その33 祝・初絡まれ

「おぉ! 凄い!」


 早朝。

 俺とリィたんがジェイルとナタリーに連れられて訪れたのは、クロードの家の更に山奥。

 そこは見事に切り開かれ、広場と言って差し支えない程、しっかりとした平地が出来ていたのだ。

 切り倒した木材は丁寧に積まれ、掘り起こされた根っこは山積みされている。

 自然が豊かな分、植生は大事にしないといけないな。

 人工林計画もそのうち実行しよう思う。


「えーっと……こんな、もんか……な!」


 俺は土塊操作を広場中央に発動し、簡易的な家を建てる。

 足場も整え、ベッドまで付けた中々に住み心地の良い家だろう。


「あとは、こんなもんかなっ」


 家の近くにベンチを、少し離れた場所に傘付きのテーブルと椅子を設置。

 木材が倒れないように土壁で補強をする。


「すっご~い……」


 ナタリーはそれをポカンと見ていた。


「助かる」


 ジェイルは短めに礼を言って、作業に移っていった。

 ふむ、ジェイルの尻尾が少しだけ多めに揺れている。昨日の調味料プレゼントも相まって、かなり嬉しいのだろう。


「それじゃあナタリー、行ってくるよ」

「うん! たっくさん稼いで来てね!」


 一瞬、ナタリーの目の中に金貨が見えた気がしたが、気のせいだろう。多分。

 だけど、クロード一家の生活が良いとは言い切れない。俺が想像出来うる最高の暮らしはさせてあげたい。

 今までが今までだっただけにな。

 そういえば、クロードのようなエルフはどこにいるのだろうか?

 マッキリーの町から戻ったら、聞いてみることにしよう。

 俺たちは、シェンドの町で依頼を報告した後、マッキリーの町に向かう。

 途中、マッキリーの町に向かう中で依頼を消化しようとも思ったが、ダンジョンは並ぶ事もあるそうなので、依頼での時間消費を避けるため、先を急いだ。


「うーん、シェンドの町とそこまで変わるって事はないって事か」


 外観を見てもシェンドの町と変わらない。

 ただダンジョンがあるせいか、シェンドの町より少しだけ冒険者の数が多く感じる。

 早速マッキリーの冒険者ギルドにやってきた俺たちは、ランクDのダンジョン依頼を見る。


「凄いな」


 リィたんがそう零すのもわかる気がする。

 なぜなら、ダンジョン依頼は、報酬が桁違いだったからだ。

 モンスター討伐の依頼も勿論あるが、一番はこの二件の依頼だろう。


「ダンジョン最下層の聖薬草、五枚で金貨三十枚」

「ダンジョン最下層の聖水、二リットルで金貨二十枚……か。こりゃやりがいあるな、リィたん」

「うむっ」


 意気込むリィたん。

 そんな俺たちの話を聞いたのか、背後からクスクスと笑うような声が聞こえた。

 その笑い声がまともに聞こえ始めた頃、俺たちの前には厳つい男四人が、臭い息を吐きながら大笑いしてきた。


「はっはっはっは! おめぇらみたいな軟弱冒険者に、あのダンジョンの最下層まで行ける訳ねぇだろ!」

「ランクBの冒険者ですら手こずるようなダンジョンだ! そんな依頼受けるって事は、相当な田舎モンだな!」

「にしてもイイ女だな!」

「男も中々だぜ! 男色家が好むだろうな! はははははは!」


 まるで絡み方のお手本。教科書をそのまま読んだかのようなチュートリアル的絡み。

 このタイミングか。このタイミングで起こるのか。

 リィたんの目は非常に鋭くなっているが、俺の目はとても輝いていたに違いない。


「なんだミック、その目は?」

「わからない!? 輝いてるんだよ! 俺たち絡まれてるんだよ! 町に来て初めて!」


 そんな俺の思いなどわからないであろうリィたんは、困ったように小首を傾げた。


「おい、ふざけてんのかてめぇ!」


 うーむ、感動が先走ってどうしようか迷うな。こういう時ってどうしたらいいんだっけ?

 やっぱり、無視するのがいいのだろうか?

 とか、胸倉を掴まれながら考えてたら、目の前の男の動きがピタリと止まった。


「貴様、ミケラルド様に何をしている?」


 おかしい。二回目……正確には三回目だが、たったそれだけ会っただけで、「様」呼ばわりは流石におかしい。

 いや、リィたんもこの人が俺に求愛してたとか言ってたし、それ程好かれてるって事なのかもしれない。

 女冒険者カミナは、物凄い形相で俺の胸倉を掴んでいた男の首元に、チクチクとダガーを当てていた。

 カミナの殺気は凄まじく、男は一瞬にして青ざめさせた。

 カミナを囲む男三人も、動けずにいるようだ。


「わ、悪かったよカミナっ! 今回は俺が全面的に、悪かった!」


 咄嗟に出た声には、やはり震えが交じっていた。

 しかしおかしい。いかにカミナがランクCの冒険者だとしても、ランクDの俺たちをからかうパーティだぞ?

 という事は、彼らもランクDもしくはそれ以上だと思うのだが、Cランクのカミナ一人と、ランクD以上の四人、気迫で負けてたとしても、そこまで怯える必要があるのだろうか?


「ふん! 一昨日来な!」


 カミナは男の背中をギルド出口に向けて蹴り、追い払うように言った。男たちはそれに釣られながら、逃げるようにギルドを後にしたのだ。


「大丈夫ですか、ミケラルド様っ?」


 凄い、とても「一昨日来な!」とか言った女の子に見えない。チェンジでも使っているんじゃないかってくらいの豹変ぶりだ。


「あ、えぇ、大丈夫です。助かりました、カミナさん」

「カミナと、そうお呼びくださいませ♪」


 今ウィンクした目は、たった今まで殺気を帯びていたのを、俺は忘れてないぞ。


「あ、はい。カミナ、ありがとう」

「うふふふ、どういたしまして~♪」

「……あの人たち、何であんなにカミナに怯えてたの? 見たところ、そこまで実力差はないように思えたけど?」

「良い目をお持ちなのですね、ミケラルド様は♪ けれど、単純な実力だけで決まる程、冒険者の世界は甘くありません。私のこの靴は、ランクAの冒険者ですら気付かれない恩恵をもたらしてくれる【隠密ブーツ】です。これを用いれば、彼らと離れた後、別の場所で命を奪う事も可能なのです」


 さらっと怖い事言ったな。

 しかしなるほど。たとえここでひと悶着あったとしても、カミナの実力ならば逃げきる事は可能だ。そしてその後隙を衝いて、一人ずつ先程の男たちを殺せる。ならば、カミナが恐れられる理由もわかるな。


「けど、そうすると冒険者ギルドからペナルティが出るんじゃないか? 今だって結構危ないところだったんじゃ?」

「冒険者同士のふざけ合い、、、、、でしたらいつでも、いくらでも起きてしまいます。これらを冒険者ギルドが管理する事は出来ません。なので、レッド、、、たちはミケラルド様を傷付けるつもりははなからなかったのです」

「ん? その言い方だと少しおかしいんじゃない?」

「あくまでミケラルド様の胸倉を掴みかかるまで。それ以上の事はしなかったでしょう。しかし、ミケラルド様のお友達、、、である私が、その喧嘩を買ったとしたら、これは冒険者同士の正式な喧嘩となり、たとえどちらかの冒険者が死んだとしても、冒険者ギルドは関与しないのです」


 そういう事か。

 レッドがおそらくあの男の名前だろう。

 レッドは、俺に喧嘩は売るものの、冗談で済ませるつもりだった。しかし、カミナが買った事で、正式な喧嘩となった訳だ。こうなればギルドは関与せず、カミナはいつでもレッドたちを殺せるようになる、と。そういう訳だ。

 冒険者ギルドという公の場で、目撃者も多いだろう。あのタイミングで、レッドが謝らなければ、カミナは動けた、、、という事だな。

 一番の謎は、俺とカミナがいつ友達になったか、だ。


「ありがとう、勉強になったよ」

「ところでミケラルド様っ」

「なんだい?」

「ダンジョンに潜るのでしたら、ここに、この場所に! とても有能な冒険者がいますよっ♪」


 逆に時間がかかりそうですけど?

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