◆その580 開口一番
ミケラルドが
「……何ですか、そのモンスターでも見るかのような目は?」
「く、口から何か出るのか……?」
まるで、ミケラルドがこれからする事を理解していない様子で木龍が言った。
「ブレスを少々
木龍が小首を傾げる。
「ブレスを吐く吸血鬼なんて聞いた事がないな」
「土産話にどうです?」
「雷龍シュガリオンなら笑いそうだな」
「ははは……是非。それで、やるんですよね?」
「無論だ」
再び扉に視線を戻した木龍とミケラルド。
極めて濃密で重厚な魔力が、ミケラルドの口に、木龍の手に収束していく。
木龍の手から放たれた極大の風魔法【エアリアルバレット】。ミケラルドの口からは
――直後、世界が揺れた。
【サイコキネシス】により宙に浮くミケラルドが、眼下から浮かんでくる木龍に言った。
「何ですか、あの魔法? 私と戦った時、あんなの出さなかったでしょう?」
「それはこちらの台詞だ。何だあのブレスは? 龍族すら屠れる威力だぞ?」
互いに皮肉を言い合うも、それは長く続かなかった。
崩れ去る山を見る木龍の鋭い視線。
「おい、何だこれは?」
「困った事に悪いフラグが立っちゃったんですよ」
「フラグ……?」
小首を傾げる木龍。
そんな中、ミケラルドは先程の会話を思い返していた。
【炎龍よりって事は……エレノアか魔人、か】
【或いはその両方か】
【やだな、怖い事言わないでくださいよ】
【その二人は仲間だったはずだろう】
【一緒にいないってのは魔力の反応でわかりますから】
【分裂体が殺されている可能性は?】
【それも魔力反応でわかります】
【ふむ、杞憂だといいのだがな】
乾いた笑いを浮かべるミケラルド。
(なーんでこうなっちゃうのかね?)
そして、木龍と同じようにミケラルドも首を傾げたのだった。
そう、二人が感知した魔力は二つ。
未だ燃え続ける山の中から二人を威嚇するような強い魔力。
「一つはエレノア」
「もう一つは……魔人という事か」
やがて、
「あれを防ぎます、か」
「無傷ではない。それに、それ相応の魔力を消費している。叩くなら今だな」
球体の中にいたのはエレノアと魔人。
エレノアは静かに拠点だった洞窟を見下ろし、魔人はミケラルドに強い殺気を向けている。歯をギリギリと鳴らし、今にも襲い掛かるかのようだ。
それを涼しい顔で見るのがミナジリ共和国の元首、ミケラルド・オード・ミナジリである。
「こんばんは、少々ガサツな
「き、貴様……!」
ミケラルドの煽りは的確に魔人の尾を踏んだ。選んで踏んだと言うべきかもしれない。
これを受けた魔人が怒りを露わにする。
空間すら歪ませる魔人の魔力を見て、木龍が言った。
「強いな、人間にこれ程の実力者がいるとは思わなかった」
「でしょ? どちらをやります?」
「しれた事」
「え?」
木龍の言葉の意図が理解出来なかったミケラルド。
しかし、木龍は的確にミケラルドの真なる願いを言い当てたのだ。
「先程からチラチラとエレノアを見てるではないか? 私が魔人、ミケラルドがエレノアだろう」
そう言われ、ほんのりと頬を赤らめるミケラルド。
(……美女にはついつい目がいっちゃうよね)
エレノアを見つつ微笑むミケラルド。
やがてエレノアが眼下から視線を正面に移す。
魔人とは違い冷静な声で二人に言う。
「まず、我々の隠されたアジトを見つけ出した事は称賛に値します。私と彼に気付かせず地龍を救い、あまつさえ容赦のない一掃攻撃。見事と言う他ありません」
「それはこちらの台詞ですよ。長らく法王国に巣食ってた闇の親玉がまさか――魔族四天王の【魔女ラティーファ】だったなんてね」
「「っ!?」」
ミケラルドの指摘にエレノアと魔人が反応を見せる。
「どういう事だ、聞いてないぞ?」
木龍がそう言うも、ミケラルドは肩を
「カマをかけたんですよ。
ニヤリと笑うミケラルド。
「やはり、あの時生かして返すべきではなかったな……!」
魔人の言葉にピクリと反応するミケラルド。
「良い感じの痛み分けだったと記憶してますが?」
「命に代えても殺すべきだった」
「もうちょっとその命を世界の平和に使ってもらいたいものですね」
「何を言おうと、この私がお前に降る事はない」
「とか何とか言ってますけど、今日のあなたの相手は私じゃありませんから」
ミケラルドは隣にいた木龍を指差していた。
しかし、その木龍は既に行動に移っていたのだ。
木龍が空を蹴った直後、魔人の腹部には強烈な鈍痛が響いた。
「っ! ぐぉ!?」
吹き飛ばされる魔人。
木龍とエレノアの視線が一瞬交わるも、木龍は魔人へ、エレノアはミケラルドへ視線を戻す。
法王国から遠い西の夜空。
この時を
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