第6話 オリンピック、前夜3
「小池!? 小池!? 大丈夫か!? 救急車だ!? 救急車を呼べ!?」
彼女は、水泳の練習中に倒れた。なぜか今日はタイムが伸びない。肩で息をするほど体調が悪かった。彼女は自分が病気とも考えることも無く、プールサイドで倒れた。
「ここは? どこ?」
次に彼女が目を覚ました時は病院のベッドの上だった。彼女は何があって、自分が眠りに着いたのかも分からない。いったい誰が私の水着を脱がして、私服に着替えさせたのかも分からないのだ。日本代表の水泳選手ということで個室の病室が与えられた。
「よろしくお願いします。」
彼女は病院で精密検査を受けた。日本の水泳協会も2020年東京オリンピックのスター候補の彼女に好待遇で病院の入院費や検査費は、全額負担すると約束した。この時は、彼女も、彼女の両親も、水泳協会の人間も、ただの疲労だと予想していた。
「は、白血病!? 白血病だと!?」
「娘は!? 娘は助かるんですか!?」
事態が一変した。精密検査の結果、異常な数値が判明したのだった。病名は、白血病。現代では、不治の病ではないが、難病であることには変わりはない。
「先生!? 娘をエリ子を助けて下さい!? どうしてうちの娘が白血病なんかにかかるんですか!?」
「どうすれば治るんですか!? 教えてください!?」
彼女の両親は、娘が病気にかかったことを知った。かぜや熱などの軽い病気ではなかった。なぜ!? 自分の子供が!? 初めて重い病になって、両親とは子供の心配をする。
「エリ子・・・ウエエエ~ン。」
「泣くな。みっともない。」
母は泣いた。父も体裁は気にするが娘を心から心配している。今までは「勝った!」「優勝した!」「うちの娘はすごい!」「どう自慢の私の娘よ!」「水泳の小池エリ子って、知ってる? 俺の娘だぜ!」いつも自慢の娘だと周囲の人間に自慢してきた。きっと水泳協会からも支援金として、世界の遠征費や、お金ももらってきただろう。
「小池は白血病です!」
「なんだって!?」
「直ぐに入院させないといけません。」
「なにー!?東京オリンピックはどうするんだ!? もう2年もないんだぞ!? 小池が東京オリンピックに出れなかったらメダルが取れないじゃないか!? 私の責任問題になるぞ!? どうしてくれるんだ!? 何が何でも小池の病気を治すんだ!?」
日本の水泳協会の職員が協会に電話で連絡している。病気になった小池のことを心配するより自分の立場を心配する。今までは彼女を神のように扱ってきたのに、彼女が病気になったら、腫れ物に触るように余計なことをしてくれたな、という感じであった。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。