第25話 ズバリどう思ってるの?

 結局、藍がサラサラっとチラシを作って「拓真君、ヨロシク」と俺に手渡したら三人とも黙って立ち上がって演奏する準備を始めた。俺は大慌てでクリアファイルに挟んでからカバンに入れたけど、先輩が「後輩君、さっさと手伝いなさい」などと命令口調で俺に手伝わせるから、ドラムの半分は俺が準備室から第二音楽室へ運んだのは事実だぞ。しかもアンプを運ぶのは相変わらずだけど俺の仕事になってるし(それを言ったところで俺の立場が劇的に変わる訳でもないから今日も黙ってますけど・・・)。

 今日の練習はというと『ふかふかタイム』を通しで3回やったら先輩が早くも「はーい、今日の練習はおしまーい」と宣言してドラムを片付け始めたから藍も唯も片付けを始めた。先輩が言ってた「あと30分くらいしたら始めよう」が「30分くらいしたら帰りましょう」に変わったけど、これも去年までの軽音楽同好会とたいして変わらないのだから俺があーだこーだ言ったところで始まらない。というより、その日の気分で10分になったり30分になったり、0分!つまりトークのみで終わりにするのも珍しくない超がつく程アバウトな同好会なのだ!

 そのまま第二音楽室と準備室の鍵を閉め、鍵は俺たち四人揃って学校事務のところへ持っていたから後は帰るだけ。今日は誰も寄り道する事なく正門を出た。

「それじゃあ、明日は7時半までに正門に集合という事でヨロシク!」

「たっくーん、ちゃあんと印刷しておいてね」

「拓真君、明日は7時半にチラシを持って集合よ」

 おい、ちょっと待て・・・さっき第二音楽室で話してた中には俺がチラシ配りをやる、などと誰も言ってないし、だいたい、正規の同好会メンバーではない俺が何故チラシ配りをやる必要があるのか全然意味不明だぞ!?

「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺もチラシ配りをやるのかあ?」

「あれ?言ってなかったかなあ」

「うーん、言ったような言ってないような・・・」

「ま、どうでもいいわよ。どうせ配るのも大変だから一人でも多いに越したことはないから後輩君も手伝いなさい、いや、そうに決まった」

「たっくんはりっちゃんの頼みは絶対に断らないから大丈夫だよ」

「それもそうね。拓真君、憧れの先輩からの頼みは素直に聞くものです、わかりましたね!」

 そう言いつつ三人揃って俺の方を向いて『お前もやれ!』と言わんばかりの表情なのは勘弁して欲しいぞ。こういうところで阿吽の呼吸をするくらいなら、ドラムとベースのリズムが全然合ってないことを改善しろー!などと言ってやりたいのだが、俺の立場じゃあなあ、はーーーーー・・・

「・・・はいはい、りょーかいしました」

「「「『はい』は1回だけ!」」」

「はい、了解であります!」

 やれやれ、ほとんど強制的に(強要が正しいかも?)俺も明日の朝はチラシ配りをするのは確定かよ!?でも、どうせ言ったところで俺の意見が通るとも思えないし、それなら黙って印刷するのが無難かな・・・

 同じ学区内とはいえ先輩の家は踏切のこっち側、つまり、先輩は正門を出て左だけど、俺と藍、唯は右に曲がって踏切を渡る必要がある。だから先輩と一緒なのは正門までで、そこからは三人で歩いた。因みに正門までは藍と唯が俺の前を並んで歩き、先輩は俺の左側を歩いていた。先輩はニコニコ顔で歩いていたけど・・・

「・・・たっくーん、1つ聞いてもいい?」

 踏切を渡った直後くらいに不意に唯が立ち止まって後ろを歩く俺に並ぶ形になった。藍は後ろを振り返って俺と唯を見ているが、俺が止まらず歩き続けたので今は藍が前を一人で歩き、俺と唯が後ろを並んで歩く形になっている。

「・・・別にいいけど、俺に答えられる範囲でなら、という条件付きだけどね」

「そんな難しい事じゃあないよ。単純に考えれば答えは出てくる質問だよ」

「単純ねえ。それじゃあ言ってくれ」

「ズバリ、たっくんはりっちゃんの事をどう思ってるの?」

「はあ!?」

 俺は思わず大声を上げてしまったけど、質問した唯だけでなく藍もニコニコ顔で俺を見ている。おいおい、俺は揶揄われているのかあ?それとも真面目な質問なのか、どっちなんだあ!?

 俺は答えに窮したから沈黙してしまったけど、いつまでも沈黙する訳にはいかない。それに藍も唯も「早くしなさいよー」と答えを催促しているのだから無視する訳にもいかない。ついでに言えば冗談半分の回答をしたら後で藍に何をされるか想像できないから俺には本当の事を言う以外に選択肢が無い・・・

 俺の沈黙は2、3分続いたと思うけど「ウンウン」と2回頷いてから答える決心が固まった。

「・・・言ってもいいか?」

「いいわよー」

「言っちゃえー」

「ったくー、お前らは呑気だなー」

「そんな事ないよー」

「そうそう」

「はーーー・・・まあ、たしかに先輩は少し抜けているところがあるのは認めるけど、可愛くて愛嬌があって結構魅力的な女の子だね。男が10人いれば10人全員が「可愛い」と答えると思うよ。だけどさあ、どう見ても俺を手下というか子分というか、とにかく俺の事を便利屋みたいにしか思ってないように見えるからなあ。まあ、先輩みたいな子にピッタリのタイプは、それこそ『君の為ならどんな期待にも応えて見せます!』という男なんだろうけど、早くそういう奴が先輩に言い寄ってくれないと俺の体が持たないから勘弁して欲しいぞ、ったくー」

 俺はそう言うと「はーーー・・・」ともう1回ため息をついてしまったけど、藍も唯も何故かニコニコしたまま俺を見ている。

「ふーん、たっくん、案外りっちゃんの事をよーく見てるわねえ」

「それもそうね、でも100点満点の回答じゃあないわよね」

「そうそう、50点、いや30点だね」

「拓真君では30点でも甘いわよ。15点くらいかな」

「まあ、15点は可哀そうだから20点にしておきましょう」

「そうね、20点という事にしておきましょう」

 おいおい、俺の回答のどこが20点なんだ?それに隣を歩いていた筈の唯もいつの間にか速度を上げて藍の横に並んでるし、一体、あいつらはどんな回答を期待してたんだ?

 俺は藍と唯の後ろ姿に問い掛けたけど、当たり前だが藍と唯からの答えはない。

 ま、仕方ないかな、俺が口に出して問い掛けた訳じゃあないからな。それに、20点とはいえ点数を貰えた。今はこれで良しとしよう。

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