◆その725 大暴走14

 大暴走スタンピードの前日、ミケラルドはシェルフのダンジョンの最下層で、龍族の長――霊龍と会った。

 そのダンジョン報酬。

 三つの内、ミケラルドから霊龍へ投げかけた最後の質問。


 ――俺の中には一体何がいるんだ?


 霊龍からの返答は、単純明快だった。


「俺の中には何もいない。なるほど、だから霊龍はあの時あんなに迷っていたのか……!」

「ソウイウ事ダ。オ前ノ中ニ私ガイルノデハナイ」

お前の中に、、、、、……俺がいる、、、、


 ルークがそう言うと、ミケラルドがニヤリと笑う。


「ヨウヤク気付イタカ……異界ノ木偶デクガ……!」

「木偶呼ばわりされるなんて心外だな……」

「意外ニ冷静ジャナイカ……イヤ?」


 言いながらミケラルドがくすりと笑った。


「ポーカーフェイストイウヤツカ……ワカルゾ? オ前ノ身体ガ教エテクレル。不安デ不安デ仕方ナイトナ。自分ガ世界ニトッテ、トルニ足ラナイ存在ダト気付キ、恐怖ニオノノイテイルトナァ?」

「……俺の顔で薄気味悪い笑みを浮かるなよ。気持ち悪い」

「気持チ悪イ? ドノクチガ言ウ? 私ニトッテ何ヨリモ気持チ悪イノガオ前ダ」

「は?」

「世界ヲ手ニ入レラレルダケノ能力チカラガアリ、何故ソレヲ行使シナイ?」


 ルークが首を傾げる。


「どういう事だ?」

「全世界ノ人間、魔族、モンスターヲ問ワズ、ソノ血ヲ得ヨウトセズ、怠惰タイダニ時ヲムサボル。何故勇者ノ血ヲ得ヨウトシナイ? 何故聖女ノ血ヲ得ヨウトシナイ? 何故法王ノ血ヲ得ヨウトシナイ? オ前ガソノ気ニナレバ、世界ノ統一トウイツ一瞬イッシュンダトイウノニ」

「黙れ! 世界は俺の物じゃないんだよ!」


 そうルークが声を荒げるも、ミケラルドは嬉しそうに反応した。


「ソウ、ソレニハ私モ同意ダ」

「……どういう事だ?」

「世界ハ……コノ私ノ物ダカラナ……!」


 瞬間、強力な闇の魔力が吹き荒れる。

 ミケラルドのものではない魔力は暗雲を呼び、ルークは一瞬で呼吸を遮られた。


「っ! カハッ……!?」

「カカカ、分裂体ヲ人間ニ寄セ過ギタナ……! ヌン!」

「ガッ!?」


 正面にあった魔力が弾け、北に向かって吹き飛ばされるルーク。

 未だ止まぬモンスターの波を止めるため、北ではミナジリ共和国軍が、土で出来た城塞の上から魔法攻撃を続けていた。

 そんな中、上空からルークが落ちてきた。

 簡易設置された軍幕の下で、ナタリーが目を丸くする。

 大地を穿つ程の衝撃。大きなクレーターの下に駆けつけたナタリーが叫ぶ。


「ルーク!? 何してるのっ!?」

「ちょっとピンチかも……」


 苦悶の表情を浮かべるルークを見て、ナタリーはルークが落ちて来た方を見上げた。


「……ミック?」


 しかし、ナタリーはその様子を見てすぐにかぶりを振った。


「ううん、あれは――」

「――ミケラルドさんじゃありません!」

「ミックじゃない!」


 被った声は、ナタリー、そして聖女アリスの声。

 クレーターに降り、ルークを支えるアリス。


「あれ、アリスさん早いですね? 成長したんじゃないです?」

「質問してる場合ですか!? 何ですか、アレ!?」

「私の黒歴史みたいなものですよ」


 ミケラルドを見上げ、冗談を言うルークだったが、アリスは何も返せずにいた。

 何故なら、ルークには既に力などなかったのだから。

 全体重を預けなければ立てないルークに、アリスは何も言えなかったのだ。


 上空では、世界から魔力を集めるミケラルドがニヤリと笑う。


「イイゾ、ミケラルドノ肉体ガ我ガ魔力ニ近付イタガ故ニ、コレダケノ自由ヲ得タ」


 ルークを見下ろすミケラルドが呟く。


「ソノ点ニ関シテハ感謝シヨウ」


 悪魔的な笑みを浮かべるミケラルドは、更に魔力を集め始めた。

 そしてそれは――、


「嘘っ!?」


 ナタリーは周囲を見渡し、仲間から漏れ出る魔力を見る。

 それを見たルークがナタリーに言う。


「魔力の弱い者から吸ってるみたいだね」

「それじゃ北も危ないって事じゃない! どうしようルーク……!」


 低ランクの冒険者や騎士や義勇軍、彼らの魔力が徐々に減っていく。次第にしゃがみ、倒れる者までいる中、ルークたちに成す術はなかった。


「「私たちに任せろ」」


 三人がその声に振り返ると、異変に気付きやってきた三人の魔法使いがいた。


「法王陛下! それに、リルハさんにヒルダさん……」


 アリスが驚くも、それに構っている場合ではなかった。

 クルスたちは見合い一度頷くと、北のミナジリ共和国軍上空に魔力の結界を作って見せた。

 それと同時に、北から魔力が吸い取られる事はなくなったのだ。

 それを見たミケラルド。


「チッ、邪魔ナ奴ラダ」


 三人に対して向けられた手から放出される、高密度の魔力砲。


「ぐぁ!?」

「「あっ!?」」


 結界は一瞬にして砕け、法王クルス、リルハ、ヒルダが吹き飛ばされる。


トドメダ……」


 ミケラルドが追撃を放とうとした瞬間、


「グッ!?」


 突如、ミケラルドの動きが拘束された。

 両手含む胴周りに見える闇の鎖。その闇はミケラルドの背後に続いていた。

 そこにいたのは、豊かで長い白髭と髪、ウィザードハットを被った世捨て人風の老人だった。


「あれは……!」


 ルークが零した言葉と、


「オ、オ前ハ……!?」


 ミケラルドの言葉。

 そして老人は言う。


「何も言うなよ? こっちでは今、古の賢者、、、、って事になってるんだからな」


 大暴走スタンピード最中さなか、ミケラルドの謎が一堂に会した瞬間だった。

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