第62話 10-5

ジュリたちのすぐ上。白骨化したナオミが天井より降ってきた。その手には動かないチェーンソーを携えて。

そして先ほどまでは、ただの白骨死体だったのが、その骨の至る所に黒いタール状のものがこびりついていた。


「っ……!」

 ジュリはナオミのチェーンソーの刃を、自身の持つチェーンソーで受け止める。錆びたナオミのその刃に、ジュリの白銀のチェーンソーが食い込み、火花が一瞬だけ、手元を明るくする。さらにジュリはチェーンソーを捻り、錆びた刃をねじりながら割ると、半回転してナオミの頭に目掛けてハイキックをたたき込む。

頭蓋の一部が割れ、床に白い骨片が散らばって、ナオミは部屋の隅へと蹴り飛ばされた。

そこにジョンの持っていた散弾銃が火を噴いて、さらにナオミの骨片が床に散らばる。床に転がったナオミの頭骨は半分ほど無くなるが、眼底より上が無くなったにも関わらず、ゆっくると立ち上がったのだった。


「厄介ね」

ジュリはまだ動こうとするナオミを見て、ため息をついた。


「急いでこの部屋から出ないとマズいな。 ……見ろ」

ジョンは部屋の中央に向けて視線を送る。それに釣られて、ジュリも部屋の中央に視線を向けた。そこには死体群の真上、天井からナオミの体に付着していた、黒いタールが降り注いでいるのが見えた。

そして死体群が、大きく蠢き初めていた。数は少し見ただけで20人以上が積み重なっていた。


「アレの相手は骨が折れるわね。兄さん、どうする?」


「ジュリ、お前1人で5分間だけあいつらの相手が出来るか?」

ジョンは腰につけたポシェットから、手の平サイズで四角い包み紙に包まれたものを取り出した。そしてジョンは乱暴に包み紙を剥がすと、中から白い粘度のようなものが姿を現した。


「コイツでふすまを爆破するから」


「プラスチック爆弾? よくそんなものを持ってきたわね」


「用心のためさ。 じゃあ爆弾を仕掛けるまでの時間稼ぎを頼むぞ?」


「任せて」

ジョンはその言葉を聞くと、すぐにふすまにプラスチック爆弾を取り付け始める。一方、ジュリはその手に持つ大型チェーンソーを大きく吹かすと、再びジュリたちに向かってくるナオミに向けて駆け出した。

 

「邪魔よ」

 ジュリはナオミの首の辺りにチェーンソーの刃を振り下ろす。その刃はナオミの首にめり込み、細かくなった骨片、黒いタール、干からびた延髄が宙に舞う。

チェーンソーの刃を振り抜くと同時に、ナオミの胸の辺りを思いっきり蹴り飛ばすと、ナオミは肋の骨を床にまき散らしながら、部屋の隅に転がった。


 「さて、と」

 ジュリは足下に転がる、ナオミの持っていたチェーンソーを拾い上げる。そして、部屋の中央でオブジェと化していた死体群へと向き直った。

先ほどまでは蠢いていた死体群は、黒いタールが体中にこびりついた状態で立ち上がり始めていた。そしてその中の数体には、その手にナイフや草刈り鎌などを持っているのが見えた。


「兄さんのところには行かせないわよ?」

 ジュリは右手には自身の愛用のチェーンソーを、左手にはナオミの壊れたチェーンソーを持つと死体群に突っ込んだ。立ち上がった死体の群れは、ジュリが突っ込むと同時に覆い被さろうと動く。

ジュリは1番前に居た死体の頭に、回転するチェーンソー振りかぶる。その刃は頭蓋の一部を叩き切るが、1人目は動きを止めない。同時に腕を伸ばして襲いかかる2人目を、左手のチェーンソーの刃で受け止めるが、さらに後ろから、黒いタールに塗れた半溶解した死体や白骨死体がジュリに向かって押し寄せてくる。


 ジュリは2人目をチェーンソーで受け止めたまま、肘で殴りつける。白骨死体は大きく吹き飛び、何人もまとめて床に転がる。同時に1人目の首にチェーンソーの刃で吹き飛ばした後、蹴り飛ばす。

同じ要領で3人目を回転するチェーンソーで切り払いながら、4人目を壊れたチェーンソーで殴りつける。割れた人骨が宙に散らばり、ジュリの胸の辺りに辺りに黒い粘液が跳ねる。そうやって、ジュリは次から次へと湧いてくるような死体の群れを切り伏せ、受け止め、蹴り飛ばし続けた。


 そして、ジュリが10人ほどを切り伏せた頃に、ジョンが叫ぶ。

「ジュリ! 準備が出来たぞ!」


「あと何秒ぐらいで爆発するの?」


「30秒だ!」

ジュリは今まで兄より遠ざけて蹴り飛ばしていた死体の群れを、今度は兄のいるふすまの方へ蹴り飛ばし始める。

ジョンもジュリの近くまで駆け寄ると、ジュリと同じようにふすまの方へと死体を投げつき始めた。


 そして30秒後、プラスチック爆弾が爆炎と炸裂音を伴いながら、爆発を引き起こした。

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