その21 生まれて初めての人間

 ハンター風のハンと呼ばれた男が駆けながら、弓で俺を狙う。


「アシスト!」


 キッカと呼ばれた僧侶風の女が、ハンに向かって魔法を唱えた。おそらくあれは狙撃性能向上魔法ってとこか。発動時の発光を見るに、光魔法だろうな。さすが僧侶。


「一撃で決めてやるよ! 破魔の一矢!」


 ハンター風なのに、そんなに声を上げていいのだろうか。と思いつつ、俺は身体を捻ってその矢をかわす。

 俺がこれ程余裕があったのには理由がある。

 ……全体的に動きがのろいのだ。これが人間の性能か、と言われれば確かにと、納得してしまうが、もうちょっと強いのかと思っていたのだ。


「何だと!?」


 それだけ自信があったようだな。ハンの弓が中々カッコイイから、勝ったら頂こう。大丈夫だ、相手は追いはぎのようなものだ。勝者の特権くらい許されるべきだ。


「パワーアップ!」

「もう一度! 破魔の一矢!」

「よっと」

「なっ!? 馬鹿な!?」


 多少は威力が上がったであろう破魔の一矢も、俺は掴んでしまったのだ。というかこれってスキルみたいなものなのか? 何だ、破魔の一矢って。


「ぐあっ!? ちっ! やるな!」


 ジェイルが受け持っていた戦士風の男を吹き飛ばし距離をとる。するとジェイルは背中越しに俺に聞いてきた。


「どうする?」

「んー、後味が悪いのでとりあえず殺さない方向で」

「善処しよう」


 そんなやり取りの後、鋭い眼光をしたダイナマイトバディのリィたんがハンを睨んだ。


「リィたん、どうどう。大丈夫だからナタリーをお願い」

「何? ……まったく、仕方のない」


 ぷんすこと怒っているようだが、多分リィたんはあのくらいの怒気で村や町を滅ぼせるからな。それをこの冒険者たちに伝えてあげたいものだが……――


「汚らわしいリザードマンめ!」

「吸血鬼のガキが調子に乗りやがって!」

「悔い改めなさい!」


 ――とか、聞く耳持たない人の代名詞みたいな台詞がポンポンと聞こえてくる。それに、ぼろくそ言われ続けるのも流石に嫌だからな。

 突発的に起こった状況故か、先程の俺の痴態を引きずっているのか、ナタリーは困った顔で俯いている。

 まぁ、これも俺に付いて来た付録のようなものだと、割り切ってもらう他ないだろうな。

 ところで、俺が悔い改めなくちゃいけない事って何だろう?

 やっぱり女性陣に対する目つきだろうか。考えてみてもそれくらいしか浮かばないのだ。しかし、あの僧侶女キッカがそれを知ってる訳ないのだ。

 つまり、魔族というだけでそういった発言があるという事だ。うーむ、人類との共存も難しそうだなぁ。


「ぐぁ!?」


 とか考えながら戦っていたら、俺はいつの間にかハンを組み伏せていた。こんな気軽に大の大人を組み伏せる身体能力か。確かに、人間には恐怖だろうよ。

 俺はハンの頭をスコンと打ち、気絶へと追い込んだ。


「嘘!? ハン! ラッツ、ハンが!」


 とかキッカさんが言ってる内に、戦士風の勇敢だった男ことラッツは、ジェイルさんの見事な一太刀によって、気絶させられていた。


「峰打ちだ」


 おぉ、カッコイイ! あれいつか言ってみたいな!

 さて、残るは杖を構えたキッカさんだけだが、いかんせんこの状況で攻撃は加えたくないものだ。

 いや、別に攻撃して気絶させてもいいのだが、流石にナタリーが怒りそうだしな。

 俺はそう判断し、ジェイルにアイコンタクトを送った。すると、ジェイルも得心した様子で、ラッツの首元に剣を持っていった。


「命をとりはしない。だが、抵抗すればこの者の命をもらい受ける。大人しく捕まれ」

「ひ、卑怯な……!」


 どの口が言うんだろう。

 お前らから襲ってきたのを、俺は生涯忘れないぞ?

 といっても、キッカが抵抗できる事はなく、ジェイルが持っていたロープによって大人しく縛られた。


「ど、どうするのよミック!」

「とか言いつつ、ナタリーもちゃっかりキッカにスリープの魔法使ってるじゃないか?」

「しょ、しょうがないでしょ! 私たちの話聞かれたらミックたちの噂も広がっちゃうんだから!」


 まぁ、そりゃそうだよな。討伐隊とか組まれたら厄介事にしかならない。ナタリーもそれがよくわかっているようだ。


「アレしかないだろう」


 ジェイルは俺の頭にぽんと手を載せ、そう言った。


「うーん、やっぱりアレしかないか」

「え、え? 何の事?」

「わからんのか、ナタリー? ミックならば可能な事よ」

「あ、え? ……うーん、あっ! そっか!」


 十数分後、俺たちは冒険者パーティと離れ、リプトゥア国とリーガル国の国境を目指していた。

 彼らの衣服以外は当然奪い、俺の装備も充実した。

 ナタリーもキッカの杖を持ち、リィたんもハンの剣を装備していた。俺は当然弓だ。超能力と弓は相性が良さそうだしな。

 さて、今頃彼らはホームタウンに戻っているだろうか。まぁ、戻っていても、途中でモンスターに襲われていても、彼らから俺たちの情報が洩れる事はない。

 彼ら三人の腕にある噛み傷は、見つかってしまうかもしれないけどな。

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