そうはさせません

 王様が乾杯をしようとしたところを、すんでのところでストップを掛けました。


「どうした、リフィ殿」

「ミリアさんのワインを、お水に変えていただけませんか? 子供にアルコールの高いお酒を飲ませるのは、ちょっと……」

「おいリー……」

「リフィです」


 そろそろリフィにも慣れてくれませんかね。

 訂正するの面倒なんですよ。


「リフィ。余だって酒くらいは飲めるぞ?」

「ダメです。見た目的に良くありません」

「だから、大丈夫だと言っているだろう!」

「…………いや、ミリアは水で良いじゃろう。お前は酔うと面倒じゃからな」

「アカネまでそれを言うのか!? ……むぅ、余も酒を飲みたかった」

「我慢してください。それで王様……」


 王は難色を示していました。

 表情くらいは隠すかと思いましたが、それさえも露わにしますか。


 まぁそうでしょうね。

 だってミリアさんとアカネさんのワインには──劇毒が混ぜられているのですから。

 気付かれないように混ぜたつもりなのでしょうけど、私がそのグラスの中身を見た時、完全反応が嫌な警告を発していました。


 アカネさんも、途中から何となく察してくれたようです。


「王様? どうかしました?」

「あ、いや……すまない。ちょうど冷えた水を切らしていてな。ミリア殿も飲みたいと言っていることだ。今日くらいは飲ませてやってはどうだろう?」


 ほう、どうあっても飲ませようとしますか。水が無いなんて、国として大丈夫かと問いたいですけど、面倒なので乗っておきましょう。


 その代わり、こちらも別の手でいかせていただきます。


「ではミリアさん、私のと交換しましょう。こっちの方がアルコールが低いので、まだ大丈夫でしょう」


 ワインを注がれる時、ある程度の選択は出来ました。

 馬鹿みたいに高いのを飲んで、悪酔いをするのも嫌という理由で弱めのを選びました。

 しかし、ミリアさんは「とにかく美味いやつ!」と言って、アルコールが一番高い物を注がれていました。


 ちなみに、そのワインを注がれていたのは、ミリアさんだけではありません。

 本当に美味しいやつなのでしょう。

 国王も同じ物を頼んでいました。


 ……ということは、事前にグラスの底に毒を塗られていたのでしょう。

 アカネさんのも同様だと予想します。


「だが、これが一番美味しいやつ……」

「その程度の物、我らが城へ行けば、いつでも飲めるじゃろう。それに今回は面倒事を起こさないとの約束じゃろう?」

「…………むぅ、わかった。リフィのと交換する」

「──っ、それはダメだ!」


 ここで国王は、初めて焦ったような声を上げました。

 私はなるべく平然を装い、国王に問いかけます。


「何がダメなのでしょうか? 私達が何を飲もうと、それを気まぐれで交換しようと、勝手では?」

「それは……そうなのだが……おい、シェフ」


 国王はシェフを呼び、何かヒソヒソと話しています。

 ……まぁ、私には全て完璧に聞こえているのですけど、気が付いていない風を装っておきましょう。


「──そうか! まだ冷えた水が残っていたか! いやぁすまないリフィ殿、ミリア殿。シェフの確認ミスで、まだ水は残っていたようだ。そのワインと、新たな水を交換させてもらおう」


 国王がパンパンと叩きます。

 メイドさんが私の毒入りのワインを持ち去り、代わりにただの水を出されました。


 結果、私はただの水で、ミリアさんは私のだったワインを飲むことになりましたが……まぁいいでしょう。

 ちなみにアカネさんも、酔ってしまうと迷惑を掛けると言い、水に取り替えてもらっていました。


「うう……美味しいお酒ぇ……」


 泣きそうな顔をして、持ち去られるワインを見つめるミリアさん。


 すいませんミリアさん。

 晩酌程度なら、後でいくらでも付き合います。

 だから今は、我慢してください。


 そんなこんなで始まった食事会は、国王とシェフの頑張りがとても良くわかる会でした。

 豪華な料理を振る舞おうと頑張っている訳ではありません。


 ──如何にしてミリアさん魔王を害するか。


 それを協力して、時に不自然に話し合いながら、頑張っていました。

 途中まではどうにか隠しながら頑張っていましたが、面倒になったのか、それとも強引な手段しか残っていないのか。


 彼らの真意はわかりませんが、どう見ても怪しい行動の数々に、流石に古谷さんもおかしいと思い始めたようですね。

 眉間に皺を寄せて、王様を怪訝な表情で見つめています。


 そんな中私は、のらりくらりと毒入りの料理を躱します。


 勿論、国王達のようにわかりやすい行動をしていません。

 いつも通りの会話をしているように、自然な動作で毒入りを捌き、ミリアさんがそっちに気を取られないよう、上手く誘導していました。

 アカネさんの協力もあったことから、とても動きやすかったです。


「ミリア殿! この料理はシェフ一押しのものなのだ! 一口どうだ!? 我が直接盛ってあげようではないか!」


 甘いです。

 そのお皿に毒が塗ってあることくらい、容易に見破れます。


「ああ、国王自らする必要はありませんよ。この料理はミリアさんの苦手な物も入っていますし、私がよそりましょう」

「うむ! 感謝するぞ、リー……」

「リフィです。いい加減覚えてください。嫌いな物混ぜますよ?」

「そ、それは勘弁してくれ!」

「ふふっ、冗談ですよ。はい、どうぞ」

「うむ! ……うんっ、これも美味しいな!」

「そうですね。……ああ、ミリアさん。これも美味しいですよ」

「おお! リフィのお勧めするものは何でも美味しいな!」

「お褒めに預かり、光栄です」


 国王が何かしようとする前に、私が先手を打つ。

 ミリアさんは私の方を信頼しているので、必ず私のよそった皿を取ります。


「何だか、親子みたいだね」


 そう言うのは、古谷さんです。


「親子ではありませんよ。種族が違うではないですか」


 その返答に、古谷さんは苦笑しました。


「そういうことじゃないよ。そう見えるってだけ。そんなに仲良くなれたのかい?」

「ええ、話してみると、案外良い子ですよ。抱き枕にもちょうど良いですし」

「え、抱き枕……?」

「抱きしめるとちょうど良い。と言ったんです」

「あ、ああ……そうか、そうなんだ……」

「む、何だ。余を抱いていいのは、アカネとリフィだけだぞ。小西には許可しない」

「……ミリアさん。小西ではなく、古谷です」


 重要人物は覚えろと言ったでしょうに。……全く。


「おお! すまない古谷よ。余は人の名を覚えるのが苦手なのだ」

「気にしないでいいよ。それと、別に魔王を抱きたいなんて命知らずなことはしない」

「ええー、勿体ない……」

「リフィさんは、フリー過ぎるよ。もっと警戒とかは……しないよなぁ。リフィさんだもんなぁ」


 おお、古谷さんも私のことをわかってきましたね。


「ぐぬぬ……おいシェフ。何か良い案はないのか……!?」

「そう言われましても、これ以上は気付かれてしまいます……!」


 私達がこのように会話している間、国王とシェフは怪しい会話を交わしていました。


 食事会は──まだまだ続きます。

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