その563 久しぶりのダンジョン攻略3

 SSダブルダンジョン攻略二階層。

 何とも贅沢なモンスター構成である。

 相手は【ゴブリンファントム】と【マスターオーク】。どちらもSSダブルランクに位置付けされている強敵……というより難敵だ。

 肉弾攻撃をした場合、ゴブリンファントムは以前戦った幽霊のように透過するし、狭い通路で振り回すマスターオークの鉄槌攻撃は非常に厄介である。

 ゴブリンファントムは薄汚れた白い布を纏った人間大のゴブリン。

 マスターオークは鉄槌を持った豚鼻アーダインだ。

 この二種モンスターがコンビを組んで現れた場合、その難度はSSSトリプルを超える。イヅナが二階層を攻略出来ず引き返した理由――ひたすらマスターオークが槌の乱打をし、ゴブリンファントムがその攻撃の隙を埋める。しかし、ゴブリンファントムには透過能力があるのでマスターオークの攻撃すらも透過してしまうのだ。つまり、マスターオークはゴブリンファントムを気にせず鉄槌を振れるし、ゴブリンファントムもそれを利用して無数の死角を作ったり出来るのだ。

 マスターオークの振った鉄槌がゴブリンファントムの背を透り抜け、俺に向かう。受けに成功したとしても鉄槌の上を走って飛び膝蹴りを放って来るゴブリンファントム。

 そしてここはダンジョン。モンスターが二体だけで登場するなんてあり得ないのだ。

 俺が個人的に嫌なのはマスターオークが一体、それにゴブリンファントムが三体の構成である。こんな状況で対処出来る冒険者パーティがいるのか、と疑いたくなるような猛攻である。


「ま、今回は正攻法かな」


 そう言って、俺は先程会得した固有能力【超粘糸ねんし】をマスターオークの鉄槌に向けて放った。粘度の高い糸である。振り払おうとしても鉄槌には付着してしまう。

 それが壁にでも当たってしまえば、マスターオークは壁に張り付いた鉄槌を引き剥がすために躍起になるのである。

 その隙に、水魔法【金剛斬】を放ち、ゴブリンファントムを牽制。

 鉄槌と格闘中のマスターオークの腕目掛けて、今度は【超鋼糸こうし】を放つ。


「ガァ!?」


 壁にステープラーでステープルを打ち込まれたかのようにガッチリ腕を固定されるマスターオーク。後は残りのゴブリンファントムを煮たり焼いたりするだけである。

 一階層は肉体的スぺックを、二階層では物理と魔法攻撃、そしてその対処を求められるモンスター構成。

 冒険者を叩くならこういう構成だよね! と、高みの見物をしている感じの霊龍思想にやれやれと思いつつ、俺は二階層攻略に励んだ。


「ゴブリンファントムからは【幻影化】、マスターオークからは【脚腕きゃくわん超同調】。いいね、どちらも超優秀じゃん」


【幻影化】は戦闘用透過能力。【脚腕きゃくわん超同調】は脚力と腕力を更に向上させた【脚腕きゃくわん同調】である。おそらくこの段階をもって、俺は魔人を超えたと言えるかもしれない。

 だが、それでもまだ僅差だろう。この先三階層、四階層と、しっかり攻略していけば、明日の闇ギルド集会では……もしかすると行動を起こせるかもしれない。


「やっぱり宝箱には【魔導書グリモワール】……か」


 報酬はこれまでのダンジョンの使いまわし……と言えば聞こえは悪いが、ここに潜れば全て簡単に手に入れる事が出来るという事でもある。

 最早もはやモンスターの討伐数で宝箱の中身が当たり、ハズレと言ってる段階ではないのだ。何故ならここはSSダブルダンジョン。黙っててもモンスターは俺を見つけ、襲ってくるのだから数が足りないなんて事にはならないのだ。

 魔導書グリモワールを闇空間に入れ、三階層へ潜る。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 なるほど、三階層は環境への対応か。と、一面に広がる銀世界を見つめ、俺は強く思い、そして言った。


「寒いっ!!」


 何を隠そうこのミケラルド・オード・ミナジリ――寒さに対する能力を持っていないのだ。

 火魔法【フレイムボール】を強制的に自分の周囲に留め、暖をとっているものの、いかんせん目立つし燃費もよろしくない。


「早速見つかっちゃったよ」


 走って近付いて来るのは無数のいのししの群れ。

 メタリックな体表に見えるが、あれは銀の体毛?

【鑑定】でチェック。


 アイスエレメンタルボア

 ◆魔法◆

 水魔法:アイスウォール・アイスランス

 ◆固有能力◆

 氷耐性・氷雪歩行


「おぉ! やっぱ冒険者都合にあったモンスターって必要だな!」


【アイスエレメンタルボア】か……魔力量的に見ても二階層の二種と何らかわらない。SSダブル相当のモンスターと見て間違いないだろう。

 アイスエレメンタルボアは俺を発見するなり遠方からアイスランスを発射。三、四十匹から発動される魔法は脅威だが、火魔法【フレイムウォール】があればなんの事はない。

 問題は接近戦である。

 奴らは俺が近くなると、全員で正面にアイスウォールを繰り出した。

 そして、自らの鼻先でそれを吹き飛ばしたのだ。


「うぉっ!?」


 なるほど、遠方からはアイスランスで狙撃。近距離ではアイスウォールを張って壊し、おれに対し散弾攻撃と……面白い。

 SSダブルのモンスターともなれば、戦い方に一癖も二癖も出て来る。

 環境含め、この対応含め、冒険者の成長を促す……いや、この段階の強さともなれば勇者パーティのために設けられたと思った方がいいかもしれない。


「よし、【アイスウォール】、【アイスランス】、それに【氷耐性】と【氷雪歩行】ゲット!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る