その72 ダンジョンマスター
最終階層に降り、視界に映ったのはこれまでの人工的なダンジョンではなく、岩肌がゴツゴツとした薄暗い洞窟の奥底のような場所だった。
正面には細い川のような水路があり、右から左に水が流れて行く。岩の隙間から零れ、左にながれ、小さな橋をくぐり、水は岩壁に吸い込まれて行く。
おそらく小さな水の通り道があるのだろう。
【探知】にモンスターの反応はない。ダンジョンの最奥には遠目ながらも
依然、【探知】に反応はない。【嗅覚】にも反応がないところを見ると――罠か。だが、【罠感知】の特殊能力には反応がない。なら【危険察知】の方だろう。
俺が歩を一歩進めると、それは反応した。
もう一歩足を進めると、更に反応した。
「なるほどね。この距離なら、あの橋を渡った段階で、モンスターの強制出現。そしておそらく脱出の階段も塞がれるんだろうな」
ならこちらも警戒度を上げて対応するだけだ。
耐性系の能力を発動し、あらゆる局面に対応出来るように準備した俺は、じりじりと橋に向かう。ほんの数歩で渡れるような小さな橋。それを渡りきった瞬間、ソレは現れた。
【探知】が知らせる一瞬の反応。それは、俺がいる場所だった。
【嗅覚】が知らせる出現位置。しかし、それは同じ場所ではなかった。
「上か!」
見上げると、頭上から降ってきた巨大な足。
踏み潰されそうになる一瞬、俺は側面に回避する。と同時に、階段への通路が塞がれる。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
身体の奥底まで響く威嚇の叫び声。岩壁はピシピシと音を上げ、叫び声に悲鳴をあげている。俺の回避先を睨むは巨大な赤き一つ目。茶肌で筋骨隆々の巨躯。数本の丸太を束ねたかのようなぶっとい腕の先には、更に太い棍棒。
「サイクロプスか……!」
巨大な人型の一つ目モンスター。
一つ目とはいえ、眼球が顔半分以上を占めている。死角はそこまで無さそうだ。
「ガァ!」
攻撃は単調だが、速度が異常。素の状態なら避けるのに一苦労しそうだ。
棍棒で地面を弾き、岩飛礫を浴びせる。フリーの左手で岩壁の岩をはぎ取り投げてくる。
棍棒攻撃後の自分の隙についても考えている。流石人型。知恵は働くようだ。
これから身内の誰が潜るかわからない。相手の行動パターンは、覚えておくに越したことはない。
といっても、
「ガァ……ガァ……ガァ……ガァ……」
この辺が限界みたいだな。
「よっと」
ふらふらになったサイクロプスを横切りながら首を刈ると、ソレは静かに大地に落ちて行った。
ついでに
「【打撃耐性】と【視野拡張】か。中々いいね。さて、台座の裏に宝箱発見。中身は……残念【マナポーション改】か。ま、目的の
台座の奥にある転移装置に乗った俺は、満足げな顔で、外に戻った。
◇◆◇ ◆◇◆
「ミケラルド様!」
夜、冒険者ギルドに戻ると、出入り口の前でニコルが俺を迎えた。
はて? 一体何でニコルはこんなところで立っているのだろう。
「もうっ! いつまで経っても戻って来られないから心配したんですよ!」
ニコルがここまで怒気を見せるとは意外だった。
さっきは落ち着いて対応してたし、普段はおっとりしている印象もあるしな。
「あぁ、すみません。でも、依頼は受けてなかったはずですけど?」
「それでも、ミケラルド様のお身体はもうご自分一人のものではないと、ご自覚くださいませっ」
あぁ、そういえばそうか。
ギルドマスターのディックが言ってたな。大きな問題が起きた時頼りたいという感じの話を。ニコルはあの時の事を言ってるのだ。冒険者とはいえ、一目置かれている。だからこそ、いざ頼りたい時に死んでると困る。そういう話だ。
「それはすみませんでした。今日は調子に乗ってしまいました。ハハハハ」
「調子に乗った……?」
「やっぱり二十階層って大変ですね。一周するのに三十分掛かっちゃって、マッキリーのダンジョンとは大違い。今日は様子見だった分も勿論あると思うんですけど、やっぱり慣れないとダメですね」
「三十分?」
「あ、そうだ。とりあえず
「ん~?」
ニコルは首を傾げるばかりで、それ以外の反応をしてくれない。
俺の説明が下手なのか、ニコルの理解が悪いのかはわからないが、ニコルが俺の説明を呑み込んでくれるまで、何故か三十分以上掛かった。おかしい。後一回ダンジョン潜れただろうに。
「こ、こほんっ。えっと、少々ミケラルド様を過小評価していたみたいです」
「過大評価よりマシですよ」
「そ、それでその……
「勿論です。けど、あんまり依頼ってないんですね」
「ありがとうございます。まぁ、モノがモノだけに……としか」
「まぁ確かにそうですね」
「
「ありがとうございます。あ、ちょっと質問いいですか?」
「個人的な事以外でしたら」
意外にガードが固いんだな、ニコルって。
まぁこれだけの美人だ。口説かれ慣れてるって事だろう。
「えっと、俺はこの
すると、ニコルの顔が不安気になる。
まぁ、過去の流通独占のアレがあるし、そう警戒するのもわかるけどな。
「もちろん、通常の価格は冒険者ギルドの買い取りより高く設定するので、今度はモメないとは思うんですけど、それ以外にも手はあるんじゃないかなーって思って」
「というと?」
「当然、予め魔法を
全属性の魔法が使えるメリット。それがコレだ。
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