会場へと向かいます

「では、こうしましょう」


 私は一つの案を提示します。

 それにディアスさんは驚き、ミリアさんとアカネさんは笑い、ヴィエラさんは呆れたように溜め息を吐きます。


「へぇ……面白そうじゃねぇか。よしわかった。あいつらにはそう言っておく」


 ディアスさんも最後にはそう言ってニヤリと笑い、早速兵士に伝えると部屋を出て行きました。


「相変わらず面白いことを考えるな、リーフィアよ」


 アカネさんが、ククッと笑います。

 その表情はこの状況を楽しんでいるよう見えました。


「他人事のように言って……こちらは面倒事を押し付けられて、迷惑しているんですよ」


 あーあ、このまま寝過ごしたい気分です。

 でも、それでは問題になることを知っています。今よりももっと面倒なことになることも。


 なので、やってやりましょう。


 私の二週間の休暇のために。




          ◆◇◆




 そして、ディアスさんとの約束の日。


「おいリーフィア! もう時間だぞ!」


 ミリアさんが扉をバァンッと開け、部屋の中に入って来ました。


「ん、んぅ……なんれすか、もう……」


「何ですかではないわ! 時間だと言っているだろう?」


「……時間…………? …………なんでしたっけ?」


 ダメですね。

 寝起きのせいで頭が回っていません。


 時間でしたっけ? ……時計は、まだお昼になる前ですね。昼食にしてもまだ早いですけれど……どうやらそうではない様子。


 ……あれぇ? 本当に何でしたっけ?


「兵士達との決闘だ!」


「…………あーーーー、面倒なのでキャンセルしてもらえます?」


 私は再び布団を被ります。


「良いわけがないだろうがぁああああ!」


「ぶふぉっ……」


 私の体に何かが降って来ました。

 見るまでもなく、ミリアさんでしょう。


「……何するんですかぁ……痛いじゃないですか」


 急なことだったので、普通に痛かったです。

 布団から顔を出し、腹の上に乗っかる魔王に文句の眼差しを向けます。


「起きろと言っているんだ馬鹿!」


「ミリアさんにだけは言われたくありませんよーだ」


「なんだとぅ!?」


 ミリアさんがギャーギャーと騒ぎますが、私は両耳に手を当て、それを遮断します。


「もう良い! このまま運んでやる!」


「えっ……?」


「ふっふっふっ、絶対に逃がさないからな! 覚悟しろリーフィア!」


「あの、いえ……今は裸なので、普通に恥ずかしいんですけど?」


「なら早く着替えてくれる!?」


 これ以上粘っても無駄だと悟った私は、眠気をどうにか抑え込みながら、よろよろとベッドから起き上がります。

 指を鳴らし、魔力を具現化させた洋服を身に纏い、準備は完了です。


「んっ」


 私は両手を広げ、ミリアさんを見つめます。


「ん? なんだ?」


「抱っこです」


「嘘だろ、おい……」


「運んでくれると言ったではありませんか」


「だが、お前は起きたからそれはもう……」


「二言はないですよね? だって魔王様ですものねぇ? 自分の発言には責任を持っていただかないと困りますよ」


「う、うぅ〜〜……わかった! わかったから、ほら!」


 ミリアさんは諦めたようにそう言い、私に背を向けました。

 私は「失礼します」と言ってから、全ての体重を預けます。


「……お前、軽いな」


「ミリアさんが馬鹿力なだけでは?」


「ほんと、部下のくせに容赦ないよな、お前」


「敬意を払った方が良いでしょうか? 我が君」


「……やめてくれ。なんか悪寒がした」


 ……酷い言われようですね。

 敬意を払った途端に悪寒とか、そっちの方が失礼でしょう。


 まぁ、別に良いですけど。


 それよりも面倒な用事を終わら背、さっさと眠ることを優先しましょう。


「さ、目指すは約束の地。走れー」


「お前が指図するな!」


「そこはヒヒーンと鳴くところですよ?」


「余は馬じゃない!」


 文句を言っていますが、やっていることは変わらないんですよねぇ……。

 悲しきかな魔王。口でいくら否定したところで、運命という大きな歯車には逃れられないのですよ。


「かっこつけているところ悪いが、今のお前はかっこよくないぞ」


 ──と、私の内心を見透かしたミリアさんが半顔でそう言ってきました。


「部下を背負っている魔王がそれを言いますか?」


「う、うるさいわい! ほら、走るぞ!」


「え、ちょ、待っ……」


 ガシャーーーーンッ! というけたたましい音を立て、ガラスが割れました。

 どこのですって? 私の部屋の窓です。


「なぁんで窓から出るんですか」


「こっちの方が早い!」


「飛び出す前に開けるとか考えないのですか?」


「両手が塞がっているのだから仕方ないだろう!」


 さっき私のことを軽いと言っていたのだから、片手で開ければ良いと思うのですが……まぁ、良いです。後で怒られるのはミリアさんですし、もう私の部屋が破壊されるのは慣れっこです。


 本当は慣れちゃダメなことなのは百も承知ですが、そこは魔王軍。騒々しいのが日常なのです。


 ミリアさんは私を背負ったまま魔王城を飛び出し、城下街と関門を抜け、野原を駆けます。

 決闘の舞台は、以前にヴィエラさんと戦った闘技場ではありません。今日は魔王軍兵士の全てと戦う予定です。数が数なので、もっと広い地帯で戦うことになりました。


 ……ちなみに、魔王城の護衛は問題ありません。

 アカネさんがお留守番をしてくれているらしく、妾も見たかったと文句を言っていました。


 彼女の実力は、私と同じくらいだと判断しています。

 なので、アカネさんだけが守っていてくれれば、安心です。


「そろそろ到着するぞ!」


 と、考え事をしている間に、もう到着するらしいです。


「はぁ……面倒ですね」


「仕方ないだろう。元はと言えば、お前の怠慢が引き起こしたことだ。しっかりやれ」


「おお……ミリアさんがまともなことを言っている」


「ふふんっ、そうだろう? ああ、そうだとも。なにせ余は魔王だか──」


「心には響きませんけど」


「お願いだ。ほんとお願いだから一回くらいは響いて?」


 ……嘘ですよ。


 確かに、今回のことは私の怠慢が問題だったのでしょう。

 それを改めることはしませんが、その尻拭いくらいはしないとダメってのは理解しています。


「はぁ、それにしても……」


 やっぱり面倒なのには変わりありませんよねぇ。

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