名前のない物語は進み始める1

 最悪だ、学校を休む事になったのはいい。どうせ明日から長期の休みだ。そんな事が些細に感じるほどやばい状況になっている。



 問題はさっきの中学生だ、あのまま押し切られて家まで来られ、今うちの風呂でシャワーを浴びている。どうしてこうなった。



 もしも今、警察が来れば俺の手首には冷たい枷が付けられることだろう。


「ありがと、風邪ひかずに済みそうよ」



 少女は俺の用意したTシャツとハーフパンツを履いて長い黒髪をまとめて俺の前に姿を表した。中学生の体格には少し大きすぎたようでTシャツの裾をくくりハーフパンツもかなりダボダボになっている。



本当なら家に追い返すところだがこの雨とさっきのセリフが気になって聞いてみたくなった。



「俺はただの家出娘を匿ってやる趣味はない、とりあえず事情を話してみてくれ」

 そう言うと少女は信じられない話を始めた。



 「信じて貰えるかは分からないわ、私の姿が見えるのは多分、あなた一人。」


 呆気に取られる俺をよそに少女は続ける。


「違和感を感じたのはここ半年。道を歩く人が私によくぶつかるようになった、初めはむっとしたけど急いでいたのだと思ったの。でも違ったのよ。何人もがそうして私にぶつかって、相手はぶつかった事にすら気が付いてないみたいだったわ。その時にもしかしたら見えていないのかも、そう思ったの」

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