第47話
おかしい。思った事はダイアウルフの行動の奇妙さだった。
既に群れの大半はサラとソフィによって、打ち倒され、群れを率いていたと思われるリーダー格のダイアウルフも先程サラに斬り伏せられ、その身体を焼かれていた。
本来ならリーダーが倒された時に、そうでなくても、明らかに格上の相手と分かった時には、動物型の魔物ならば、退いているはずだった。
にもかかわらず、ダイアウルフはまるでこの馬車を襲うよう指示でも受けているかのように、執拗に襲いかかってきた。
狙いが馬車だと分かっているので、その守りも、また返り討ちにするのも容易い。
想像していたよりもずっと楽に、2人はダイアウルフの群れを打ち破った。
遅れて3人がたどり着く。まだまだ体力に課題があるようだ。
肩で息をしながら、辺りを見つめ、驚嘆と称賛の入り交じった顔で2人を見つめた。
「はぁ・・・はぁ・・・。サラさん達、凄すぎです」
「これ、ダイアウルフですよね? こんなに大勢いたのに、もう全部倒しちゃうなんて」
どうやら、3人は走るのに夢中で、こちらのやり取りをよく見ていなかったようだ。
とっさのことで、剣を振るったが、カインの付与魔法の効果が見られずに済んで、サラは内心ほっとしていた。
「あの・・・。貴方達が助けてくれたんですよね? ありがとうございます。助かりました」
声のする方を見ると、旅の途中なため、煌びやかではないが、上品で高級そうなドレスを身に纏った女性が、馬車から身体を乗り出していた。
その後から、こちらも上等な服装をした壮年の紳士が、女性と同じようにお礼を言いながら、馬車から降りてきた。
「やぁ。どうも。本当に助かった。護衛に雇った冒険者に逃げられてしまってね。これから私達はコルマールに向かうんだが、それまで護衛を頼めないだろうか。報酬は弾むつもりだよ」
「私からもお願いします。見た所、貴方達もそこまで高位の冒険者ではないでしょうが、いくら大きいとはいえ、あんな犬ころに恐れをなして逃げ出す冒険者なんかよりずっとましでしょうから」
5人は虫も殺せないような顔をした女性の発言に、眉をひそめた。
どうやら、ダイアウルフの恐ろしさを全く知らないらしいが、それでも今この場でこのような発言をするという事は、彼女が世間知らずのお嬢様だという事実を如実に示していた。
「これ! ルティ。私達を助けてくれた人達に向かってなんという言い草だ。すまんね。この子は物語ばっかり好きで、世間をあまり知らんのだよ。気を悪くしないでくれたまえ。それでどうだろう。同行してくれるかね?」
サラとソフィは顔を見合わせ、少し考えたあと、申し出を受けることにした。
3人は元々サラ達の決定に従うつもりでいたから、どこからも文句は出なかった。
ただ1人、ルティを除いては。
先程の逃げ出した男の冒険者の事が余程気に食わなかったのか、それとも単純に狭くなるのが嫌だったのか、ルティはマークとアレックスの同席を拒否した。
そのため、2人は御者の座る場所に座る羽目になった。
それを見ても、ルティは特に悪びれる素振りも見せず、隣にうずくまっている犬の背をひたすら撫でていた。
◇
カインが付与をかけた綺麗な模様をした布を持ち、ララは博覧会の会場まで来ていた。
他の3人も先程まで近くまで来たのだが、広さの関係や、保安のために会場に入れるのは、招待状を持たない限り、品物を持ってきた団体の代表者1名だけだった。
入口でその説明を聞いた際、4人は話し合い、結果、ララが潜入する役目となった。
理由は主に二つ。一つ目は、布の性能を示すのにララの炎魔法が必須だからである。
もう一つの理由は、会場内及び会食の際に、武器の帯同を許されていないからだ。
魔術師であるララはその点、武器が無くても立ち回ることが出来る。
また、単純な戦闘力の観点でいえば、この4人の中で最も強いのは間違いなくララだった。
一対一では絶大な強さを誇るルークでさえ、ララとまともにやり合えば、数回に1度は負ける。
ましてや、多勢を相手にする場合、ララの放つ広範囲魔法が絶大な殲滅力を示す。
いつもはおちゃらけていても、れっきとしたSランクの魔術師なのだ。
「うー。緊張するー。あ! あの子のドレス可愛いなぁ。あ! あの子のドレスも素敵ー!」
緊張とは何か? と問いかけたくなるような態度を示すララであったが、きちんと自分の任された仕事をこなす点に関しては、信頼されていた。
ただ、かなりの頻度でやりすぎてしまう事があるから、同じだけ、心配もされていた。
ララは人が大勢集まっている広場に足を運ぶと、突然右の手の平から炎を出した。
突然の出来事に驚き、自然と道を空ける人々をしり目に、広場の中央に立つと口上を始めた。
「ここに取り出した1枚の布。この布はある遺跡で発見された、それはとんでもない性能を秘めた魔法の布だ。今ここにその性能をしかとお見せしよう!」
そういうと、ララは手についていた炎に、今見せた布とは別の小さな布を当てた。
即座に布は燃え上がり、瞬く間に、消し炭と化した。
その後、ララは左手を最初に見せた布でしっかり覆うと、左手を右の手の平に未だに燃え盛る炎の中に入れた。
小さな悲鳴が上がる。それでもララは平然な顔をして、そのまま左手を炎で炙り続けていた。
しばらくして、ララはおもむろに炎から手を引くと、布と自分の手を高く上げ、布にも自分の手にも一切の燃えた痕がないことを示した
◇◇◇◇◇◇
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