その506 合流地点

 毎度毎度カンザスに会うために木に暗号を刻むのは、中々の自然破壊ではなかろうか。そんな環境問題を考えながら、デューク・スイカ・ウォーカーの姿でカンザスを待っていたが、俺の前には、拳神ナガレが姿を現わしたのだった。


「意外ですね。それとも信頼されたという事でしょうか」

「ふん、アタシも暇じゃないんだ。時間を無駄にしたくないだけだよ」


 まぁ、カンザスより早く現れたからといって、信頼されたという訳じゃないよな。


「そろそろ時間ですね」

「カンザスが時間に遅れた事は一度もないよ。……ん?」


 ナガレが闇色の空を見上げる。

 どうやらカンザスがやって来たようだ。

 木からすとんと着地したカンザスが立ち上がり、「ふぅ」と言いながら髪をかき上げる。何ともキザな登場である。今度真似してみよう。


「カンザスにしては遅かったね? 報告かい?」


 報告とは、おそらくカンザスからエレノアへの報告という事なのだろう。


「えぇ、やっぱりというかなんというか、どうやら木龍グランドホルツを発見したらしいですよ」


 カンザスがそう言うと、ナガレが目を見開いて言った。


「へぇ……餓鬼にしてはやるじゃないか、あのパーシバルって奴」


 報告したのは当然任務に関わっていた破壊魔はかいまパーシバルだ。そろそろ報告しないと怪しまれるとでも思ったのか、それともグラムスの判断か。


「どうやら違うようです」

「はぁ?」

「どういう事です?」


 俺が聞くと、カンザスが事の詳細を説明してくれた。


「パーシバルの報告じゃなく、発見したのはガンドフに向かう旅の商人だって話だよ。つまり、奴はディノ大森林を出て来たって訳だ」

「どこへ向かってるんだい?」


 ナガレの質問にカンザスが答える。


「西に真っ直ぐという話です」


 なるほど、行先は法王国か。

 ならば、その報告をグラムスたちはえて俺にしなかったと考えるべきか。


「法王国に一体何の用があって来るのかねぇ」

「今、法王国には水龍リバイアタン、炎龍ロードディザスターがいます。エレノアの話では彼らに会いに行くのではないか、と」

「はっ、法王も真っ青な魔境になりそうだね」


 ナガレが嬉しそうに言うと、カンザスは肩をすくめて言った。


「正直、僕はおっかないですよ。ここ百年表舞台に姿を見せなかった龍族がこの一年でここまで表に出ているんですから」

「それもこれもミケラルドが建国してから……」

「だねぇ。デューク君は何か収穫はあったかい?」

「荷運び員として調べられるだけは調べたつもりです」


 懐から取り出した紙をカンザスに渡す。

 カンザスとナガレはそれを覗き込み、しばらくすると俺を鋭い目つきでにらんだ。


「こりゃ一体どういう事だい……?」

「冒険者基準のランクで書かれてるのは分かりやすいけど、どれもこれもZ区分ゼットくぶんなんて意味がわからないね」


 ナガレとカンザスの言葉はもっともである。

 何故なら、ミケラルドの弱点を見つけ出したロレッソの情報を下に、俺がその弱点を潰したのだから。


「まず、エメラとクロードですが、ミナジリミュージアムの設立のため、現在はミナジリ共和国に戻っています。施設の準備具合から察するに、しばらくミナジリ共和国から離れる予定はないでしょう。当然、ミナジリ共和国も彼らが重要人物として理解しているようでジェイル率いる警備隊の保護下に置いています。次にミケラルドの友人のク……マックス。シェンドの町の警備でしたが、昨日付けでミナジリ共和国のリーガル大使館勤務となりました。大使館の周囲の警備はドゥムガの部隊が担当し、ジェイルも確認しに行く程です。ミケラルド商店のカミナは……あなたたちのが詳しいのでは?」


 カンザスとナガレが見合う。


「確かに、カミナは神出鬼没ですね」

「おそらく複数の町に転移出来るんだろうね……なるほどね、多くの逃げ道を残されている以上、誘拐は難しいねぇ」


 そう、我々闇人やみうどはミナジリ共和国に手を出せないのだ。


「思うに、ミケラルドは既に我々の事を看破しているのでは? ク……マックスの異動が良い例です。あんな事、国を通さずして都合良くいくはずがありません」

「……どうするんだい、カンザス?」


 俺の意見に納得せざるを得なかったナガレが、カンザスに聞く。

 すると、カンザスは深く溜め息を吐いてから言った。


「仕方ない、彼女、、を使いましょう」


 闇人やみうどがミナジリ共和国に手を出せないのであれば、他の実力者を使う他ない。そしてカンザスが言う「彼女」とはすなわち――地龍テルースの事である。


「彼女?」


 当然、俺はその存在を知らない。

 リプトゥア国との戦争時、テトラ・ビジョンで地龍の姿を見たとしても、それが闇ギルドの所属だったのかは、視聴者側にはわからない事なのだ。

 カンザスがすっと手をあげる。これはテルースへの合図だろう。


「っ!」


 腰を落とし武器を構える。

 この武器の先に、彼女がいるからだ。


「デューク君、もしかして僕より強いんじゃない?」


 気付くふりが早すぎただろうか?

 まぁ、SSSトリプルの領域は出ていないはずだし大丈夫だろう。

 ニヤリと笑って言ったカンザスに、俺は警戒を解き答えた。


「あの方は?」


 答えられたのは、闇夜の中その輪郭を捉える事が出来たから。


「地龍テルース、闇ギルド所有の龍族さ」


 こうして俺は、ようやく地龍テルースに再会する事が出来たのだった。

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