その155 オリハルコンのすゝめ

 リィたん、ジェイルの話を聞くに、俺が制作した武具はどれも異常な出来だという話だった。その理由を考え、辿り着いた結論が……魔力という事だ。

 技術として覚える事の出来る【鍛冶ブラックスミス】を保有しているだけでは、熟練したドワーフでさえもミスリルの加工が限界。しかし、オリハルコンという伝説の鉱石を扱う事が出来るのは、ドワーフの国――ガンドフでも一人しかいないらしい。


「そして、その武具に付与魔法を施せる者は、世界中探してもミックくらいしかいないのではないか?」

「お、大袈裟ですよジェイルさん……」

「だといいがな」

「ま、まぁこれで屋敷の内装が揃ったので、一安心ですね」

「だといいがな」


 スヌーズ機能でも付いているのだろうか、このトカゲ師匠は?


「それで、今は何をやっている?」

「オリハルコンの刀に対し、【隠蔽】を施してます」

「む、青白い発光が消えていく。この白き銀は……ミスリルか?」

「これで俺の武器を見た人はミスリル製の武器だと思いますよ」

「貴族というのも大変だな……」


 そうなのだ。

 領内にいるジェイルや、自由な冒険者であるリィたんならば別にオリハルコンの武器を持っていても何も言われない。しかし、貴族の俺が持っていると目立ち、あらぬ嫌疑をかけられてしまう。まぁミスリルならそこまで波風は立たないだろう。


「ミック、これなぁに?」

「うぇ?」


 いつのまにかジェイルの隣にナタリーがいた。

 ナタリーはソレを摘まみながら覗き込む。ナタリーの目がボォっと青白く光る。


「綺麗……」

「あぁ、これはね。こうしてミスリルのチェーンを通して……ほい」

「わぁ、ネックレス!」

「【暗衣あんい】の魔法を付与したオリハルコンのネックレスだよ。ナタリーにあげる」

「ぇ? えぇええええっ!? い、いいのっ!?」

「ミナジリ領の創設メンバーだろ? ナタリーだけ持ってないのはおかしいだろ?」

「ほ、本当にいいの……?」

「ほれ、付けてあげるから頭こっちに」

「う、うん……」


 ナタリーの首にそれを掛け、チェーンの留め具をはめる。


「よし、出来た」

「……ど、どうかな?」

「うん、よく似合ってる」

「そ、そう。……えへへ……」


 ナタリーがもじもじと照れる。

 頬を紅潮させているところを見るに、かなり嬉しかったようだ。

暗衣あんい】は魔法に対し強い耐性を持った魔法だ。これを付けている限り、ナタリーにはそんじょそこらの魔法ではダメージを受けないだろう。


「あ、あとこれも持っておいて」

「新しい……ナイフ?」

「そのミスリルナイフには【トーチ】の魔法を付与してある。暗いところで便利だぞ」

「おぉ~、作業が捗るね!」

「あ、そうだ。エメラさんとクロードさんにも渡しておいてよ」

「うん! わかった! えへへへ、ミック! ありがとねー!」


 きゃっきゃと喜びながらナタリーが去って行く。

 エメラには【サンダー】を付与したミスリルソード。

 クロードには【エアスライス】を付与したミスリルアロー。

 彼らの身を守る分にはこれで十分だろう。

 そんな事を考えていたら、これまで口を噤んでいたジェイルが口を開いた。


「五十カラットはあるオリハルコンのネックレスだったな」

「ん~、そんなもんですかね」

「……ナタリーには後で言っておく」

「何をです?」

「それは国宝級のアクセサリーだとな」

「そういえば言い忘れてましたね」

「ナタリーは見向きもしなかったが、そちらのオリハルコンの結晶は何に使うつもりだ?」

「販売目的用です。まぁこれには付与魔法はしませんけど」

「庶民は絶対に買えないぞ?」

「相手は庶民ですけど庶民感覚の人じゃないですよ」

「ほぉ、一体誰だ?」

「それは数日後にわかります」


 ◇◆◇ 三日後 ◆◇◆


「これはこれはミナジリ卿。落成式の招待状、確かに拝領しましたぞ。当日は楽しみにしております」

「いえいえ、こちらこそ。ドマーク、、、、さんがいらっしゃると聞き、家の者も皆張り切っています」

「はははは、ありがとうございます。それで、今回はこのようなところで一体何を?」

「ドマークさんにわざわざ商人ギルド、、、、、へお越し頂いたのは他でもありません」


 俺はドマークをマッキリーにある商人ギルドへ呼び出した。

 首都リーガルに商人ギルドがないのは本当に面倒ではあるが、国にギルドを一つ建てるだけなら確かにマッキリーは絶好の立地なのだ。

 そして、今回彼をこの商人ギルドに呼んだのには、やはり別の理由わけがある。

 この商人ギルドでは、商店や商会同士が売買や契約などに利用出来る個室がある。

 そして、何の交渉をするのかを事前に商人ギルドに説明しておけば、それは公式なやり取りとなる。個人が商店に商談を持ちかける時にも、当然利用される。

 しかし、その利用者がドマーク商会とミケラルド商店となると、流石の商人ギルドの連中も目を丸くしていた。

 彼には全てを伏せここに来てもらったが、来てくれるだけの信用はあると踏んでの行動だった。


「まだ私は規制品の売買が出来ないんですよ」


 これを伝えるだけで、ドマークの表情が変わる。

 そう、今回のビジネスは規制品の売買。

 ランクAの商人――相手がドマーク商会でなくては売れないのだ。


「お見せ頂けますかな」


 俺は闇空間からオリハルコンの結晶を取り出す。


「これは……!」


 オリハルコンの欠片は規制品ではない。しかし、【鍛冶ブラックスミス】の技術により結晶……いや、塊となったオリハルコンは【規制品】の対象なのだ。

 さて、いくらの値段が付くのか。

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