嫌です
話し合いと言っても、そこまで重苦しい雰囲気ではありません。
用意されていた紅茶とお菓子をパクパクと口に含み、特に美味しいのがあったらウンディーネと共有しながら、私は話し合いの場に参加しています。
「もうわかっていると思うけれど、リーフィアが侵入者を捕えた。感謝するよ」
「いえいえー、完全な偶然なので気にする必要はありませんよー」
こちらとしてはストーカーだと思っていたので、褒められるようなことをした実感はありません。というか褒めてくれるのなら休日増やせと言いたいところですが、それは無視されるのでしょうね。
だったら面倒だから最初から褒めないでくださいと思うのですが、それは私が捻くれているからそう思うだけで、普通は褒められると嬉しいのですかね?
……まぁ、現金主義ってことで納得しておきましょう。
「それで、彼らの目的がわかったのですか?」
これでわからないとか言われた暁には、何が何でも部屋に戻ってやる。
私はそう決めていました。
ですが、その心配は杞憂に終わりそうです。
「核心から言うよ。侵入者は人間の間者ではなかった」
ヴィエラさんの言葉で、私を除く全員がホッとしたような顔になりました。
それまでは和やかな空気の中に少しピリッとしたものが含まれていましたが、それがなくなりました。
……でも、まだ完全に安心は出来ません。
「間者ではないのであれば、彼らの目的はなんですか?」
まさか普通に観光しに来た。……ではないでしょう。
本当にただの観光目的であれば隠れる必要はありませんし、あれほど魔族や私を敵視する必要はありません。
それで本当に観光目的だったのなら……まぁ、うん。
不運でしたねー、で済まされるでしょうか?
「奴らは……その……」
ヴィエラさんは気まずそうに私を見つめます。
「どうやら、奴らは本当にリーフィアに用があるようだ」
「は? 私ですか?」
コクリと、ヴィエラさんが頷きます。
「…………帰ります」
「いやいやいやいや! 待って、待ってくれ!」
部屋を出ようとする私の腕を、ヴィエラさんが掴みます。
「だって嫌ですもん。面倒な感じがビンビンです」
私の本能が、この件に関わるなと警鐘を発しています。
なので私はそれに従います。
「お願いだから話だけでも……」
「嫌です。ほんとまじで」
どうして私がエルフと関わらないといけないのですか。
「なぜ、リーフィアはそこまでしてエルフを嫌う? 魔女に間違えられたからなのか?」
「…………いいえ、違います」
魔女に間違えられたことは、どうでもいいです。
私はその程度のことでは怒りません。
私がムカついているのは、もっと別のところ────
「吐き気がするんですよ」
──思い出すのは、あの頑固者のようなエルフ達。
私はあの人達のような、クソみたいに堅い考えが大嫌いなんです。
あれは自分達の自由を、他ならぬ自分が縛るようなものです。
その道しかないと考えるのは、愚の骨頂。
「…………昔の自分を見ているようで、吐き気がします」
私にはこの道しかない。
何もかもを諦め、仕事をしなければ生活することも出来ない。
一つの考えにしか辿り着けない。そんな彼らを見ていると、同じように一方通行の考えを持った昔の私を見ているような感覚になります。
──だから嫌なのです。
『リーフィア……』
ウンディーネには私の気持ちが流れてしまっているのでしょう。
今にも泣きそうな表情をして、そっと私の側に寄り添ってくれました。
「わかったら……もう私に構わないでください」
私は執務室を退出しました。
その足で自室に戻るのではなく、魔王城を出て城下街へ。
そのまま街の外まで歩きました。
『……リーフィア……どこに行く、の?』
ウンディーネはそのように問いかけますが、何となく察しているのでしょう。
その視線は、とある方向に向いていました。
「……あちらに行くのは、久しぶりですね」
私も彼女と同じ方向を眺めます。
その先には、とても大きな森が広がっていました。
「しばらく厄介になります。ウンディーネ」
私は立ち止まって振り向き、ウンディーネに頭を下げました。
『リーフィアが来てくれるのは嬉しいよ……でも、本当に、いいの?』
「問題はありません」
ウンディーネの問いを、何ともないようにそう答えました。
「まだ休暇は四日残っています。それまでは落ち着いた睡眠をしたいのです」
ミリアさん達からは焦りの感情が見えました。
様々なことが起こりすぎて、早くどうにかしなければと思っているのでしょう。
それは間違いではありません。
でも、根を詰めすぎです。
最近はミリアさんも仕事の日々が続いているようですし、アカネさんも帰ってくる方が珍しいです。ディアスさんの訓練も少し厳しくなっているらしく、ヴィエラさんは…………あの人が忙しいのはいつも通りですね。
そんな時に新しい問題が起こるのは避けたいはずです。
なのに、私の関係することだからと優先させてしまっている。
今回の件で余計に疲れさせることを、私は望んでいません。
「この機会に、少しは頭を冷やしてほしいですね」
私はポツリと、そう呟いたのでした。
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