その76 仲間!

「うぇ!?」


 カミナの発言に最初に驚いたのは、ナタリーちゃんだった。

 シチューをすくうスプーンはピタリと止まり、どこか焦った様子だ。

 頬にはシチューがぴとりと一滴付いている。ジェイルなんかと違ってとても可愛い。


「ミケラルド様は魔族なんですね! 道理で惹き付けられると思いました! その魅力は魔力も伴っていたのでしょう!」

「あ、え……はぁ?」

「私、感動しました! 人間との共存を考えるその向上心! 決して諦めようとしない意志! ここに村を作ろうとする決断力! どれも並大抵の苦労ではありません! 素晴らしいです! 本当に、尊敬します!」


 矢継やつぎばやに出てくるカミナの称賛に、俺のスプーンも止まる。

 そうか、俺がこのスーツに着替えてる間に、エメラたちが俺たちのやっている事を説明したか。村の事まで知ってるって事はそういう事なのだろう。


「ふ、ふーん……!」


 何故ナタリーは口に運ぶはずのスプーンを頬に運んでいるのだろう?

 ぷるぷると震える手で、中々大変そうである。


「じゃあカミナは俺が魔族って事を気にしないって事?」

「勿論気にします! でも、それは特別な存在という意味です!」

「と、とくべつっ!?」


 ナタリーの声が裏返る。

 クロードとエメラは微笑んでいるが、一体何に笑っているのか。

 確かにナタリーの頬はもうベタベタで面白いが、この二人の視線を見るに、そこについて笑っているのではないと思う。


「マックスはどうなんだよ?」

「……う~ん」

「因みに、サマリア侯爵家はこの事を知ってる」

「じゃあ問題無しだ」

「お前の基準が何となくわかったよ」


 マックスのヤツめ。長いものに巻かれるタイプだな。


「だけど、リーガル王家はまだ知らないから、二人とも、外部には絶対漏らさないでくれよ?」

「勿論です!」

「徐々に近付くつもりなのか?」

「あぁ、その橋渡しをサマリア侯爵家が手伝ってくれる。だからまだ明るみになって欲しくないんだよ」

「なるほどな、それなら仕方ないだろう」


 ふむ、何とか収まってくれたか。


「ミケラルド様! 私に何か手伝える事はありませんか!?」

「うぇ? ん~……マッキリーの町にミケラルド商店三号店を出すつもりだけど、そこの店員は探してるけど、流石にそれは頼めな――」

「――やりますっ! だってそこにいればミケラルド様はいらっしゃるのでしょう!?」

「あ、はい」

「で、では! 私はこれからマッキリーに帰ってミケラルド様をお待ちしますね!」


 ガタリと立ち上がったカミナ。


「いや、今日はもう遅いから明日にしなよ。明日なら俺が送ってあげられるし」

「いいんですか!?」

「そうよカミナ。今日は泊まっていきなさい。マックスさんも。ね?」

「は、はい! ありがとうございます!」


 カミナはリィたんのベッドを使えばいいが、マックスのベッドはどうするつもりなのだろうか?


 ◇◆◇ ◆◇◆


「いや、絶対おかしいって! 何で俺がマックスと寝なくちゃいけないんだよ!」

「仕方ないだろう。ベッドが一つしかないんだから。それにお前のサイズなら……俺の足の間でも寝られるだろう?」

「何で選択肢がクマの足の間しかないんだよ!? 絶対おかしいって!」

「じゃあどうするんだ?」

「くっ! いい! 魔族は一日寝なくたって全然余裕だ!」

「へぇ、そうなのか。それじゃあ有り難くベッド使わせてもらうな。おやす――ぐぅ」


 何だ、この神経が図太いクマは?

 明日、ミナジリ村の皆にお願いして、クロード家の増築をお願いしよう。

 急な来客にも対応出来るようにしよう。いや、そろそろクロード家に頼るのも悪い。隣に家を建ててもらうのもありかもしれない。俺も土塊操作で協力しよう。そうしよう。


 俺がクロード家のリビングで事業計画を練りながらお茶を飲んでいると、寝室から抜け出して来たのか、意外な人物が俺の正面に座った。


「何だ、ナタリー? 怖い夢でも見たのか?」

「こ、子供扱いしないでよねっ!」

「あんまり騒ぐとエメラさんたち来ちゃうぞ。何か用があって来たんだろ?」

あの話、、、なんだけど、私もやってみようかなー……なんて!」

「あの話?」

「あの話って言ったらあの話っ!」

「ん~……あ、もしかしてナタリーに【チェンジ】を使うって話か?」


 すると、ナタリーはコクコクと頷いた。

 そう、俺はナタリーの血を吸っているため、ナタリーの意識に介入してナタリーの顔をチェンジで変えられるのだ。

 つまり、ナタリーは人間の姿になる事が出来るのだ。

 それをすればエメラが勤めるミケラルド商店二号店に、ナタリーもお手伝いとして来る事が出来る。そう思ってナタリーに【チェンジ】を提案した事があった。

 しかし、ナタリーはそれを嫌がった。理由は簡単――「それってミックに身体をいじくりまわされちゃうって事!?」と自分の肩を抱いて嫌がったのだ。

 ナタリーは女の子。当然意識を男に乗っ取られるなんて、たとえ一瞬でも嫌だろう。

 しかし、それを許容するという事は、ナタリーの中で何かが変わったという事だろうか?

 がしかし、手伝いが増えるのはとても良い事である。

 明日マッキリーの町に店舗を出せば、いよいよ首都リーガルに店舗を出す日が近くなる。

 ナタリーが手伝ってくれれば、夢はもっと広がるという訳だ。


「んじゃ今の内にやっとくか? エメラさんとクロードさんは、ナタリーの意思に任せるって言ってたし、いつでもいいと思うぞ?」


 元の世界でもあったが、この世界では子供は親と一緒に寝ない。

 海外でよくある自立を早めるための教育法の一つ。こういった両親の判断も、子供の意思を尊重させるためなのだろう。


「へ、変な事しないでよねっ!」


 俺が幼女に何かすると思ってるのだろうか、この幼女は?

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