第11話 一段落したかな?
ふぃー。色々と一段落した。
昨日は、家を建てていたところをゴブリンに隙をつかれて家を破壊、それに加えて召喚士にキメラを召喚された。
業火の化身とされる、キメラは森を燃やしたりグレンに攻撃をした。そのキメラの炎はあっという間に、森に広がりたくさんの命を奪ったであろう。
そんな時私は助けることは出来なくて、見守っていることしか出来なかった。
そのあとは、グレンたちの手当をした。グレンの真っ白い毛は、炎によって茶色くなっていたり、グレン自身の血で赤く染っている部分もあった。それを巨大化した《クレル》がグレンを取り込んで綺麗に浄化した。その後に、ステルスが来てくれてゴブリンを近くにある街のモンスターの牢獄となる場所に引渡してくれた。
人目のつかない森でよかったと思った。ステルスは気づいたけど。
とりあえず人への被害はなくてよかったね、と終わった。
回想以上。
「いつもどうりに戻った……」
「早すぎる……森に住んだことがないから分からなかったけど……」
《クレル》はこの世界の案内人ではないのか。住んでいないとわからないこともあるだろうけれどもさ。こんなことが起きてれば、本とかにも載りそうだし、案内人同士で話として上がりそうなのに。
《クレル》は「昔でもこんなことは話にならなかったのな」と、感動したように言った。よくよく考えると、お互いの過去を知らない気がする。
「ねーねー。《クレル》の過去ってど……」
「あ、そーいえば。グレンさん達は?」
てめぇ!話を逸らしやがったな?いつか暴いてやるよ。そのうちな。グレン達を良いように使って、話を逸らした《クレル》は呑気に鼻歌を刻んでいる。
その鼻歌は、森全体に響き渡るようなリズムで勝手に体がつられてしまう。
いや、そんなことはどうでも良くて。
「住処に帰ったよ!」
おふざけ《クレル》とは違って私はまともに返した。
《クレル》がひらぺったくなる。悲しみを表現しているのかな?ちなみに私もお別れの言葉は言えていない。
──ギュルルルルル
大きいなぁ。誰の腹の虫がなったんですか?辺りを見渡しても、驚いた顔をして静止している《クレル》とシルしか居ない。
あ、私でした。スミマセーン。
丸一日何も食べておりません。空腹のせいで動きたくありません。あの赤い果実以外に食料はないでしょうか。あの赤い果実はもう食べたくありません。どなたか助けてください。
だれかー、私に恵みをわけとくれー。と、ただただ願っていると森の方から誰かがやってきた。敵意は感じられないので、きっと私の知っている人だろう。そう、あいつしかいないではないか。
「死にそうになっとるなぁ」
ステルス!
声が出ないほどに嬉しかった。助け舟がやっと来てくれた感じ。お腹の足しになるものをくれ~。
ステルスを見ると、何かを抱えていた。食料だといいなー、と願いながらも私は歩いてくるステルスを目で追った。
「タイミングバッチリだったか」
なんのタイミングですか。まさか!私を殺すために、タイミングを計って!
そんなわけあるか。明らかに抱えているものは艶のある丸いものじゃないですか。
「林檎だ。みんなで食べるが良い」
神様やぁ、てかタイミングよすぎでしょ~。まぁ、有難くいただくけどな。頭をペコペコと下げてから、三人でかぶりつくようにステルスから林檎を貰った。
森は一晩で元通りだし、精神的にも疲れたわ。ゴブリンにかけられた魔法のせいもあるのだろうか。
私は林檎にいち早く飛びついた。そして、頬張った。喉に詰まりそうになるほど急いで食べた。今なら早食いで1位を取れる気がする。いや、行けるね。
「うっぷ」
私女捨ててるわ~。ステルスの前だと女捨ててもいいわ~。美少女だろうと生死に関係することになると、化けの皮が剥がれる奴いるじゃないか。もう、そいつになってやる。
《クレル》は体にリンゴを丸ごと取り込んだ。
凄いな。
シルはちびちびと食べている。もしかして苦手だった?
あ、ちなみに家は建て直してもらいました。と言うより、私が寝ている間に建っていました。
わーお。ビックリだったよ。朝起きたら見知らぬ家がたっているんだもの。ウルフ族すげぇ。本当に感謝、今どきの子達はマジ感謝とか言うのかな。
「げふっ」
《クレル》のゲップウケるんですけどぉ。
私は口に手を当てて、《クレル》に指を指しニヤニヤと笑う。それに気づいた《クレル》は、ぴょんぴょん飛び跳ねた。けど、口からなんか液体が出てきた。
きしょ。
「…………きっしょ」
私は《クレル》の体質について何も知らないから、その液体はげろなんでしょ。
「仕方ないだろ!てか、ゲロじゃねぇ!」
朝からうるせぇなぁ。って顔をしながらステルスは座っている。ステルスも林檎を頬張っている。
そうか、リンゴを丸呑みしているんだから吐かないのか。成程。納得致しました。
「お前らはなんで家で寝ないんだ」
はいー。ド正論ぶちかまされましたー。そうですよねー、そう思いますよね。なんか近寄り難いんですよ。入ったら汚れてしまいそうで。まぁ、家は汚れるものですし。動くのが面倒だったというのもありますね。
「入んねーなら、俺が一番乗りしてやる」
ステルスは家に向かって歩んでいった。
「だだだ、ダメですよ!ダメに決まってるじゃないですか!」
空腹と体力が回復した私は一瞬で動けるようになっていた。私は、ステルスに通せん坊をしている。両手を目一杯広げて、前に立つ。
「だったら最初から入っとけ」
「……はい」
ステルスは、少し微笑む。その顔すごいハンサムー!おじ様って感じがするじゃないですかぁ。
実際はおじ様だけどね。惚れはしない。きっとこんなハンサムだから家庭はきっとあるのだろう。
ステルスは、私の髪を宥めるように触った。
???
私は頭にハテナをたっくさん浮かべた。何がしたいんだろうか、この人は。
「ステルスー?」
名前を呼ぶと驚いた顔をした後、苦笑いをした。不思議な雰囲気に一瞬飲み込まれそうになってしまった。何だか、フワフワした感じにチクチクが混ざってきた感じ。これが三十路の語彙力とは思えないが。
私はずっしりとしている木の扉を開けて、家へ一番乗りをする。木の軋む音はしなかった。
* * * *
クレルとステルスは、泉の前の岩に座り込んでいる。
「《クレル》が胡桃から離れないのも分かるかな」
「あ?」
ステルスが《クレル》に話しかける。その言葉は、昔からの知り合いのようだ。そして、《クレル》の態度もいつもとは違うキツイ態度に豹変した。
「だって、嫌だったらとっくに離れてるだろ?」
淡々と喋るステルスに《クレル》は、反論する。
胡桃は家を楽しそうに散策しているのが、新築の窓からチラッと見え隠れする。
「離れたらいかんのだろ?案内人なんだから」
ステルスの顔が、少し和らいだ。そして、クレルを鷲掴みにして顔の前に持ってくる。ステルスとクレルの間は、僅か5センチくらいだ。
クレルは怯む様子はなく、逆に立ち向かっていこうとする姿勢だった。
「どこまで、守り抜けるものか。楽しみだよ。クレル=✕✕✕✕✕」
クレルが、ステルスの手から離れる。正確には、すり抜けた。
「…………」
2人は沈黙する。クレルは何かを考え込んでいるのか、目を瞑っている。
「…………何するつもりだ?騎士団長様──」
「さぁ?国でも裏切るかな」
ステルスは軽く笑った。
騎士団長のステルスからの、問題発言である。ステルスは、国で一番最強と呼ばれる騎士である。そして、胡桃には嘘をついている。
胡桃は簡単に人を信じてしまう。
胡桃は、遠目で二人を眺めている。ここで空気読めない。KYを発揮する。
「ねーねー!水道まであるよ!」
何話しているんだろうか。長い時間私を一人にするな!置いていくな!ついてけないんだよ!元からいるあなた達に話が追いつけないんだから、私を1人にするなよばーか!絶対に一人にするなよ。
二人はもどかしい雰囲気で、こっちに向かってきた。なんだろう。喧嘩はしていないけど、事実を知って気まずくなっている感じ。
そんな雰囲気は、鈍感な私には伝わりはしないからな。あ、伝わってたわ。あはは。
はあー。これから何しようかな。
「ねね!これから何したらいいと思う?」
私が問う。
「のんびり過ごす」
《クレル》が私のしたいことを答える。
「魔王でも倒したらどう?」
ステルスは馬鹿みたいな無謀な私の目標を口にする。
全く違う意見が返ってきたよぉ。しかもなんか、《クレル》がすっごくステルスを睨んでるし。怖い怖い。
世界は恐ろしや~!
はぁ、何しようかな。誰か。まともな意見を持ってきてくれよ。
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