◆その452 刻の番人

「……はは、ほらね」


 思わず立ち上がって驚きを見せたパーシバルは、椅子にストンと腰を落とした。

 エレノアが報告に来た闇人やみうどに言う。


「わかりました、下がってください」

「はっ」


 この報告を受け、ナガレがエレノアに言った。


「【魔人】はどうしてんだい。最近とんと連絡がないじゃないかい」

「それはワシも気になってたところだ」

「はっ、珍しく爺と意見が合っちまったよ」


 サブロウの同意見を鼻で笑ったナガレは、更に続けた。


「エレノアァ? こちらの最大戦力を投じて闇の威信を取り戻したらどうかって聞いてるんだよ、アタシは」


 怒りすら見せるナガレに対し、サブロウがいさめる。


「よせ、ナガレ。エレノア、【魔人】を動かせぬ理由でもあるのか?」

「……魔人は今、魔界にいます」

「へぇ?」


 ナガレが片眉を上げる。

 すると、サブロウが頭を掻きながら言った。


「なるほどのう。魔王の復活を止め、勇者の覚醒を防ぎ、次は魔界か。一体何を考えている、エレノア?」

「あなたの理解を大きく超える事ですよ、サブロウ殿」

「ナガレはそれでいいのかのう?」

「アタシはデカイ事があるならそれでいいよ。あーでも言わなきゃエレノアは情報を出しやしないんだから」


 鼻で笑いながら言ったナガレに、シギュンがくすりと笑う。


「何だよ、女狐」


 煽られたと感じたのか、ナガレがじろりとシギュンを見る。


「何も」

「腹芸がしたいなら若い連中だけでやんな」

「かしこまりました、ナガレ殿」

「つくづく嫌な女だよ、アンタは」


 シギュンがナガレをかわし、エレノアを見る。


「今の話、聖騎士学校に魔族の新入生がいる事と何か関係が?」

「「っ!?」」


 シギュンからの新たな情報に、皆が驚きを見せる。


「その話、本当ですか?」


 エレノアの言葉に頷いたシギュン。


新たな手駒、、、、、に監視を命じましたが、狙いが読めません」

「……妙ですね、そのような連絡は受けていませんが」

「わかりました、ミケラルド同様、そちらも私が様子を見ます」

「お願いします」


 シギュンが立ち上がり部屋を出て行く。


「シギュンさんはもう行ってしまうのですか」


 カンザスが残念そうに言う。


「何かと忙しいもので」


 背を向けたまま、カンザスに言ったシギュン。


「それは残念」

「では、失礼します」


 シギュンがいなくなると同時、ナガレがカンザスを見る。


「地龍を捕らえたからってお前とシギュンが釣り合う訳ないじゃないか」

「はっ、ナガレさんがそれ言います?」

「どういう意味だい……!」


 呆れるサブロウが言う。


「何でこの婆は誰かれ構わず喧嘩売るんじゃ……」

「爺はその末席で延々愚痴を言ってりゃいいんだよ」


 そんな二人を見て、パーシバルが呟く。


「どっちもどっちだろ、ばーか」


 二人の視線がパーシバルに向く。

 サッと視線をかわしたパーシバルがエレノアに言う。


「で、僕はどうすればいいの? ガンドフの監視もそろそろ飽きてきたんだけど?」


 気怠そうに言うも、パーシバルはすぐに目を見開く。


「パーシバル、あなたはガンドフから南下し【ディノ大森林】へ」

「……本気? あそこは竜種の楽園だよ?」

「そこに木龍がいるかもしれないとの情報が入りました」

「今の話聞いてた?」

「おや、出来ないのですか?」

「っ、やればいいんでしょ!」


 怒りを見せるパーシバルに、カンザスが言う。


「ま、頑張ってください」

「あー、うざい」


 続き、エレノアがカンザスに言う。


「カンザス、あなたは引き続きミナジリ共和国を。ナガレ殿、あなたもこれに付きなさい」

「え、一人がいいんですけど?」

「何でアタシがこいつと」


 ナガレとカンザスが互いに指を刺し合う。


「地龍の餌食になりたければ早く言ってくださいね」

「「っ!」」


 二人が押し黙る様子をパーシバルがちらりと見る。


(地龍の命令権を持ってるのはカンザスだけど、地龍の子供を握ってるのはエレノア。カンザスは地龍に命令出来ても、エレノアに逆らう事は出来ない。人質を別々にとってるみたいなものだね。このエレノアってヤツ、顔も性別も見せやしない。おそらく【歪曲の変化】を使ってる。僕が覗く事も出来ないって事は……なるほど、闇ギルドの実権を握ってるだけはあるよね)


 二人への指示を終えると、サブロウが立ち上がる。


「ワシは?」

「パーシバルの言う通り、我々【ときの番人】は闇の象徴。優秀な人材を引き入れねばなりません。ハンドレッド、、、、、、の中でここ最近優秀な成績を上げている者に集合をかけました。足を失ったものの、拳鬼もここに名を連ねています」

「なるほどのう、テストか。他に目ぼしい奴は?」


 するとエレノアは、くすりと笑いながら言った。


「デューク・スイカ・ウォーカー」


 言ってはいけない名前を。

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