その749 資源
「世界流通の中心がミナジリ共和国になる……だと?」
睨む訳でもなく、怒る訳でもなく、ただ純粋な疑問としてリルハは、テーブルに地図を広げる俺に聞いた。
「現在ミナジリ共和国は、シェルフとリーガル国に挟まれています。シェルフの国境こそ遠いものの、リーガル国境はミナジリ共和国の目と鼻の先。国土を拡げるには、シェルフ側の森を切り開く他ありません」
「だろうな」
「対して、法王国の国土は非常に広く、
そこまで説明すると、リルハは俺の意図を全て読み取った。
「なるほど、法王国の西や南。ガンドフの南――ジュラ大森林より更に南まで行けば、その資源は膨大。転移魔法があるミナジリ共和国ならではの考え方だな」
流石、商人ギルドのギルドマスターだ。
「だが、見知らぬ領土には危険が付き物だ。ミケラルド殿の武力があろうと、それを成す事は容易ではない。だろう?」
そして、懸念事項も理解している。
「えぇ、なので、最初は簡単なところからやってしまおうかと」
「簡単なところ?」
小首を傾げるリルハに、俺は地図上の指をジュラ大森林の北、ガンドフの更に北を指差した。
「っ! そこはっ!」
「【魔界】っていう場所なんですけどね? よくわからないんですけど、誰も領土を主張していないんですよ」
そう笑って言うと、隣のロレッソが額を抱えてしまった。
ペインは俺の言葉に絶句していた。
「これまでずっとやられっぱなしでしたけど、そろそろ反撃に転じた方がいいかなと思いまして」
「魔界を侵略するつもりか?」
「魔界でも物資は必要でしょうから、その拠点を奪い取ろうという算段です」
「まるで盗賊か山賊のような発言だな」
「それは否定しませんよ」
肩を
「敵の資源や物資を奪い、その戦力を削ぐ……当たり前の事だが、今までガンドフがそれをやらなかったのは、魔族からの報復を恐れたからだ。それはわかっているな?」
「えぇ、ウェイド王には近々作戦を説明する予定です。魔界とガンドフの間にミナジリ共和国の領土があれば、リプトゥア国やガンドフは喜ぶと思うんですけどね」
「実現が成ってからだ」
「でしょう? 早いところ、ガンドフと条約でも交わしたいところです」
ニコリと笑って言うと、リルハはペインと顔を見合わせた。
ペインも事の重大さ以上に、その将来性のある利益に頷いていた。副ギルドマスターが同意したのだ。
この会談に足を運ぶという選択をしたリルハが反対するはずもない。
「わかった。商人ギルドのミナジリ支部……持ち帰って幹部連中と会議しよう」
「ありがとうございます」
そう言って俺は立ち上がり、リルハと固い握手を交わしたのだった。
ペイン、リルハを法王国へ送った後、ロレッソが服をパタパタとさせ、服の中に風を送っていた。
「どうしたんだい、ロレッソ君? 珍しくはしたないじゃないか?」
「肝が冷えました。それに、嫌な汗を沢山かきましたよ……」
「【クリーンウォッシュ】使おうか?」
「いえ、こういう体感は出来るだけ残しておくのが私の信条です」
「へぇ、殊勝だね」
「ミケラルド様と行動を共にした場合、全てが焼け野原になったとしてもおかしくありませんから。なかった事にするのと、なくす事は違うというだけです」
物凄く遠回しに怒られた気がする。
まぁ、いつものロレッソの嫌味とそう変わらないか。
「しかし、昨日あの話を聞いた時は本当に驚きました」
「【魔界しっぽりがっぽり作戦】の事?」
「作戦名が軽いと感じられた事はございませんか?」
嫌味は続くよどこまでも。
「軽薄とさえ感じます」
「元首の感性が理解出来ていないようだね、ロレッソ君」
「その感性を改めさせるのが私の仕事です」
「まずいかな? 法王国から追い出されちゃったから、プリシラと約束した【魔王速攻復活計画】も周りの国に相談しづらくなったし、聖女アリスを動かせず、国境という線引きがある以上、今は根回ししか出来ないだろう? 国単体で動けるのなら、直接魔界に行くのが正解だと思ったんだよ。リィたんや
「いえ、悪いという事はありません。事実、あのお二人がミケラルド様の要求を呑んだ理由はそこにありますから」
「そう? ダイヤモンドと【魔力タンクちゃん】だけで動かしたかったけど、他は出せないし、構想段階でもそれを話しとけば武器になると思ったから一応言ったのが功を奏したか」
「おそらくこれで商人ギルドは動かざるを得ないでしょう。ガイアス殿への話も通し、残るはガンドフへの提案、ですか。
「それにはちょっと心当たりがある」
「ほぉ、それは良い事です。しかし、まずは明日ですね」
そう零すように言ったロレッソが顔を曇らせる。
まぁ仕方ない。俺たちが呼んだとはいえ、近々で二回の訪問だしな。
「……オリヴィエ殿かぁ~……」
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