第58話 10-1

日差しが強く、蝉の鳴き声がこだまする真夏。33人の白骨死体が、1カ所にまとめられた状態で群馬県の平ヶ岳で発見された。

警察がそれらの白骨死体を検証したところ、どの白骨にも強酸で溶かされたような跡が散見された。


 警察はこの事件を怪異絡みと認定、そして警視庁の怪異専門課である警視庁捜査一課第三特殊捜査係、通称”SIT3”(special investigation team 3)に事件は移送される。

そして、怪異退治の2人組へと事件の解決が依頼された。






  ――昔ながらの和風の屋敷。その中を駆ける女が1人。女は荒い息を吐きながら、手に持ったチェーンソーを下ろして、辺りを見渡す。

木製の廊下、白塗りの壁、不思議な装飾が為された天井。それが延々と続いていた。


「あいつ……私を置いてどこに行ったのよ……!」

彼女は、自身の相棒である男の姿を探していたのだった。


 警察から依頼を受けた、現在屋敷を走り回っている彼女とその相棒は、白骨死体が発見された山中で怪しげな屋敷を発見。突入後、屋敷の分かれ道で別個に行動を開始したのであった。


「じゃあ、10分後、この場所で落ち合いましょう」

そうして分かれたのは良かったのだが、彼女が待ち合わせ場所に戻ってきても、男は戻ることはなかった。


 そして彼女は相棒を探して、屋敷を探し回ることとなったのだ。

歩いても歩いても、延々と変らぬ壁、天井、廊下。それが尋常ではないことに気がついた彼女は焦りと不安から、歩調は段々と早くなり、ついには走り出す。相棒の姿を探して。


「本当に……どこに行ったのよ……」

いくら相棒の名前を呼んでも、返事はない。叫んでも、叫んでも、聞こえるのは不気味な家鳴りばかり。


 「もう、嫌っ……早く帰りたい……」

彼女が疲れ果て、しばらく歩いていると目の前に龍と虎が向かい合っている、金の装飾が為されたふすまが目の前に現れた。


「何……ここ……?」

彼女はいぶかしみながらも、そのふすまに手を掛けると一気に力を込める。


そこは20畳ほどの部屋であった。今までの綺麗な廊下とは対照的に、壁や畳、天井はミミズが這ったかのような赤黒い跡が、何層にも重なったかのような文様が描かれていた。

そしてそこに転がる、異様に溶解した、オブジェのように重なった死体群。そして


「あああっ……」


顔の肉を食い千切られ、皮膚が溶解し始めている、彼女が探していた相棒の姿。相棒はまるで、誕生日ケーキのろうそくのように、死体群の一番上に転がっていた。


「いやぁぁぁぁ……」

彼女は相棒に駆け寄ろうと数歩ほど、部屋の中に2、3歩ほど入る。

だが、部屋に少し入ったところで他人の心配よりも恐怖が勝った。彼女は相棒の無残な姿に恐怖し、本能的に逃げだそうと、振り返った。しかし、


「え!?」

目を離したのは数秒ほど。だが先ほどまで開けっ放しだったはずのふすまは固く閉じられていた。彼女は驚いて、ふすまに手を掛けて力を込めるが開くことはなかった。


「なんでよっ!?なんで開かないのよ!?」

半狂乱になった彼女は、ふすまをチェーンソーで切りつけたが浅い傷が出来るだけで、開く様子はなかった。


 何度も、何度もチェーンソーでふすまを切りつけているうちに、彼女の足下に何かが落ちた。

彼女はちらりと、その落ちたものを見てしまう。


「えっ」

それは人間の人差し指と薬指。


「あああああああ」

ゆっくり、彼女は自身の手を眼前にかざす。そこには、人差し指と薬指が欠けた、己の手。次の瞬間には、ぽろりと中指も床に落ちる。


「死にたく……死にたくない……」

彼女は涙を流し、その涙が頬を伝って床に落ちる。その涙に溶けた頬肉を伴って。

そして段々と彼女の髪、鼻、皮膚、眼球が水のように溶けて床に広がる。


「……! ……!」

ついには喉も溶けて、声も出せなくなった彼女。数刻の後には、骨だけを残してこの世から居なくなったのであった。

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