第82話 ex1-4
ジョンの首に絡みついた白磁にも似た白い腕。そしてそれについた醜く半ば溶けたかの様なケロイド痕は間違いなく妹のもの。
それがギチギチと嫌な音を立てながら、頸動脈と気道を締め上げる。
「……ふっ……ふっ……」
ジョンの顔は段々と紅潮し、口元は苦痛に歪む。
ゆっくりとジョンの体は宙に浮き、足をばたつかせて抵抗をしようとするが無駄であった。
「……ふっ……ふっ……ぅ……」
ジョンの顔色は赤から青へ、そして程なくして白へと変る。
ばたついていた足もゆっくりと動きを止めて、だらんと下がるのみ。
「……ぅ……」
それでも、その腕はジョンの首を絞め続ける。
爪先が肉に食い込み、一筋の血が襟元へと流れ落ちた。
「……」
ジョンは完全に沈黙し、両の手と脚はぶらりと揺れる。
顔色は紙の様に白くなり、舌が口の端からだらりと垂れ下がる。”腕”にジョンが吊られて30分以上は経過していた。常人であれば、5分もあれば意識不明、10分で死へと至る。
ジョンの首を絞めていたその”腕”は、ジョンが完全に沈黙したのを感じたのか、乱雑に左右にジョンの体を揺らす。
だが、ジョンはその揺れに、まるで壊れた人形のようにただただ揺れるばかりであった。
”腕”は興味を無くした様にジョンの首から指の力を抜く。
その瞬間、死体のようになっていたジョンが息を吹き返す。
「……ふっ……ざけっ……」
紙のように白くなった顔に生気が戻る。
同時にだらりと下がった両手に力が籠もり、自身の首を絞めている”傷つき腕”へと手を伸ばす。
そして自身の首とその”傷つき腕”の間に指を滑り込ますと、無造作に力を込める。
軽く小気味良い音が2つ。
メキリッともパキリッとも付かない音が、閑静な住宅街に僅かに響く。
「……どうだっ……くそったれっ……」
次の瞬間、地面に転がって大きく口を開けて肺に酸素を送り込もうとするジョンの姿と、無残にも薬指と小指が明後日の方向を向いた”傷つき腕”の姿があった。
”傷つき腕”の五指の指はまるで蛇の様にのたうち、痙攣する。そして出てきたときの同じく、音もなく霧の中に消えようとする。
霧の中に消えていこうとする”傷つき腕”を見るや、ジョンは脚に隠したナイフを抜き出すと、地面に転がったままの体勢で投げつける。
ジョンが放ったナイフは、まるで矢の様に鋭く真っ直ぐ飛ぶ。そして”傷つき腕”の手の甲に深々と突き刺さり、手の平を貫通ナイフの刃はヌラヌラと何かで濡れていた。
『ホォーフォーホォー!!フォーホォーフォー!!』
突然、辺りに猿にも牛にも似た咆吼が響き渡る。
そして鼻をつままれても分からないような深い霧が、一気にどこかへと引いていくのであった。
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