その491 シギュンからのお誘い
「おい、ミック」
「何でしょうクルス殿」
それは、イケ爺の法王クルスへの報告がてら、美味しい茶でもご馳走になろうかと目論んでいた時だった。
「これ、何だと思う?」
白い封筒に封蝋された手紙……にしか見えない。
「手紙……ですね」
「正解」
何のひねりもないのか。
法王クルスは俺にそれを渡すなり、自分の茶を
「どなたからです?」
「誰からだと思う?」
「オルグかシギュン」
「むっ? ……何故わかる?」
「
「……見事だ」
「見事に軽い『見事』ですね。というか、クルス殿を顎で使ってますよね、これ」
「私から言い出したからな。断る訳にもいかなかった」
「クルス殿から?」
「国王というものはな、配下が功績をあげた時労わなければならないのだよ」
「あぁ、その褒美って訳ですか。という事はシギュンですね」
「中々愉快だったぞ。あのシギュンが、しおらしく恥ずかしがりながら、私にこれを頼んだのだ」
「なるほど、つまりこれは
「――に偽装した何かだ」
「でしょうねぇ……」
「とはいえ、恋文というのは体裁が悪い。シギュン
まぁ、その通りである。クルスもそれがわかっているから受け取ったのだろう。
そもそも、聖騎士団側が無理言って俺に二年生の指導させたのだ。聖騎士団を代表してシギュンが感謝の手紙を出すのはある意味当たり前と言える。寧ろ、これを許可しなければ法王クルスの威厳にも関わってくるからな。
手紙からはシギュン愛用の香水の香り。
封には【ミケラルド様へ】。羨ましいくらいに達筆である。
「どうした、開けないのか?」
「開封した瞬間に後悔しそうです」
「同意しない訳にはいかないが、中身が気になる」
「最初からそう言ってくださいよ」
「ふん、ならば私が開けてやろう」
「あ」
俺が持っていた手紙を、法王クルスが奪い取り開ける。
中に目を通した法王クルスの目が左から右へ動く。
それを幾度か見た後、法王クルスは「ふう」と一息吐いた。
そして自身の顔を揉み、また一つ息を吐いた。
「……すまん」
本当に申し訳なさそうに俺に手紙を返してきた法王クルス。
何故か法王クルスが俺と目を合わせてくれない。これは一体?
俺は法王クルスの謝辞を
~~~~~~~~~~~~~
ミケラルド様
法王国聖騎士団副団長のシギュンにございます。
先日は、二年生のご指導、本当にありがとうございました。
生徒たちから、ミケラルド様を褒め称える声が多く、私も身が引き締まる思いです。
……と、堅苦しい挨拶はここまでにさせて頂きますね。
かねてより、ミケラルド様の独創性には共感する事が多く、大変
何からお伝えすればいいでしょうか……。
聖騎士団には多くの殿方がおります。
忙しい日々、逃れられぬ重責。
私は女である事を捨て、ただこれに立ち向かい、日々を過ごしてきました。
殿方からのアプローチもあります。勿論、それに気付かない訳ではありません。
けれど、それはいけません。
私は聖騎士。法王陛下の剣にして盾。
聖騎士団の副団長としてその重責を逃れる事は叶いません。
しかし
ミケラルド様、一時だけ、その重責から逃れる事に協力しては頂けないでしょうか。
そう、これは言い訳。わかっているのです。
心は深く、気持ちは重く。
聖騎士学校が始まってから、私はどこかおかしくなってしまいました。
何故ならそれは、聖騎士団の優秀な殿方を見続けた私ですら、心が震えたからです。
私は出会ってしまいました。風のように爽やかな貴方の笑顔に。
その熱意、炎よりも熱く。その心、太陽よりも温かく。その姿、薔薇のように美しい。
いけない事。いけない事だとわかってはいるのです。
でも私は……私は心動かされてしまったのです。
手を伸ばせば届くその背中。思わず手を伸ばしてしまいそう。
けれどそれは叶わぬ願い。
ならば一時だけ……。
もし叶うのならば、次に法王国へいらした時……夜十時、私の部屋へ。
私の炎、私の太陽、私の薔薇。
ミケラルド様……お
~~~~~~~~~~~~~
「うわぁ……」
「ぷっ!」
俺の反応に噴き出した法王クルス。
どうやら先程の謝辞は演技だったようだ。
「いや、これは公式に怒れるやつじゃないですか。もういいですよ、シギュンを追い詰めましょう」
「はい! 爽やかな笑顔!」
「ふふり♪」
「この上なく胡散臭いな。詐欺師か詐欺師……
「今度個人的にクルス殿を騙す事にします」
「はははは、やれるものならやってみろ。それで、どうするんだ?」
「乗らない訳にはいかないですからねぇ……」
毒とか盛られそうだけどな。
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