その443 リルハの師

「リルハ殿のお師匠様でしたか。それはよかった♪」


 俺が手を合わせわざとらしく喜んで見せるも、リルハの強い視線が変わる事はなかった。


「答えろ。お前は何故師を追っている」

「それはこちらが聞きたいくらいですよ」

「何?」


 俺はリルハが持っている打刀を指差し言った。


「その武器、リルハ殿は見た事がありますか?」

「……いや、初めて見る形状だ。そういえば冒険者のミケラルドがこのような武器を持っていると聞いた事があるが?」


 遠回しに言ってきたな。

 まぁ、音の遮断も済んでるから気にしなくてもいいか。


「これはクルス殿にも話していない事なのですが、私の故郷はこの世界ではありません」


 すると、アーダインが言った。


「魔族四天王のスパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエルが、ミケラルドの魂をこの世界に呼び寄せたという話だったが、魂そのものも、この世界のものではなかったと?」


 俺はアーダインに頷きリルハを見る。

 そして、彼女は何かに気付いたようにハッとした。


「っ! そうか、それでミケラルド商店にはあのようなアイディア溢れる商品が……!」

「否定はしません」


 リルハはその後、折れた打刀をテーブルに置き腕を組んだ。


コレ、、は、お前が作ったものではないと?」

「その通りです」

「コレは、お前の世界の武器だと?」

「その通りです」

「同郷の者に会えると期待している訳か」

「そう受け取って頂いて構いません」

「……なるほど」


 そう言った後、リルハはソファの背もたれに身を預けた。大きな溜め息と共に。

 そして、そのままアーダインを見上げ言ったのだ。


ヒルダ、、、は今どこに?」


 ヒルダって、魔皇まこうヒルダの事か?


「あいつは、今ガンドフだ。だが、来週には法王国に来るぞ」


 アーダインが言うと、リルハは寝ていた首を起こし、俺を見た。


「残念ながら、今私は師匠の居場所を知らん。だが、同門のヒルダであれば知っているだろう。あの子は師匠の小間使いみたいな事をしているからな」

「同門って?」

魔皇まこうヒルダは私の妹弟子だ」


 思わぬ繋がりだ。


「そういう事でしたか。そうか、来週……ですか。どちらに?」


 俺がアーダインに聞くと、アーダインは呆れた顔を俺に向けた。


「ヒルダが聖騎士学校の特別講師だって、ルーク君は知らないのかな?」


 中々の皮肉だった。

 だが、これは仕方ない。正直、完全に忘れていたのだから。


「まぁそういう事だ。詳細は来週、ヒルダに聞くんだな」


 リルハの言葉に頷き、俺は礼を言ってからその場を後にしたのだった。

 ところで、勇者レックス時代のパーティ【聖なる翼】のメンバーだったヒルダが妹弟子って……リルハは一体何歳いくつなんだ?


 ◇◆◇ ◆◇◆


「なるほど、魔皇まこうヒルダか」


 後方で、わちゃわちゃと女子トークが始まる中、俺はリィたんと先程の話をしていた。

 ここは冒険者ギルド併設の宿。その大部屋である。

 大部屋とはいえ、ここには身内しかいない。音の遮断さえすれば全く問題ないのだが、ルナ王女やレティシア嬢含むこの面子めんつが、何故冒険者ギルドの宿にいるのかというと、そのルナ王女たちの提案だからである。

 一種の社会勉強。冒険者たちはどのように生き、何を食べ、何を思い、どう生活しているのか。それらを学ぶため、彼女たちはここにいる。

 ナタリーが俺を見ながら微笑む。


「ミック、着替えるから出てってー」

「あ、はい」


 先程までは街歩きの格好だったが、この社会勉強という企画もあり、この後皆で臨時パーティで討伐に行くというのだ。

 そして、明日も休みである事から、この部屋をとってお泊り会をするとの事。

 まぁ、明日は俺も用事、、があるし、彼女たちがリィたんと共に冒険者ギルドで待っててくれるのであれば、それが確実か。

 俺とリィたんは、大部屋のドアに寄りかかりながらその用事について話してた。


「明日だったな、南東、、に向かうのは」

「うん、だからその間、皆の事を頼むね」

「まさか一人で行くとはな。私の協力があれば炎龍ヤツなどすぐに倒せるぞ」

「属性の相性を考えれば確かにそうなんだけどね。でも、いつまでもリィたんに頼ってばかりってのじゃ、格好がつかないだろう?」


 俺がそう言うと、リィたんは目を丸くした後、大きく噴き出して笑った。


「くっ……はっはっはっは! 私を前に格好を付けたいとは流石はミックだ! それでこそ、ミック! それでこそ我があるじだ!」


 音の遮断をしているとは言え、それは外部への遮断である。

 リィたんの大声は、現在お着換え中の乙女たちにも聞こえてしまっている事だろう。

 俺がリィたんを口を止めようにも、彼女が止まる事はない。

 だから俺はこうして深い溜め息を吐く他ないのだ。

 やがてドアから小さな顔を出すのは聖女アリス。


「お待たせしました、格好付けのミケラルドさんっ」


 弱味を握ってくる聖女というのも斬新だ。

 ニヤニヤとしながら出て来た乙女たちは、これからホブゴブリン討伐に向かうそうです。

 レティシア嬢の実力を鑑みて、悪くない選択だと思う。


「それじゃあ行きましょうか」


 俺が言うと、ナタリーはキョトンとした顔で言った。


「え、ミックも行くの?」


 目を丸くした俺を見たナタリーは、その後くすりと笑い言った。


「うそうそ、さ、行こうミックっ!」


 何とも、俺の扱いをわかったナタリーである。

 メアリィ、クレア、ルナ、レティシア、アリス、リィたん、ナタリー……この中に野郎がいるのだ。そう、俺一人だけ。

 控えめに言って、最高の人生だとは言えないだろうか?

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