第2話 サラダバーで不穏な影

 そんなわけで 俺たちは今、城内の飲食店に来ている。この世界は8方位の方位記号の位置に配置された5つの国と3つの村から成り、国外に洞窟や塔などが点在している。俺たちが今いるカルナ王国は例外で8方位の線を描いた時に、全ての線が交差する中心の位置に存在する。この国も例にもれず被害は深刻だがなんとか城だけは落とされずに済んでいる。

 リクが食べながらおもむろに切り出した

「しっかし、国の被害が深刻だというのに俺たちが食べ放題を満喫していいのかね」

「王様に怒られたのにまだお城にいるし」と食べながら相槌を打つミル

そんな真面目な話題を意にも介さない女が一人

「いいんだよ。国の皆が良いって言っているんだから。だいたい、お礼はいらないって言ったのに押し切ったのは国民の方でしょ」

「それはそうだが・・」

「まあ、いいんじゃないのか。腹ごしらえをしないと旅にも行けない」

勇者がそんなんで良いのかとツッコミを入れるリク

「分かった、ただ飯がそんなに嫌なら仕事をしましょう。私の仕事は皆を回復して癒すこと。魔王ちゃん、癒してあげるからね」

そういって足早に野菜を盛り付けに行く。そんな様子を見てミルが不満げに頬を膨らませる

「いいなあレナ、私も行きたかった」

「さあて、野菜をいっぱい盛り付けちゃうからね」

ルンルン気分で野菜を皿に盛っていく

「ふう、こんなものかな」

山盛りに盛り付けて戻ろうとしたその時

「痛っ」

歩いて来た男にぶつかられる。いや、正確には雄のモンスターだ。

種族は猫人間。その名の通り服を着て二足歩行するスリムな猫のモンスター。

身長は人間と同じく子供か大人にもより様々。この個体は大人で、数種類いる中の三毛猫だった。

「ちょっとあんた、謝りなさいよ」

レナの注意を気にも留めずにその場を去って行った

レナは席に着くなり憤慨した

「なんなのあいつ!信じられない」

野菜にフォークを突き立てるレナの横では魔王がむしゃむしゃと野菜を食べる様子をミルがうれしそうに眺めている

「さて、これからどうするか」

「それを決めるのは勇者おまえだろ。知り合いにいないのか」

「いない。正直、当てもないよ」

俺たちは今までいろんな国を旅してきた。だが、それぞれの国ではモンスターを気絶させることしかしておらずいわゆる、事件解決!みたいなことは一切ない。そのため知り合いも各国の宿屋や装備関連の人だけだ。つまらない旅だった。

「仕方ない、とりあえずは今いる国から探してみよう。皆はそれでいい?」

異論は出なかった。まあ、勇者の決定だからね

食事も終えてそろそろ行こうかと立ちあがった、その時

「何よ、離してよ」

何事かとみると猫人間が女性の腕を掴んでいる。女性も人間ではなく全身にうろこを持つ半魚人だった。

「大人しく俺と来い」

「あーっ、あいつ!さっきぶつかって来た男」

「あれってアツアツな展開⁉」

「―どうみても誘拐犯だろ。レオ、ぶっ飛ばして来て良いか」

「やりすぎるなよ」

「おっし!」

「誘拐犯なの⁉なら、私も戦う」

ミルが後を追う

猫人間はなおも連れさろうとする

「大人しくしろ!」

「待ちやがれ!大人しくしないといけないのはお前だ!」

リクが言いながらげんこつを放つ。

頭上にげんこつが炸裂する

「痛いっ」

「リク、とどめは私が。ほにゃほにゃのふにゃ!」

「なんだこれは・・くさい・・・」

悶絶する猫人間。それもそのはず、レナの呪文の効果により猫人間が立っている場所だけ生渇きの洗濯物の臭いになったのだ。というか、半魚人まで巻き添えを食らっているんですが・・

苦しむ猫人間を俺が抑え込む

「年貢の納め時だ、観念しろ」

が、ふりほどかれる

「いてっ」

猫人間はそのまま走り去った

「ちくしょう、逃げたか」

「まあいいさ。女性が無事だから」

「そうね。とりあえずはよしとしましょう」

安堵する俺たちをよそにぶつぶつ言いながら野菜をフォークで突き刺し続ける

女が一人。怖いな。

猫男がいた場所で何か光る物を見つけた

「ん?なんだ、これ」

拾ってみるとバッチだった。猫の顔が描かれている

「何かのマークか?」

「おーい、レオ。会計が終わったから行くぞ」

リクに呼ばれて我に返る

「ああ、今行く」

バッチをズボンのポケットにしまって駆け出した

 この国から探すと言っても手掛かりはない。そこで俺たちは城下町で聞き込みをすることにした。

俺はベンチで休んでいるおばあさんを見つけた

「あ、あの人に聞いてみよう。すみません」

「あら、あなたたちは魔王を討伐しにでかけられた・・何か御用でしょうか」

「はい、実は今、建築士を探しているんです。どなたかお知り合いにいらっしゃいませんか?」

「建築士ねえ・・あっそういえば」

「ご存知ですか」

「ええ。確かこの国にとても腕のいい建築士がいますよ。名前はボブさん。

でも・・」

「でも?」

「数日前に隣村に出かけたきり帰らないのよ。何かあったのかしら」

「じゃあ、行ってみます」

お礼を言って国を後にする

 しばらく歩いて村に到着

「ふう、到着。まずはどこから探す?」

「だから、それを決めるのがお前だっての。丸投げはいかんよ」

「私、村長さんの家でお茶を飲みたい」

レナがあきれた顔をした

「ミル、遊びじゃないんだから・・」

「良いんじゃないか。お茶でも飲みながらのんびり探そう。皆、ついてこい」

「やったー!」

そんなわけで村長の家へ向かう

俺はふとあることを思い出した

「そういえば、村長の家ってどこ?」

俺は目を丸くした

「ミル、知らないのか」

「知らない」

「でもさっき、村長の家でどうこうって」

「言ったけど場所はしらない」

なんという適当な・・

「仕方ない、とりあえずは一番大きい家に行こう。違ったら拡声器で呼び出せばいいさ」

「うん、そうしよう」

幸いにもそれらしき家はすぐに見つかった

「おーい、村長いる?」

ノックするとすぐにドアが開く音がしておじいさんが出て来た

「私が村長だが。お前たちは?」

「私は勇者レオで、仲間たちです。人を探して旅をしています。この近くに腕のいい建築士がいると聞いて来たのですが」

村長は顔をしかめた

「建築士?そんな人は知らん。この村の住宅は全て住民が自分達で建てたものだ」

何かの間違いだろう、と、露骨に嫌な顔をする

「そうですか。では失礼します」

諦めて帰ろうとしたその時、青年が駆け込んできた

「村長!見つけた~!」

「げっ」

明らかにやばいという顔をする村長

「ちょっと村長!いい加減に継承式の準備を進めて下さい。まだ終わっていないんですよ」

「いや、でも・・」

「でも、じゃありません。あなたが村に降り立つガーゴイルの数を数えてばかりいるから全然終わらないんですよ」

「うっ・・」

さっきまでの威厳はどこへやら。村長はすっかり委縮している

「あの・・すみません。式典とは何のことですか」

「ん?ああ、すみません。旅の方々ですか」

「はい、初めまして。俺はレオです」

「初めまして、僕はガラです。いやね、聞いて下さいよ。もうすぐ次の村長に権力を引き継ぐ大事な儀式があるというのに、この人がガーゴイルの数を数えるばかりで全然準備をしようとしないんですよ」

ちなみに。この世界でガーゴイルを数えるというと、別の世界で公園に飛んでくるハトの数を一羽ずつ数えるのと同じ状況です。平和だな、この村

「とにかく、村長は儀式に必要な材料を取ってきてください」

「そんなこと言われてもなあ。あの屋敷は今では危険な場所になっているんだぞ。お前も知っているだろう」

「それはもちろん知っていますが・・」

「―そうだ。そこの勇者の一行に取ってきてもらおう」

突拍子の無い村長の発言に戸惑う俺たち

「ちょっと待って。なんで俺たちが」

リクが憤慨するが村長は気にする様子もない

「ほう?嫌なのか?勇者と言うのは案外冷たいんだな」

「このっ・・」

「行こう、皆。ただ屋敷に行って取って来ればいいだけだろう?」

「そうだよ」

俺たちは、それならやってやると材料である装飾品が置いてある屋敷に勇ましく向かった






































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