その774 前払い
心配するアリスからの進言。
俺は彼女たちに余すことなく伝える事にした。
何故なら彼女たちは、オリハルコンズのメンバーなのだから。
「そうですね、おそらくこの後世界から糾弾されると思うので、民意が流されないようにして欲しいですかね」
『え、どうして魔族四天王を倒すのに……?』
「それは――」
と思ってたら、別の【テレフォン】が反応した。
くそ、キャッチ機能は魔法じゃ難しいから、別回線を用意していたのが仇となったか。
しかし、その【テレフォン】は同じオリハルコンズのメンバーからだったのだ。
『ミケラルドさん……?』
質問の返答がなかった事に疑問を持ったのか、エメリーが聞いてきた。
「えっと……そこには三人だけですよね?」
『え、えぇ。そうですけど?』
「今、メアリィさんから【テレフォン】がかかってきて……」
そこまで説明すると、キッカがくすりと笑って言った。
『あ、それじゃあメアリィは私が呼んできますよ。この時間だから誘いづらかっただけだし』
まぁ、彼女は王族と言っても過言じゃないしな。
オリハルコンズのメンバーだったとしても、誘いづらいのは仕方ないだろう。
しばらくすると、キッカがアリスの部屋にメアリィとクレアを連れて来た。
『ミケラルドさんっ!』
『メアリィさん、シーッ!』
アリスの部屋、ぎゅうぎゅう詰めだろうだな。
『ご安心を、私が音の遮断をしましたので』
クレアは風魔法の使い手、最初から彼女たちを呼んでいればよかったのかもしれない。
「ダンジョン以来ですね」
『そちらは大丈夫なんですか?』
「えぇ、ただ明日からは忙しくなります」
『魔族四天王の殲滅に動くとお爺さまから伺いました。勝算はあるんですよね……?』
「え、楽勝ですよ?」
心配の声に、まるで問題にもならないかのように答えると、メアリィからは苦笑しか返ってこなかった。
『あ、あははは……そこまで簡単に言われてしまうとは思ってませんでした……』
「そもそも、あの人たち、ミナジリ共和国に直接攻撃仕掛けて来ないんですよ。まぁ、龍族が二人いますし、
『お爺さまは言ってました。「ミケラルド殿があそこまでなりふり構わない行動をするという事は、それだけの確信があるという事だ」と。詳しくは聞かせてもらえませんでしたが、そういう事なんですね』
「えぇ、思うところがありまして」
そこまで言うと、メアリィではなくキッカの噴き出しそうな笑い声が聞こえてきた。真面目な話だったつもりだが、何がキッカのツボを刺激したのだろう?
「どうしました、キッカさん?」
『だ、だって……アリスが話したそうに何度も話す機会を窺ってるのが面白くて……!』
腹を抱えて笑ってそうだ。
『ち、違いますっ!』
『えー、何が違うのー?』
『違うったら違うんですーっ!』
そんなやり取りの中、隙間を縫うように声を掛けてきたのは勇者エメリーだった。
『お力になれず申し訳ありません、ミケラルドさん』
「いえいえ、エメリーさんには魔王退治の準備をしっかりやってもらいますから」
『はい! でも、その時はミケラルドさんも……!』
「えぇ、サポートはお任せください」
『それだけで私……頑張れると思います!』
「あ、え……はい」
ちょっと意外なエメリーの発言だった。
それだけ頼りにされていたのか……気付かなかったな。
『あ、エメリーさん! 何勝手に話してるんですかっ!』
『え、でもアリスさん、キッカさんとずっと喋ってたから……』
『すぐに終わりましたよっ!』
頬を膨らませて怒っているアリスが容易に想像出来る。
『と、とにかく! …………何でもないですっ!』
とにかく何でもないそうだ。
【テレフォン】越しに何かを叩くような音が聞こえた。
きっとキッカが笑いながらテーブルをバシバシ叩いてるんだろう。
「キッカさん、アリスさんの発言の意図がわからないのですが、わかります?」
そうわざとらしく聞くと、キッカは嬉しそうに教えてくれた。
『アリスは「何があっても私はミケラルドさんの味方だ」って言いたかったみたいですよ? 連絡する前に「それだけは伝える」って意気込んでましたから』
『ち、違っ!?』
『えー、そう言ってたよね、エメリー?』
『はい、言ってましたねっ! ふふっ』
キッカもエメリーも、アリスをからかってらっしゃる。
本当にアリスはわかりやすい性格をしている。
「え、じゃあ何が違うんですかアリスさん?」
こうして二人に乗る俺も大概だけどな。
『くっ! 相変わらずいい性格してますね、ミケラルドさんは!』
「お褒めに与り光栄です」
『そういうところですよ!』
音の遮断をした途端にいつもの調子を取り戻したな。
だが、この言い方がとてもアリスらしい。
「じゃあ、キッカさんが言ってた事以外で何かあります?」
『ぶ、無事に帰って来てください! 私が言いたい事はそれだけですっ!』
半ばやけくそ気味のアリスの激励だったが、おかげで少なからずあった緊張はほぐれた。
俺は彼女たちに感謝しつつ、そんな場を用意してくれたナタリーにも感謝を伝えたのだった。
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