リレーション・ブラッド

雌黄 遊夜

プロローグ

 第一王女として生まれた少女は、3歳になる3日前に姿を消しました。

西の都『エルドレッド』では国を挙げての捜索となりましたが、遂には発見されることはなく、王宮は、国はひどく悲しみました。

 第一王女、『カレン・エルドレッド』の失踪後、その母である第一王妃は床に臥せてしまいました。

 エルドレッド国王は、そんな王妃を哀れに思ったのか、第一王妃という立場は取り上げることはなく、その地位が落ち込むことの無いよう配慮しました。

 第二王妃以下他の妾との間には子を儲けることはありませんでした。


 しかし、その1年後、第一王妃は回復することなく、この世から旅立ちました。

国王の悲しみは大きく、このままではとある側近の一人は国王のサポートに全力を尽くし、ある者は国王は相応しくないと黒い感情があふれ出し、ある者はどうにか国王の癒しにはならないかと、妾を探すことに尽力します。

 2年後、側近が見つけた少女は、第一王妃に瓜二つで、目を奪われました。

 その1年後、第二王女が誕生したのです。


 第二王女誕生から間もなく、世界各地で謎の生物の発見が相次ぎます。

 もともと、人間と妖精と呼ばれる宙を浮き、自由に飛び回る小人、突然変異により、犬や猫といった動物の特徴を持った、数百年前は迫害されていた亜人と呼ばれる種。

 それらが手を取り合って生きている世界であったため、最初こそ亜人種の仲間と思われましたが、ソレらが最初に襲ったのが亜人種で、そこから逃げてきた亜人種が言うには、「アレは違う、アレは変だ」と、震えながら答えたということです。


 エルドレッド国王は、ただちに亜人の保護と、謎の生命体を『ヌラン』と名付け、調査隊を派遣しました。

 それから2年、戦火は広がりを増し、エルドレッドも陥落寸前の域へと達しました。

ヌランの中には知能が発達したモノもいました。

 事実上の降伏となる和平条約が交わされたのは、第二王女が死亡したすぐ後のことです。






「はい、おしまい」

 

 仮面で顔を隠した紙芝居屋はいつもの公園のベンチで、これまたいつもと同じ紙芝居を人間の子ども達の前で話している。8年前起きた、この世界の過去の物語。隣の国の繁栄と衰退を描いたノンフィクション。

 彼の前には5才に満たない子どもたち。ヌランへの服従と亜人のことを小さな心に植え付けるための物語。

 彼もまた、ヌランからの施しを貰って生活している。

彼だけが責められる謂れはない。

 でも、私は彼が本当に伝えたい物語を知っている。

彼の十八番を知っている。

 遠い昔、亜人が迫害を受けていた頃の物語。

10人の、英雄の物語だ。


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