第29話

「もう戦わない?」

「……ねぇ、何を隠しているの?」


クロルはその言葉に驚きクロルらしくなく妙に慌てる

私は立ち上がり顔を近づける


「近いですよ。このままだと……」


少しクロルは離れようとする


「してあげよっか? それよりも先に隠してる事聞きたいなぁ〜。したら教えてくれる?」

「いや、それは……」


言葉が詰まっているようだ


「ちゃんと否定しないと強制的に教えてもらう事になるよ。良いの?」

「教えられません!」


私を突き飛ばす

私は転がり石にぶつかって停止する


「痛いなぁ〜」


……慌ててるところを見るに自覚している闇があるなぁ、危ない危ない突き飛ばされなければこちらも飲まれる所だった


立ち上がり服に付いた汚れを払う

クロルにも隠し事があるようで気になったから少し心の中を見ようとしたのは間違いだった

危うく飲まれかけた


……深淵を覗く時深淵もまたこちらを覗いているのだなんてよく言ったよ。意味は違うだろうけど心を見るときは少なからずこちらも見られる


深呼吸して息を整える


「へぇ、あの参謀ちゃんが女の子誑かしてるよ。あの銀髪は吸血鬼の女の子だ!」

「おや?裏切り者は呑気ね」

「どうします先輩、裏切り者を殺しますか?」


声がして木の上を見ると7人の魔族が立ってこちらを見ていた

その中にはラフィラも居た


「よう、吸血鬼、今回はお前ではなくそいつに用がある」


ラフィラはそういってクロルを睨みつける


「新しい第三席ですか? 早いですね」

「俺は代理だ。あんたが戻るなら返すぞ、だが裏切りは死をもって償うのが我々の掟だ」

「神霊魔法 神霊の息吹」


クロルが先制攻撃を行う


「おっ、風だ」


1人が笑ってそう言うと風が弱まる

誰もダメージを受けていないように見える


「どうしたの?」

「第七席の魔法……シャル逃げてください」


クロルの表情から理由を読み取り翼を生やして空を飛ぶ


「それなら逃げれますね」

「どうだろうね。それよりクロル、自分の心配をしたほうがいいわよ」

「吸血鬼ちゃんに翼が生えてる!? 凄いなぁ〜翼が


飛行して逃げる為、上に向かう


「……しまっ……駄目です! シャル、上に飛んでは!」

「えっ……」


私は上を目指して飛んでいたはずなのに落下している

状況が飲み込めない


……なんで落ちているの?


落下して地面に激突する

頭を強く打ち意識が朦朧とする

ふらふらとしながら立ち上がると風に吹き飛ばされる

ぼやける視界の中クロルがこちらに魔法を放っていた

私を逃がすために誰よりも早く最善と思える方法を取っていた

私ならもしもの事があっても死にはしない


「クロ……ル……」


7人に対して1人で戦おうとしている

ただの7人ならともかく相手はクロルと同等の実力を持つ七裁王クラス

クロルでも勝てるわけが無い

これは言わずともクロルは知っているだろう


「逃がさない」


1人が追いかけてくる

恐らくクロルの話からして第七席の座を持っている魔族なのだろう

変な魔法を使い攻撃を無力化したり飛んでる私を落としたりしていた

私を掴み上に向かって飛ぶ

森の上まで来ると停止する


「離して」

「やだ」

「闇魔法 ブラックウェポン」

「魔法 反転の壁」


黒い武器が魔族目掛けて飛んでいくが全て途中で真反対の方向へ飛んでいく


「何今の」

「さぁね」

「闇魔法 ダークバースト」

「反転の壁」


一点に集中した攻撃を跳ね返し私にぶつける

盾を張りダメージを軽減したが吹き飛び咄嗟に翼を出して空中で体制を直す


「ある秘密教えてあげよう」


近づいてきた魔族は攻撃をしてこないで耳元である秘密について囁く

私は驚きクロルの方を向く

クロルは私が何を言われたか理解して下を向く


「それは本当?」

「うん、そうだよ。どうする?」


笑いながらその魔族は言う

クロルは黙っている

嘘をついているようには見えないしクロルの動きからして事実なのだろう


「何か弁解は?……答えろ」


私は苛立ちながらクロルに問う

弱々しく首を横に振りクロルは沈黙する


「沈黙は肯定と取る……ふざけるな! 騙して楽しいか!!」

「…………」


何一つ言葉を発しない

ある秘密というのはクロルの正体についてだった

クロルは私たちに見せているその姿とは全く別人であるらしく私たちに見せているのは幻想の類らしい

私が苛立っているのはそこではなく私たちに向けた感情が偽物であった事だ

今まで手伝ってくれたのや力を貸してくれたのは偽りの元に活動していただけで彼女自身とは別であった

裏切り者として私たちの元に来たのは本体の目的の為に過ぎない

要するに今までの言葉は目的のための手段に過ぎなかった

私は魔法を発動する


「……黒に染めろ! 何もかもを黒に変え敵を撃ち殺せ、闇は集まり敵に降り注げ 破片も残すな……闇魔法 黒千弾雨 爆」


上空に巨大な魔法陣を開く

その大きさは数百メートルに及び国の方からでもしっかりと視認できるほど大きい

黒い雨が地面に降り注ぎ地面に当たると同時に爆発を起こす

他の魔族は距離を取り様子を見ている

私の攻撃はクロルの居た方に降り注ぐ

回避はほぼ不可能の広範囲攻撃である


「遠慮ないね」

「遠慮いる?」

「要らない。君は目的外だから何もしない」

「それは有難い」


爆発で巻き上がった砂がこちらまで来て私達の視界を遮る


「強過ぎた」

「何も見えないよ〜」

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