◆その353 南北の闇

「キッカ、昼に集めた情報は?」


 宿での会議。

 ラッツがキッカに聞く。


「アリスと一緒に北を回ってきたよ。かなり足を使ったつもりだけど、相手の足はそう簡単に掴ませてはくれなかった。わかった事ってのは、やっぱり首都の北側を根城にしてるっていう【グレーターデーモン】って組織が怪しいって事ね。アコギな商売をしてる商人から身よりのない子供まで、皆構成員って感じがしたよ」

「ハンは?」


 ラッツがハンを見る。


「南の【ケルベロス】を調べた。ちっと張ってみたが集金人が現れる気配はなかった。まぁ、どこの誰かってのは明白だけどな」


 ハンの言葉にアリスが小さく手を上げる。


「あの、どういう事です?」

「でかい組織程維持費ってのがかかるんだよ、アリスちゃん」

「確かにケルベロスもグレーターデーモンも、法王国では有名ですけど、これまで誰も接触した事がないって聞いてますよ? そこまで大きい組織って印象はないんですけど……」

「そうじゃないんだよ。大き過ぎるから足を掴ませないし、誰も接触出来ない」


 ハンの言葉にキッカとアリスが見合って首を傾げる。


「これまで気になってたんだよ。奴らの運営資金はどこから出てるんだろうってな」

「町の人たちからなんじゃないの?」

「おいおいキッカ。注目すべきはそっちじゃなくて、奴らが誰なのかってとこだろう?」


 この時、アリスが何かに気付く。


「だから、ケルベロスとグレーターデーモンじゃないの?」


 ニヤリと笑うハンにキッカが苛立ちを覚える頃、アリスが小さく呟いた。


「……闇ギルド」

「「っ!?」」

「そうか。そういう事なんですね、ハンさん? 南北に分かれている組織はただの隠れ蓑。ケルベロスもグレーターデーモンも、上部組織は同じ闇ギルド……」


 アリスの言葉を受け、ハンが口を尖らせる。


「さっすが、良い勘してるじゃん」


 ウィンクしながら軽い調子でアリスを指差したハン。


「闇ギルドには運営資金が必要。何でもかんでも盗む訳にもいかないからな。だからこその資金源。それこそがここの住人だって訳だ。当然、リプトゥア国と繋がってた過去もある。ゲオルグ王から援助を受けてもいたんだろうな。だが、それも【存在X、、、】によって止められてしまった」


 その名を聞き、アリスがピクリと反応するも、気付いたのはキッカだけだった。


「この事から何が予想されるか……だ」

「……まずいな」


 ハンの言葉の意味に気付いたラッツが俯き零す。

 遅れて気付いたキッカ。


「そっか、これから闇ギルドは資金集めに躍起やっきになるって事ね。でもどうやって?」

「そりゃ、金があるところから取るだろうさ」

「だから、それはどこなのって言ってんの」

「金のある場所と言えば国庫かどでかい商会。もしくはその総本山ってとこだろうな」

「総本山?」


 すると、ハンとキッカのやり取りを聞いていたアリスが思い出すように声を零した。


「あ、そうか。商人ギルド」

「そういう事だ。一番可能性が高いのは商人ギルドだろうな」


 アリスとハンの結論により、ラッツが一つ頷く。


「よし、明日は商人ギルドへ行くぞ」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 翌日、オリハルコンズの面々は商人ギルドへと向かった。

 贅を凝らした巨大な建造物を見上げ、ハンが唸る。


「俺にも少しくらい分けて欲しいもんだ」

「オリハルコンのダガー持っててそんな事言ったら嫌味にしか聞こえないわよ」


 ハンの横を通り過ぎ商人ギルドの中に入って行くキッカ。


「……先客がいるみたいだな」

「ですね。高い魔力が……五つ?」


 ラッツとアリスは、商人ギルドの中にいる何者かに疑問を持つ。


「うおい、置いてくなって!」


 中に入って行った三人を追いかけ小走りになるハン。

 商人ギルドの総本山――商人ギルド本部。ホーリーキャッスルのごとく純白の内装、程よい金銀の装飾、絢爛豪華なテーブルや椅子、ペンに至るまで、外界とは一線を画していた。

 ポカンと口を開けるハン。驚きを隠せないラッツとキッカ。

 そして、小首を傾げるアリス。


「あの、皆さんどうしたんですか?」


 そう、聖女アリスはこれまでずっとホーリーキャッスルに住んでいたのだ。

 そんな彼女が商人ギルドに臆する訳もなかった。そもそもアリスは、ミケラルドの正体を求め、一度ここに来ているのだから。

 アリスは、ただキョトンとしながら皆の回復を待った。

 そこへやって来る大柄な男。目つき鋭く、ラッツたちを品定めするかのようだった。その視線がアリスに向くと、男の表情は一変した。


「これはアリス様、このようなところにどのようなご用件で?」

「え? えっと貴方は確か……――」

「商人ギルドのサブギルドマスター【ペイン】と申します。以前ホーリーキャッスルの宮中晩餐会きゅうちゅうばんさんかいでご挨拶を」

「あぁ、そうでしたね。ではペインさん、彼らのお話を聞いて頂けませんか?」

「【緋焔】の方々の……ですか?」

「流石ですね」


 アリスはペインの眼力と知識を称賛する。


「冒険者ギルドの精鋭パーティを知らないという事は、商人として失格だという事です。たとえ国を跨ごうとも、彼らの人相、風貌は頭に入れるべき重要項目です」


 目を伏せ微笑むペインに対し、キッカが「うげぇ」と零す。


「何で顔まで知られてるのよ、私たち」

「優秀な人相書にんそうがきがいるって事だろ」


 ハンの説明に納得するも、別の意味で納得出来なかったキッカは自身の肩を抱き、覚えのない寒気に耐える。

 そんな中、ラッツが一歩前に出てペインに一礼する。


「お忙しい中、申し訳ない。貴方と、ギルドマスターに聞いて頂きたい話があります」

「私と……マスターに?」


 ペインの目がアリスに向けられる。

 アリスの目礼により、ペインもそれ相応の用件と知りコホンと咳払いをした。


「かしこまりました、では奥へ」

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