陶器の鎧のパラディン

片遊佐 牽太

プロローグ

陶器の鎧のパラディンの世界

 目蓋を射抜くような強い日差しが、土の地面に容赦なく降り注いでいた。


 人々が集うこの街の闘技場の中心には、陽の光と観客の熱気を受け止めきれずに、思わず顔を顰めている男性の姿がある。

 その男性がまるで自らを鼓舞するかのように声を張り上げて、一人の人物を紹介すると、それに応えるかのごとく場内を埋め尽くした観客が、一斉に歓喜の声を上げた。


 そして——東側の通路から、紹介された一人のが、馬に乗って姿を現す。


 よく磨き抜かれた金属鎧プレートメイルが、虹でも作り出しそうな程に、陽光を鮮やかに跳ね返していた。

 鎧を構成するそれぞれの金属板は、赤い刺繍と金属のリベットで美しく纏められている。

 そして、前掛けにあたる部分には、金糸で何らかの紋章が描かれていた。


 紹介された騎士は、観客の声援に応えるように、馬で闘技場内を練り歩くと、馬から下りずに闘技場の中心で立ち止まる。


 騎士を紹介した男性——審判ジャッジは、なかなか馬から下りない騎士に向けて、意味ありげな視線を送った。

 だが、騎士はそれを無視しているのか、一向に馬を下りる気配がない。

 仕方なく審判ジャッジは、そのままの人物の紹介に移った。


「では続いて。

 驚くなかれ! 西から挑むのは——」


 そんな言葉で切り出された人物の紹介を聞いて、闘技場内が一気にざわざわと色めき立った。

 一部からは歓声も上がったが、正直誰もがどう反応して良いのかを、戸惑っているようである。


 すると、コツコツというひづめの音とともに、ゆっくりとその人物が西から姿を現した。


「——!?」


 最初は誰もが、その人物の姿を、しっかりと認識できなかったに違いない。

 それ程までにその人物の姿は、陽光を全身に浴びてに輝いていたのだ。


 そして、その人物は存分に光を反射したまま、呆気にとられる観客を背にして、闘技場の中心へと進んで行く。

 そこには自分を誇示するような、無駄な行動は一切存在しない。

 淡々と馬を進めてゆく、自信に満ちた一人のの姿があったのである。


「お、女騎士だ!!」


「それに、何だあの鎧!?

 本気であんな鎧で戦うつもりかよ!?」


 それらの声は、必ずしも女性である彼女を支持するものばかりではない。

 単に自分たちの想像外の人物が現れたことで、物珍しさを話題にしている反応が多いように思われた。

 だが、闘技場の中心に到達した彼女が、ひらりと馬から下りた瞬間、観客たちはようやく我に返ったのか、一気に期待感を込めた大きな歓声を上げる。


「——では双方、剣を抜いて前へ」


 対戦する二人が乗ってきた馬が場外へと下げられ、闘技場の中心に審判ジャッジが立った。

 言葉を聞いた男性騎士は、長めの前髪を一度掻き上げてから、すらりと煌めく長剣を引き抜く。

 その彼の左手には、美しく磨かれた大型の凧型盾カイトシールドがある。


 対する女騎士は、剣を抜く前に、ふと闘技場内をぐるりと見渡した。

 そして、決意を込めると、相手と同じように鞘から剣を一気に引き抜く。


「準備はいいですね?

 あらかじめ理解していると思いますが、この戦いには守るべき規則ルールがあります。

 剣と盾以外での攻撃は禁止ですし、魔法道具マジックアイテムを使うと反則負けです。

 更に命乞いをした相手に、追い打ちを掛けると、重大な罰を受けることになります。

 それを、理解したらそれぞれ正々堂々と、勝負することを誓いなさい」


 審判ジャッジの説明を受けた二人は、それぞれ声を重ねるようにして誓いを立て始めた。


「この剣にかけて、騎士の身に恥じぬ戦いを誓う」


「この戦いが神聖であることを誓おう。

 ——そして神よ、我が剣に祝福を。不幸にも私に刃を向ける女性を許し給え」


 男性騎士は既に勝つつもりなのか、対戦相手の女騎士に対する祈りまでをも含めて、誓いの言葉を宣言した。

 そして、二人が誓いを立てたことを確認した審判ジャッジは、少し後方へ後ずさりながら、開始の声を上げる。


「では、始め!!」


 その声が上がった瞬間——。


 白く輝く鎧をまとった女騎士は、自らを奮い立たせるように、一気に前へと躍り出た。





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