その81 ミケラルドの功績

「闇魔法の効果を逆手に取る」

「というと?」

「闇は光を吸収する。闇魔法の中に光魔法に包まれてる俺が入ったら、確実にその光は吸収される。だから、自分の身体が耐えられる速度まで調整すればいいんだよ」

「……うーん、つまりそれは……闇魔法の力に重きを置き、光魔法の威力を弱めるという事か?」

「絶妙なバランス感覚だよリィたん。ところで、リィたんは音より速く動けるの?」

「当然だ」


 何が当然なのかわからないが、リィたんの力があれば音速には耐えられる訳か。

 確か光速が音速のうん十万倍だったはずだから……ダメだ、全然参考にならない。なら発想の転換だ。別に光速じゃなくてもいいと考えよう。闇魔法の比率を極限まで上げ、光魔法の比率を極限まで下げる。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「……くそ! 無理だ! 十万分の一にすらならない! くそ、そもそも俺が光速に耐えられる身体ならよかったのに!」

「なぁミック、そう考え込むな。魔王も賢者も霊龍だって皆、異常とも呼べる存在だったのだから」

「でも! ――……ん? 賢者?」

「どうした、ミック?」

「なぁリィたん、賢者って人間だったんだよな?」

「そうだが?」

「どれくらい強いの?」

「賢者か。確か、霊龍の話では、『知識や魔法は凄かったが、やはり人間』だと言っていたな。肉体だけで言えば、ミックの方が上等だろう――ミック?」


 そういう事か!

 考える根本が間違ってたんだ。何が闇魔法の中を光速で飛ぶだ。

 そんなの無理に決まってんじゃねぇか!


「なぁ、ミック?」

「転移じゃない。ワープドライブだ……!」


 それに気付いた時、俺の中のプランが一瞬にして決まってしまった。


「逆だったんだ。闇魔法は極少、そして強力な光魔法のバランス」


 ワープドライブであれば、光魔法で闇空間をねじ曲げるだけで移動が可能。

 だから賢者は人間の身体で転移が出来たんだ。つまり、衝撃に耐える必要はなかった。


「おいミック! 一人だけわかったような顔をしないでくれ!」

「あ、そうですね。出来ましたよ、転移魔法」

「は?」


 リィたんの呆気にとられた顔はとてもナイスで、突っ込みたい気持ちになったが、それをしては可哀想である。

 俺はリィたんの前に闇空間を置き、リィたんに「ここで待ってて」と伝えると、後方へ駆けた。


『リィたん聞こえる?』

『聞こえるがこれは一体どういう事だ?』

『実施テストだよ』

『転移魔法のか?』

『勿論。そこから今俺がいる場所わかる?』

『あぁ、勿論だ。ものの数秒も駆ければそこに――』

「――いや、転移なんだから数秒もいらないよ」

「っ!? ミック!? い、今!?」

「だから転移してきたんだよ。探知の反応が変わってるだろ?」

「ほ、本当だ……!」

「そうか、この転移魔法を付与エンチャントすれば、闇空間を使わず移動出来るな。テレポートを媒介するテレポートポイントってとこか」

「本当に転移魔法を完成させてしまったのか……?」

「リィたんもやってみる? 魔法が使えなくてもテレポートポイントを使えば、多分転移出来ると思うよ」

「本当か!?」


 もの凄く嬉しそうなリィたんである。

 俺は喜ぶリィたんと色々話しながら、マッキリーの町にあるミケラルド商店三号店に向かう。

 店ではカミナが店番をしている。俺たちの帰宅に気付くと、カミナは喜んで迎えてくれた。


「ミケラルド様! 注文していた箪笥チェストが届きましたよ」

「お、いいね! じゃあそれに付与しちゃおう」

「ふぇ?」

「カミナ、悪いんだけど、部屋の箪笥チェストをちょっと使わせて欲しいんだ」

「ぇ? まだ荷下ろししてないので手つかずですけど……どういう事です?」


 ◇◆◇ ◆◇◆


「よし、これで応接室の箪笥チェストとカミナの部屋が繋がったはずだ。おーい! リ――」

「――凄いな! 本当に転移出来たぞ!」


 まるで小学生だな。

 応接室で喜んでいたはずのリィたんは既におらず、カミナの部屋へと戻り、


「おぉ!」


 また応接室にやって来た。


「これ、凄いです! ミケラルド様!」

「いや、カミナまで……」

「でも、何で箪笥チェストなんですか? もっと小さいものでもいいじゃないんですか?」

「愚問だな、カミナ」

「へ?」

箪笥チェストから転移するのは……おとこの浪漫だ!」

「……はい?」


 ◇◆◇ ◆◇◆


「という訳で、二号店にもテレポートポイントを置かせてもらいます」

「ミックすごーい!」

「まぁ、これでミナジリの村に自由に戻れるって事ですね♪」


 ナタリーとエメラの称賛の言葉に、顔が緩みそうになる。

 が、ここでヘラヘラしてはいけない。ヘラヘラするのは自室に戻ってからである。


「ミック、その顔変だよ?」

「ふぇ!? ど、どこが!?」

「何か凄いぴくぴくしてる」

「あらあら、うふふふふ」


 くそ、エメラにはバレてしまったか! 流石、数々の男を手玉にとった魔眼の持ち主は違う!

 がしかし、これでようやく次の作戦に移る事が出来る。

 これはまだ、リーガル国の差別意識を、根本から変える大計画の……始まりに過ぎない。

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