その227 辞退の理由

 神速で胸倉を掴まれた俺は、背中と壁が絶賛濃厚接触中である。

 俺の胸倉を掴んでいる鬼は剣というオベイルでした。


「どこか間違ってると思わないか?」


 読心術だろうか。

 まぁ、彼は俺のオベイル配列に気付いた訳ではない。

 俺の選択に対して間違っていると言っているのだ。


「ここを守る訳でもなし、北東で軍隊を迎え撃つ訳でもない。尻尾巻いて逃げ出すってか? あぁ!?」

「誰も逃げるなんて言ってないですよ」


 俺はオベイルのゴツゴツの手の上に、自らの手を置き、それを引き剥がした。


「ボン、何か策があるのだな?」

「別に、策という程のものではありませんよ」

「聞かせろ」


 根っこの部分は熱血漢だよな、オベイルって。


「私が辞退するのは冒険者としての仕事です。そうすればここを守らずに北東に行ける」

「おいおい、お前ぇだけ抜け駆けかよ!?」

「いやいや、オベイルさんはここを守ってくださいよ」

「確かに俺と爺ならよく勝負してっから連携はとりやすい。お前がいない方が動けるだろう。だが、お前一人で行かせる程、俺も爺も腑抜けてねぇぞ?」


 あらやだ、意外にかっこいいじゃない、この人。

 俺の中でオベイルの株が徐々に上がっている中、アイビス皇后が俺に言った。


「それは、我が法王国の総意に対する返答という事でいいのか? ミケラルド殿」


 今アイビス皇后は、「たとえ冒険者だろうが、法王国との関係が悪化するぞ」と遠回しな脅迫をしている。だが、それも想定済みだし、国としては当然の事なのだろう。


「とんでもない事でございます。この【ミケラルド、、、、、オード、、、ミナジリ、、、、】、是非法王国に協力させて頂きたく存じます」


 この芝居がかった言葉で皆気付いたのだろう。

 ストラッグが驚きを露わにして言った。


「まさかリーガル国としてこの戦に参加されると仰るのか、貴方は!?」

「法王国とガンドフ両国の窮地とあらば、陛下も参戦を望まれる事でしょう」


 まぁ、念のためランドルフに確認はとったけどな。

 丁度ブライアン王と一緒にいたらしいからその場で許可が下りた。

 というか、これでブライアン王に俺がテレパシーを使える事がバレてしまったのだ。

 まぁ、言っても問題ないし別にいいだろう。


「随分と妙な事を言う。個が国だと?」

「いえいえそんな事を言うつもりはありません。ミナジリ領の配下がいます」

「今から間に合う訳が――」

「――おそらく、アイビス皇后の実力を考えると……冒険者時代はSSSトリプルだったのでは?」

「それが今何の関係がある?」

「「――っ!?」」


 最初に気付いたのは剣神イヅナだった。

 次に剣鬼けんきオベイル。そして、年齢により実力がSSダブル程になったアイビスが気付く。

 きょろきょろと皆を見るマイア、そしてストラッグが気付く。


何奴なにやつっ!?」


 ゲストルームの扉に向かって叫んだ。

 そう、扉の外に俺の仲間がいるのだ。俺とアイビス皇后の会話から、仲間はアイビス皇后の実力でも察知出来るよう、気配を表に出したのだ。

 アイビス皇后は俺を見ると共に、その中身すら覗こうとするような目を向けた。

 是非そういう目はやめていただきたい。

 俺は案内するように手の平で扉を指し、言った。


「配下です。不測の事態故、待機させておりました」


 アイビス皇后は許可の頷きを見せると、ストラッグが恐る恐るその扉を開けた。


「ほぉ? やけに面白い面子だな、ミック、、、?」


 こんな態度、誰にでも許されるはずがない。

 だが、彼女、、なら許されてしまうのだ。


「ふむ……確かに面白い」


 きっと、の記憶に残っているのだろう。


「ご紹介します、リィたん、、、、ジェイル、、、、です」


 沈黙は破られない。

 何故ならイヅナ、アイビス皇后、オベイルという実力者は皆沈黙を貫いているからだ。

 いや、そうじゃない。剣神イヅナでさえ気付けなかった二人の実力に驚愕しているのだ。


「爺……気付いてたのか……?」

「いんや? だが、ボンの策に確実性が増したのは事実だな」


 オベイルとイヅナの反応を見るに、既に血が騒いでるみたいだな。

 今にもリィたんに襲いかかろうとしているようにしか見えない。ったく、どっちが魔族かわからんな、こりゃ。


「リィたん……聞いてるぜ? Z区分ゼットくぶんなんだってな、アンタ? で、そこの仏頂面のジェイルって男は何だ?」

「私の師匠です」

「……なるほど? いや全然わかんねーけどな」

「実力は示したはずですよ」

「で、その二人が何故ここにいる?」

「護衛の仕事が終わったらガンドフで合流する約束をしていたので」


 ついさっき転移してきたから、めっちゃ大嘘なんだけどな。

 そろそろミックスマイルにひびが入りそうだが、アイビスがその緊張を解いてくれた。


「……わかった、ウェイド、、、、殿に連絡をつけよう」


【ウェイド・ガンドフ】……このガンドフの国王か。

 どうやらガンドフにはミドルネームの文化はないようだ。

 ゲストルームから出て行ったアイビス皇后の連絡次第だが、いかんせんもう時間がない。

 おそらくリーガル国の戦争介入には、許可が下りるだろう。

 だが、このゲストルームの緊張感という名の幕は、誰が下ろしてくれるのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る