番外章:ひたひた、呼ぶ

第134話 番外編-1

いつも立ち寄るコンビニ。いつものやる気のない店員にハイライト2箱と肉まん3個を注文し、鼻歌を口ずさみながらコンビニを出る。

少し前から深い霧が立ちこめて、腕を前に伸ばすと指先から先が全く見えなくなっていた。


 ジョンは買ったばかりのタバコを口に咥えながら、夜の街をゆっくりと歩く。時間は深夜1時を少し過ぎた頃、片手にコンビニの袋を提げるジョン。

1本目を吸い終わり、携帯灰皿に吸い殻を押し込むと次のタバコへ歩きながら火をつける。


「ん……?」


 足先に何かが当たる。

それは金属製の看板で、工事中の告知のために立てかけられものが何かの拍子に倒れていたものであった。


『この先工事中”ご迷惑お掛けします”』


 ジョンは看板を避けると、そのまま家路についたのであった。


 

 ――それから数分後。ジョンは何かに後をつけられていることに気がついた。

カツン、カツンとジョンの革靴が静かな道路に響き、それに合わせるようにぺたり、ぺたりと濡れたような足音が続く。


「……コンビニに寄るだけのつもりが」


 ジョンは後ろを振り返ると、姿の見えないその人物に目を凝らす。

そして半分ほどの短さになったタバコを口から離すと、火がついたままのそれを指で弾いて後ろへと転がす。


「これが可愛い女なら、こっちの方がつけ回したいところなんだが」


 耳を澄ますと聞こえてくる、湿気の籠もった足音。それがジョンの後を数メートルの間隔を空けてストーカーの様に着いてきていた。

真夜中の、霧深い夜に響くのっぺりとした足音。その足音の持ち主が”碌でもない”のは容易に想像できる。


 手持ちの武器といえば、足に隠した小ぶりのサバイバルナイフが1つ。

流石に相手が何にしろ、このままでは分が悪い。ジョンはそこまで考えると、歩調を少しずつ早くしていく。


「……」


 ジョンは無言で駆けだした。

視界がほとんどない中であったが、そこは慣れ親しんだ道。おおよその地理は分かっていた。

『このまま家に走って、そこまで着いてくるなら”しばいて”やる』


 ジョンは視界なきまま、夜の道をひた走る。

右に曲がり、2つ目の信号を左に曲がる。そのまま正面の空き地を通って、細い路地を抜け、3つ目のT字路を右に曲がれば己の家はすぐ目の前。


「は?」


 すぐ目の前であるはずだった。ジョンの頭の中の地図ではそこが己の家の場所であり、何度も家とコンビニを往復していたために間違えようもなかった。

だが、実際にはそこには己の家はなかった。


「おいおい……。 俺が何したって言うんだよ」


 足先に当たる金属の感触。

それは工事を知らせる看板。『この先工事中”ご迷惑お掛けします”』という、先ほど見た文面。 


「これは、さっき見た看板……? なんで家に着かないんだ……?」


 立ち止まると聞こえてくる、湿った足音。

心なしかジョンとその足音の持ち主との距離が縮まっているように感じられた。


「……俺のサインが欲しいのなら、アポイントを取ってから来てくれや」


 そうジョンはつぶやくと、霧の中を考える間もなく駆け出すのであった。


 

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