その181 剣聖の真価
木剣を持つ俺とレミリアが対峙し、中央にはリィたんが腕を組みながら立つ。
まさか格下ランクの男に手合わせを申し出るとは思わなかった。
だが、
当然、逃げる訳にもいかない。ジェイルの剣を汚してはいけないからだ。
中段で剣を構える俺を前に、レミリアもまた中段で構えた。
二人の視線が重なり、リィたんが頃合いと見たかすんと鼻息を吸った。
「始め!」
直後、レミリアは俺の前から姿を消した。
「聖剣、閃光っ!」
消えたと思った瞬間、俺の前に姿を見せたレミリアの鋭い突き。
「竜剣、剛翼!」
俺はすかさず上段へとシフトし、その突きを叩き落とす。
正面に倒れ込むレミリアが大地を掴み、押しのける。正面から来るはレミリアの
「竜剣、
反転しながらの斬り払い。
やはりそこにはレミリアがいない。
「聖剣、光翼!」
いつの間にか跳び上がっていたレミリアは、パーシバルに放った剣技と同じものを繰り出した。彼女の遠距離技はこれしかないのだろうか。……いや、剣聖と呼ばれる程の実力者だ。これだけではないはず。
「はぁ!」
剣を振りそれを弾くと、その奥には更なる斬撃があったのだ。
「聖剣、
「にゃろ! 竜剣、竜巻!」
一撃目の斬撃は目眩まし。裏にへばりつくようにあったもう一撃が本命だったのか。
竜巻による爆風で距離をとり、更には
「竜剣、咆哮っ!」
重き斬撃がレミリアに向かう。
「聖剣、
一撃一撃は低威力。だが、無数の斬撃を飛ばし俺の咆哮の威力を軽減している。
質と量の勝負は互角に終わり、レミリアの顔に笑みが零れる。
「楽しそうですね」
「そちらこそ」
なるほど。彼女の場合、剣で語った方がわかるようだ。
実に脳筋ぽくて良い。とてもわかりやすい。
「これがミケラルド殿の全てではないのでしょう? 是非ともその全てを受けたい!」
「なら、少し意地悪な事をしても?」
「戦いにそれは関係ない!」
なら、やってみるか。
「行くぞ!」
レミリアが駆ける。俺に向かって一直線に。
「よっと」
レミリアの眼前に現れる
「くっ! まさかっ!?」
勢いに任せ突き破ろうとしたレミリアだったが、
「ここで溶かす!」
「やはりか!」
真下から現れる土の拳がレミリアを狙う。
「確かに……意地悪だな!」
あの時同様、レミリアはそれを剣で受けた。
パーシバルの【エアプレス】なら模倣可能だ。さぁ、どう返す?
「はぁああああああっ!」
「っ! なんつう剛剣!?」
地面に向かい思い切り剣を振る事で、空中で一旦止まった!
これでは発動した俺の【エアプレス】のタイミングがずれる。
まるで見当違いの場所で衝突し合った風の圧力を横切り、レミリアが優雅に着地する。
「次の魔法を用意していないとは意外だ」
「傷つける事が目的じゃないですから」
「ほぉ、傷つけられると?」
「あ、そう受け取っちゃいます?」
俺が苦笑しながら言うと、戦いの行方を見守っていたリィたんが腕組みを解いた。
「ふむ、それまでだな」
やっぱり。
「む、何故だリィたん殿?」
「忘れているかもしれないが、ミックは武闘大会の参加者だ。どんな些細な怪我とはいえ、それは認められるものではない。たとえ回復魔法があろうともだ。それがわからぬレミリアではあるまい?」
ここまで言われてしまっては、レミリアも剣を納める他ない。
「それに、ギャラリーも増えてきたようだしな」
言われてみれば、周囲にはいくつかの視線を感じた。
姿を隠しているという事は、おそらく武闘大会の参加者ってところか。
俺の実力を見る良い機会とみたか。それとも単純な興味本位か。
「そのようだ。次の機会を心待ちにしよう」
「機会があったら是非ミナジリ領へ来てください。歓迎しますよ」
「なるほど、それはいいな。うん」
俺の提案を快く受け、レミリアとの手合わせは終わった。
やはり一流。一度受けた攻撃はちゃんと対策を練っていた。
実力者ともなると、見習うべき点が多い。この手合わせ、悪いものではなかったな。
レミリアと別れ、俺とリィたんが仮設住宅へ戻ると、ネムが不満気な表情でお出迎えしてくれた。
「遅いですぅうう」
むくれるネムをもう少し見ていたいところだが、今日は色々とあって疲れてしまった。
そして、これから食事を作る気にもなれないという点から、
「よし、何か食べに行こうか」
この結論に至るのは当たり前の事だった。
パァっと表情を明るくしたネムは、子供のように跳びはね喜びを露わにした。
「既に美味しそうなお店はチェックしてあるんです!」
こういうところは大人であり、とても子供だ。
「ミック! 私は肉がいいぞ!」
リィたんはとても龍だ。
「それじゃあ、血が
そして俺は……果たして何者なのだろうか?
「「おぉ~!」」
明日からの連戦に備えなくちゃな。
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