第9話「忘れてた事件の事情聴取」

 その日、病室に警察官がやってきた。一応言っておくが、間違っても自分が犯罪を犯したわけではない。今こうして病院に入院することになった経緯について話を聞かれるのだ。ぶっちゃけ言うと、遅すぎる。もう二週間以上たっているのだ。この病院内のごたごたでほぼ忘れてしまった気もする。今まで何をやっていたんだか…。

 やってきたのは背の高い目つきの悪い男(たぶん自分と同程度かそれ以上)と中背に少し抜けていそうな男の二人だ。1対2での事情聴取ってなんか怖い。中背の男にいきなり今までの経緯を説明された。

「というわけで、事故にあった経緯を教えていただけませんか?」

 どういうわけかというと、ここまで自分に対する事情聴取が遅れた理由は全面的にこの抜けていそうな男のせいらしい。自分を引いた方の運転手に先に事情を聴こうとしたらしいが、その運転手があまりにも取り乱してしまい何日もしっかりとした事情聴取ができなかったのだとか。先にこっちにこいよとも思うけれど、そこら辺は不器用らしい。おそらくもう一人はこの人の監視役ということなのだろう。なら二手に分かれればよかっただけじゃない?

「もう2週間も前のことですのであいまいな部分もありますが、一つ一つ質問してくだされば大丈夫です。」

「助かります。」

 ほっとしたように息をつくこの人は本当に頼りなさそうな印象だ。あれだ、前に来た桑田先生に似てる気がする。

「では…。」

 そう話を始めようとすることを遮るように長身の男が口を開いた。

「おい花崎。お前まだ一度も名乗ってねえだろうが。」

 低く威圧感のある声は目つきの悪さとマッチしている。花崎と呼ばれた男は「ひい」と小さな声を上げてもう一度ことらに向き直った。

「申し遅れました、僕は「花崎煉」といいます。こちらは…。」

「「鈴堂白夜」だ。」

 と改まって自己紹介された。なんだって?レンとビャクヤ!?何それ漫画の主人公!?

「僕は千明といいます。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。では…。」

 ここからは普通に事情聴取がはじめられた。事件当時、聞く話によると警察に連絡したのは同じ学校の生徒だったらしい。けれど事故の瞬間を見た人はいなかったと。いないわけはない。当然自分が突き飛ばしたミディアムはもちろん、彼女をその前に突き飛ばした背高女一行もあの時目に焼き付くほど見ていたはずだ。

「運転手に話を聞いたところ、初めに女生徒が飛び出してきて、そのあと男子生徒が出てきたといっていたのですが、本当でしょうか。」

「そうですね。あらかたあっています。でも、先に言ってしまってよかったんですか?情報は真偽を確かめるためにすり合わせないとだめだと思っていたのですが。」

 花崎は顔を青くした。推理小説から得た知識である。鈴堂ももともと話させるつもりではなかったのだろう。ため息をつきながら花崎に助言する。

「嘘をつくメリットもないし、大丈夫だろう…。」

「は、はい。」

 思ったより優しいなこの人。…顔に反して。

「正確には飛び出した、というよりつきとばされた、というほうが正しいと思います。女生徒の方は4人グループで登校していたのですが、その中で一番貧弱そうな子が遊びかいじめか突き飛ばされたときに偶然トラックが来て僕もとっさに飛び出してしまいました。」

 完結ではないかもしれないがまとめるとそう言うことだ。花崎は少し考えこんだ後、また質問を重ねた。

「その女性たちの名前などはわかりますか?」

「すみません。入学して間もないので名前も学年もまったくわかりません。」

「そうですか。」

 まあ、その4人も良く逃げられたよなーうんすごい。絶対いつか泣かす。その後いくつか質問されたのち、聴取は終了した。両親に丸投げしよう。警察はこれからも捜査を続けるそうだが、恐らくあの女生徒たちは特定できないだろうということだ。ああいったがそんなことはどうでもいい。どうなろうとこの足はもう完治しないのだから。

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