第20話「どんな人が好みなの?」

 さて、退院した後初めて咲の病室に行ったのだが、なんと個室であった。個室は昔社会見学で一回見たことあったけど、人が使っているのは初めて見た。何度か通ってやっと慣れてきたが、ここまでラノベ以外生活感がない部屋を見るとちょっと心配になってくるのだが。それにしても本当にお嬢様なんだろうかこの子。今日持ってきたラノベを表情には出ないが楽しそうに読んでいるところを見ると、文学少女系お嬢様なんて意外に似合っている気もする。

「ねえ千明。」

「ん?」

「千明はどんな人が好き?」

「何の話だそれは?そのラノベのキャラの中で?」

「…キャラのタイプ。クールとか、熱血とか。」

「ふむ。」

 別に特定キャラではなく、好きなキャラの性格のタイプを聞きたいらしい。正直体育会系みたいな熱血キャラは疲れるから好きじゃない。あとなんでも見通してマス的ななんか斜め上から目線でものをいうキャラもむかつくから嫌い。クラスのカースト一位、大衆のリーダー的なカリスマは問答無用で大嫌い。だめだ、どちらかというと嫌いなキャラばっかり出てきてしまう。ほらそうそう人間は人間好きにならないじゃん。そうすることで客観的にかつ冷静に相手を判断できてるわけで、こうだったらすきになるなんて決まった性格そうそうないだろう。まあでも…

「あれだな、自分の意見をしっかり持っている奴がいいと思う。周りに流されるわけでもなく、いつも自分でよく考えて行動できる。そんなやつかな。」

 正直答えになっているかはわからないが、これが思いついた俺なりの答えだった。多くの人間は自分で考えていないと思う。誰かが言っていた、有名な誰かが言っていたからと、嘘か本当かもわからない情報をうのみにし拡散する。みんながこう言っているからと自分の意見を作らずただ多数に従うだけの人形を俺が好きになるわけがない。これは頭の良さも体の強さも関係ない。俺にとってこの世の中でそれはあまり重要視していないのだ。必要なのは自立した人格。そのうえで多少優秀で俺が頼り頼られる関係を築ける、そんな人が理想かもしれない。面倒くさい男だろうか?

「そ。」

 そっけない返事をしてくる。とうぜんのごとく、その眼は本に向いていてこちらを見向きもしない。

「ああ、そうだよ。」

「…。」

「…。」

 俺も本を読むことを再開する。英単語帳だ。入院していたせいでほかのクラスメイトよりも400単語ほど遅れている。頑張らないといけない。英語苦手だし。

「体つきは?」

「んん?」

 おお結構間があったな。もう終わりかと思って油断してた。やはり彼女はこちらを見ず、むしろ目をそらしながら言った。

「体つきは…気にする方?」

「んー?誰の?自分の?」

 肩幅は広いといわれるけど、特に太っていないし、気にはしていない。背は伸びたいがな!

「ちがう。…女の…胸、とか。」

 心なしか赤面しながら聞いてきた。気にしているのだろうか?でも咲は日本人なうえにガキンチョなのだから、別に全く問題ない体型だと思うけど。旭がおかしいだけだろう。いや、別に旭の体をじろじろ見ていたわけじゃない。なんかことあるごとにそう言うアピールしてきて意識してしまったことがあっただけだ。

「気にはしないな。太っているのは嫌だけど。抱き心地がよさそうならいいかなってくらいか。」

 ウン失言した。女の子にする話じゃないな。でもさ、ほらねているときにちょうどいい人肌の抱き枕あったらよさそうだし、安眠できそうだから。ちょっと恋人ができたらしてみたい気はする。(まあ、できる予定ないけどね。)

「そう。」

 まあ年ごろなのだろうし気になるのかもしれないが、今のままでも十分かわいらしいので杞憂な気はする。容姿は群を抜いているし、むしろ嫌われる方が少ないだろうこいつ。嫌われるのは俺の得意分野だったけど…そういえば前に学校嫌いとか言ってたな。もしかしていじめとかあったりしたのだろうか?もしそうならそんなことした奴らはバカだな。こんな顔も性格もかわいいガキンチョそうそういないっていうのに。

「良かった。」

 安堵の声が聞こえた気がしたけど、気のせいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る