第31話 6-2

ジュリとジョンの兄妹は、警視庁捜査一課第三特殊捜査係、通称”SIT3”(special investigation team 3の清水に呼び出されて、警察署の応接室に来ていた。

応接室でジュリとジョンに向かい合う清水は、いつもよりも顔色が悪く見えた。清水は兄妹を呼び出した要件を言わずに、ひたすらに白髪交じりの頭をなで付けていた。


「アナタが直接呼び出すなんて、緊急の事件でもあったの?」

 

 その沈黙の中、ジュリは口火を切る。ジョンは無言で、お茶請けのお菓子を口に運んでいる。


「ああ、いや、言いにくいことなんだがな……お前ら、依頼以外で切ってないよな?」


「……どういうこと?」


「とりあえず、コイツを見てくれ」


清水は手元に置いてあったノートパソコンを操作すると、ジュリたちに画面を向ける。

少し間を置いて、パソコンから動画が再生された。



大学生ぐらいの男女が手を振っている姿が映し出される。画面には3人の男女と、背景には見たことのある廃遊園地が写っていた。

会話から察するに、2対2の合コンをした後のお遊びで、心霊スポットで有名であった廃遊園地に訪れたらしい。

撮影者の男は、壊れたメリーゴーランドや観覧車の前でおかしなポーズを取る仲間と笑いながら、撮影を続けていた。


『ねえ! 次はあそこに入ろうよ!』


金髪が特徴的な女が指さした先は、ミラーハウス。もう1人のデニムジャケットの女もノリノリで2人の男を誘う。


『俺なら目をつぶっても、抜けられるぜ!』


ピアスの男が、金髪女に笑いながら答える。


 撮影者の男は、画面の揺れから躊躇している様子が伝わった。


『なあ……もう帰らないか? ……なんかここ、気味悪りぃよ』


『何言ってんだ! お前、ノリ悪いなぁ』


ピアス男が、撮影者をあおる。デニムジャケットの女が撮影者の袖を掴み、ミラーハウスに強引に連れて行こうとする。


『早く、行こっ!』


『……あ~、分かったよ。行くから服を掴まないでくれ』


そして4人の男女は、ミラーハウスに入っていった。先頭のピアス男が懐中電灯を握り、辺りを見ながら歩く。懐中電灯の光が鏡に反射する度に、幾万にも増えたピアス男の顔を映し出す。

撮影者の男もミラーハウスに入ると幾万にも増えた撮影者を映し出した。


『大したことねーな!』


ピアス男は懐中電灯を振り回しながら、陽気な声を出す。


『よゆーよゆー!』


金髪女もそれに答えながら爆笑する。デニムジャケット女も釣られて大声で笑い出す。


 撮影者の男は不安に駆られているようで、撮影画面が後ろを何回も振り返っていた。


『な、なあ……もうそろそろ、戻らないか?』


撮影者の男は、ピアス男に声を掛ける。ピアス男は、一番後ろに居た撮影者に近づくと、胸ぐらを掴んだ。


『お前って、本当につまんねーヤツだな! 帰りたきゃ、1人で帰れよ!』


撮影者の男とピアス男に不穏な空気が流れる。


 その瞬間、ミラーハウスに響く、エンジンの低い音。

4人は同時に動きを止めたのであった。


『な、何!?』


『怖い! 怖い! 怖い!』


金髪女とデニムジャケット女は突然のことに恐怖する。


『何だよ……何なんだよ!』


ピアス男は、懐中電灯を振り回し、その音源を必死に探す。通路の先から飛び出た金属が、懐中電灯の光を鈍く返した。


『ひ、ひっ』


その金属はチェーンソーの刃。そして、ゆっくりとそのチェーンソーの持ち主である女が現れた。

そのチェーンーの持ち主は、抜けるような銀色の髪を持ち、顔色は病的なまでに青白かった。一方で目は燃えるように赤く、唇は血のように紅い。

そしてそのチェーンソー女は、一番近くに居た、デニムジャケット女の首へ目掛けて、その刃を振り降ろした。


 デニムジャケット女の首が大きく裂ける。首の大半が切断され、首の皮一枚を残した状態で、血が切断面からあふれ出す。チェーンソー女の銀髪が赤く染まり、滴る血をそのままに撮影者たちに近づいてくる。


『おい、逃げるぞ!』


『いや! 置いていかないで!』


ピアス男は腰が抜けて座り込んでいた金髪女の手を振り払うと、1人逃げ出す。撮影者もそれに続いて駆け出した。


『お”い”てい”か”な”い”でぇえ”え』

 

後ろから金髪女の叫ぶ声と、チェーンソーの刃が回転する音が響いていた。


 女たちを置いて逃げ出した男たちは、出口を目指してひた走る。しかし、ここはミラーハウス。中は入り組んで迷路になり、容易には抜け出せなかった。


『クソッ! 何で出られねぇ!?』


ピアス男はイライラして、鏡の1枚に蹴りを入れる。撮影者は無言であったが、荒い息だけが録音されていた。 

突然、懐中電灯の光が切れる。


『な、なんだぁ!?』


そして響き渡るチェーンソーの刃の回転する音と重い何かが倒れる音、そして水音。


 撮影者の男が震える手で、撮影カメラを暗視モードに切り替える。

そこには、チェーンソー女が片手には血濡れのチェーンソー、もう片手にはピアス男の生首を持って立っていた。


『ひっ……ひっ……』


画面が小刻みに震える。チェーンソー女は生首を放り捨てると、チェーンソーを構えた。


『ひっ……ひっ……助けっ……』


チェーンソー女が、チェーンソーを撮影者に振り下ろしたところで、映像は途切れたのであった。

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