古の賢者が、俺たちを助けるような真似をしたのか。

 何故、魔導アーマーミナジリの存在を、古の賢者は知らなかったのか。

 そもそも、俺たちを助けなければ、魔導アーマーは生まれなかったはず。十体の尖兵を相手にしていたら、そんな暇はないからな。

 だが、古の賢者は動き、九体の尖兵を倒した。

 それが必然であるかのように。

 ならば、九体の尖兵を倒す事は予め決まっていたという事。

 ……という事は? あの尖兵と戦うまでに起きた、俺たちの変化が原因なのだろうか。いや、もしかしたらもっと根が深いのかもしれない。

 幾重にも渡る分岐点が、俺たちを魔導アーマーという結論こたえに導いた。

 ……ヤツは一体何を知っている? ヤツは一体何者なんだ?

 怖い。非常に怖いな。

 ふと、スパニッシュちちうえの散り際の言葉が脳裏をよぎる。


 ――魔王様が復活し、私が更なる覚醒を経た時、我らの力は龍族を超えるのだっ!


 尖兵の強さでアレなら……もし四天王が生き返りでもしたら……魔王の力が霊龍をも超える力だとしたら……。

 俺は肩を震わせ、膝を抱く。


「おーこわ」


 俺は備えなければならない。

 差し当たって出来る事はといえば……、


「【フルデバフ】行使しつつ筋トレくらいしか思い浮かばないな」


 そんな事をポツリと呟き、俺は地味なトレーニングを開始するのだった。

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