第13話 私が姉になって良かったと思う?

 想定外の一言に俺は思わず大声を出してしまったけど、そのくらい、藍の発言は突拍子もない事だった。

「・・・唯の事をどう思ってるとかと言われても、何について答えればいいんだ?」

 俺は藍に逆質問をした格好になったけど、藍は真面目な顔を変えず、俺を真っすぐ見たまま言葉を続けた。

「拓真君にとって、ユイは妹として相応しいの?それとも、妹ではない方がいいのか、どっちなの?」

 もうCMは終わり次のクイズが出題されているけど、俺も藍もクイズを解いている状況ではなかった。藍が俺を真剣な眼差しで見ているから俺もテレビを見ているような事はしてない。

 でも、藍は俺から何を聞き出したいんだ?義理とはいえ妹になった唯が『俺の妹として相応しい』のか、それとも『妹として相応しくない』のか、そんな事を聞いたところで何の意味がある?

 それに、仮に妹として相応しくないとしたら単に再従妹はとことして、下宿人のままでいた方が良かったという意味なのか・・・もしかして・・・俺と唯が付き合っている事に気付いているのか?

 俺は多分1分以上にわたって沈黙していたと思うけど、俺なりの回答がまとまったから話し始めた。もちろん、藍はさっきからずっと俺から視線を外そうとしない。

「・・・俺は唯が妹で良かったと思ってるよ」

「それは本心で思ってるの?それとも場当たり的な答えなの?」

「場当たり的などと言われるのは心外だなー。俺は結果的に唯の兄貴になってしまったけど、将来、唯が結婚して誰かの嫁さんになったとしても唯は俺の妹であるし、俺は唯の兄貴だと自信を持って答えられる事を誇りに思ってる。まあ、唯の相手が誰になるのかは今の段階で決まってない以上、これ以上は答えようがないのは事実だけど、藍は俺が唯の兄貴として相応しくないとでも思ってるのか?」

 俺は真っすぐに藍を見ながら話したけど、藍はそれを真正面から受け止めていた。いや、むしろ俺の話が終わったらになった。

「・・・拓真君がユイのお兄さんでいてくれて、ううん、、私にとってもこれ以上嬉しい事はないわよ」

「そうか・・・そう言ってくれて助かるよ」

 そう言ってから俺はコーヒーカップを手に取ってコーヒーを飲み始めた。藍も普段のクールな笑みではなく、どちらかと言えば唯スマイルに近い表情でコーヒーカップに手を伸ばした。

「じゃあ、もう1つ質問してもいい?」

「ん?いいよー」

「拓真君は私が姉になって良かったと思う?」

「!!!!!」

 俺は危うくコーヒーを藍の顔にぶっかけるところだった。


 おいおい、この話題は俺にとって禁忌とでもいえる内容だぞ。元カノの藍が義理とはいえ俺の姉になった事が幸か不幸かをなどと言われて素直に答えられるとでも思ってるのかあ!?

 そんな俺の葛藤を知ってか知らずか藍はコーヒーを一口だけ飲んだらコーヒーカップをテーブルに戻した。その表情はさっきまでと変わってない。

「・・・私としては、のは嬉しいけど、それを向こうから言い出してくれたが本当に嬉しいわよ。もちろん、本音を言えばけど『無い物ねだり』をしても始まらないのは重々承知してるわ。でも、紘一おじさんと優子おばさんには『お義父さん』『お義母さん』と言えたら良かったなあ」

 それだけ言うと藍はテーブルの上にあったクッキーを1枚右手で掴んで口の中に入れたけど、その表情は全然変わってない。俺は何も答える事が出来なくて藍を見ている事しか出来なかった。

「・・・まあ、普通は本人の目の前で『良かったです』と答える事はあっても『不幸です』などとは誰だって口が裂けても言えないのは分かってるから、別に答えなくてもいいわよー。拓真君の答えは『俺は再従姉はとこのままでいてくれた方が良かった』だと思ってるけど、私はそれで構わないと思ってるし、無理して義理とはいえ弟として振る舞う必要はないと思ってるから、私の事は姉というよりなあ。私はユイの姉になった事を後悔する気はないし、むしろ姉になって良かったと思ってるわよ。もちろん、拓真君とこうやって話せるのは私にとって幸なのか不幸なのかと聞かれたら、わよ。これはユイがこの場にいても答える自信があるとだけ言っておくね」

 藍はそれを最後に俺から視線を外した。その後は俺に視線を向ける事なくテレビを見続けたけど、そんな藍を見て俺は何も答える事が出来なかった。

 藍は俺に何を言いたかったのだろう・・・


 でも、藍の表情は女王様を彷彿させるクールな笑みではなかった。むしろ唯を彷彿、いや、唯以上の自然な笑みだった・・・

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