攻略対象はとある令嬢と出会う

レオンのお茶会で不思議な女の子と出会った。


テーブルはほとんどが埋まっていて空いているテーブルは1つしかなかった。そこには先客がいて、その子は僕が相席するのを快諾してくれた。


その子はインヴィディア公の娘でエルヴェラール嬢というらしい。


他の子女達は親からの指示か何かで王子であるレオンや有力貴族の子女達と積極的に関わり共に庭園を走り回ったり、集まって談笑したりしているというのに、公爵令嬢であれば自ら動かずとも周りが寄ってくるとかそういうものなのだろうか、彼女はそのようなことはせず、テーブルにいくつかお菓子を並べ、1人黙々と食べていた。


「ヴォルグ様は何もお取りにならなかったのですか?」


僕の空のままの皿を見てエルヴェラール嬢は言った。


「ん、ああ。先に席を確保してから取りに行こうと思っていたんだけど…もうかなり残りが少ないね」


僕はお菓子が並べられたテーブルの方を見るが、ほとんどが食べ尽くされており、皿がいくつか下げられ、まるでテーブルのお菓子の海にぽっかり穴が開いているかのように見えた。


「それならば次が焼きあがるまでこちらをどうぞ。少々欲張ってたくさん持ってきてしまったものですから」


彼女はいたずらっぽく笑うとお菓子の乗った皿を少しこちら側に寄せた。


「ありがとう。僕はクッキーが好きなんだ。特にアーモンドがたっぷり入っているやつ」


それは良かったと彼女はクッキーが僕の方にくるように皿を回した。


「エルヴェラール嬢は他の方々とお話には?」


「せっかくお茶会に招待されたのですもの。お話ばかりしてお茶とお菓子を楽しまないなんてもったいないです」


彼女は最初から人脈云々のことを考えておらず、純粋にお茶とお菓子を楽しんでいるだけだった。


彼女となら、家がどうのこうのと言わずに友達になれそうな気がした。


「な、なんで悪魔がいるのよ!」


髪を綺麗にきっちりと巻いた令嬢が僕を指差してヒステリックに叫んだ。


そうだ、この黒い髪と赤い目は物語によく出てくる悪魔や怪物と同じ色でこのお茶会以外で出会った子女達に僕は怖がられ、嫌われてしまうのだ。


きっと、僕と一緒にいたせいでエルヴェラール嬢も不快な思いをしただろう。


しかし、彼女は嫌な顔をするどころか挑発的に相手の令嬢を畳み掛けるように言った。


「黒い髪は漆黒の夜のようで素敵ですし、赤い瞳は宝石のようで美しいと思いますわ。それに、救国の英雄様の色を忘れまして?英雄リエン=セーナ=イズフェス騎士団長様は黒い髪に赤い瞳ですわ。あなたは英雄様のことも、侮辱するおつもりかしら?」


令嬢はプルプルと震え出し、覚えてらっしゃいと言って去っていった。


「私はヴォルグ様の色、好きです。自分の好きなものをバカにされたら嫌でしょう?」


何も言い返せず、女の・・・に助けてもらったという恥ずかしさと自分の姿を素敵だと言ってくれた嬉しさで顔が赤くなる。


その後、レオンやウィルム、アルムが合流したのだが、レオンがエル《・・》に馴れ馴れしくするのが何故だか嫌な感じがした。


そう思った時、ちょうどよくお茶会の終わりを告げる鐘が鳴った。


お茶会が終わり、家に帰るなりすぐに姉2人に捕まった。


「誰か可愛い子はいた?」


「嫌ねお姉様、ヴォルグくらいの歳の子はみんな可愛いわよ」


パッと浮かんだのはエルの姿だったが頭を振ってその姿を頭の隅に追いやった。


「あらあらまあまあ!可愛い子を見つけたというより気になる子ができたみたいね!」


「違います!別にそういうのでは…」


「あるわね」


姉2人は僕の両方の腕を捕まえると僕を引きずって父の執務室まで連れていった。


「お父様!ヴォルグに気になる子ができたみたいですよ!」


「だから別にそういうのではなく!」


「どういうことだ?」


父がニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。


その姿を見て僕はここに味方はいないのだと悟った。


「なんというかその、男前というか詩人というか…令嬢だったのが残念だわ。殿方だったなら私がお付き合いしたいところね」


僕は観念してお茶会であった出来事を全て話した。


姉は目を輝かせ父は頭を抱えた。


「ヴォルグ、お前に良いことを教えてやろう。そのエルヴェラール嬢は私の友人の娘だ。しかしな…」


父とインヴィディア公は互いに名前で呼び合う仲らしい。


「クロウは重度の親バカなんだよな…絶対嫁には出さないとか言い…いや、なんでもない。そういえばそろそろうちの庭の薔薇が見頃だったよなぁ?」


なんだか嫌な予感がする。


「是非ともうちにそのエルヴェラール嬢を招待しよう」


そう言うと父は嬉々として便箋を取り出した。

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