第9話 よく邪魔が入りますね
東の天候が怪しくなってきた。
だが、その場の雰囲気は楽しいまんまだった。楽しくしているのはグレンたちで、それに乗っかっているのが私達。
私とグレンが指揮を執って、他の者達が働いていた。どうやらウルフ達は働き者らしい。
言ってないことまで先に済ませておいてくれる。これが元の世界でいたらさぞかし気に入られることだろう。
そしてグレンに相当教えこまれているのだろうと、私は思った。教育係には欠かせない人だ。
途中、交代交代で休憩を取っていたのでそこまで疲れている様子は伺えなかった。体力も馬鹿みたいにあるようだ。かと言って、ずっと働かせるわけにもいかない。
いつの間にか、朝日が昇っていた。
空を見上げると、朝日のせいなのか西の空がオレンジに一部だけ染まっていた。
そして、ウルフも一部だけ大狼のままで半分以上は小さくなっている。半分と言ってもムーンウルフの方が希少で珍しいらしい。
東の方には、黒い雲が漂っていた。森も少し、霧がかっている。カラスの鳴き声だろうか、カァカァと更に不気味さを増すような声が聞こえてくる。
「雨が降りそうですね」
グレンがそう言った。私もそう思って頷いた。雨の匂いが少しだけ漂っている。ジメジメした感じ。
作業をそのまま続けていくと一階部分は完成した。
家が作れるんだ。とか、思ったけどそこには触れていけない気がした。
二階部分に取り掛かっている時には雨雲らしき雲は既に近くにあった。
半分まで作り上げると、真上にその雲がやってきた。
けど、雨は降ってこなかった。
雲の中に、龍みたいなやつが蛇のようにうねうねして、見え隠れしているのは気にしないでおこう。
体が大きいだけあって、作業が早く終わりそうだった。
普通だったら、二、三ヶ月とかかるのかな?自分の考えだけど。
朝にも関わらず、体が大きいままなのには、理由がある。
「あの数匹は、グレンさんと同じ種族ですか?」
「うむ。そうだな。月光に当たっていなくても大狼のままでいられる。普通のウルフだな」
へ~。面白いな。この世界には、色々なモンスターや、種族がいるし、飽きなさそうでよかった。
私は飽き性だからね。ゲームだと、実感がなくて飽きちゃうから買ってなかったけど。自分でやってみると、飽きないもんだね~。
「色々あって、面白いですね」
新しい出会いも沢山?って程はないけどあったし、嬉しいな。
出会い方は、ちょっとあれだけど。
毎回、気の折れる音とかなんだよなぁ。嫌だなぁ。
フラグ立てた感がする。
あー、やめやめ。こんなこと想像してると、マジでなんかが来そうだから……ね。
──パキッ
枝の折れる音が森の奥の方から聞こえてくる。もしかして、新しい出会いなんじゃない?嫌な出会い方だけども。
音の聞こえたほうを見ると、確かにそこには何かが居た。
来ちゃったじゃないか!なんでこんな時に来るんだよ!最悪だよ!
フラグをたてて数秒で、回収致しました。
後ちょっとで完成するって言うのに。
「ゴブリンが、何故こんな所に……」
「へ?ゴブリン?」
嫌な予感しかしない。
そう。その嫌な予感は、見事に的中したのだ。嫌な予感って本当に嫌な時に発動するんだね。
ゴブリンは、まず最初に狙っていたのは私のおうちだった。
ゴブリン達は真っ先に新しいマイホームへ、突進して行った。そして、持ってきた木の棒やら何やらで壁を破壊。数分経てば、跡形もなくなりそうな勢いだった。
マイホーーーム!マイホーム!よくも壊してくれたなぁ!
ぶっころじゃあーーー!
死んで償ってもらうか?お?お?
毎回いいところで、邪魔が入らないか?
マジで、マイホーム壊されたことに腹が立った。
ゴブリンって一応妖精なんじゃなかったっけ?
妖精じゃなくても、許す気はもうとうない!いたずらって言い訳されても許さない。
自分の手で殺してやるぅぅ!
ゴブリンに、スコップを構えて突進していこうとする。
ゴブリンの視線が一斉にこちらにむいた。
一匹の偉そうな感じのやつに斬りかかった。
そのゴブリンは目が紅くて、綺麗だと感心してしまった。
そんなことは、どうでもいいのでスコップを振り下ろす。
だが、私の体が金縛りのように動けなくなった。
「は?何これ?聞いてないんですけど」
ゴブリンは、嫌な笑みをこぼしてこちらにのそのそと歩いてくる。私は、とてつもなく焦った。
他のゴブリンは、ウルフに食べられていた。
私はそれを眺めて思った。折角、木をかって2回の最後まで作り上げてきたのに。
血まみれになっちゃったよ。
ゴブリン達が、私を中心にして円を描く様に取り囲んだ。
1番偉そうな、ゴブリンの手が私の胸に伸びてくる。
は?なんだコイツら。生意気な!
ついには、声も出せなくなった。悔しさで、歯を食いしばった。
足が……震える。腰が抜けちゃう。
こんなのが、よくあったら私は生きていけるのでしょうか。まあ、なんとか生きているでしょう。
だって、ゼウスが永遠に生きれるようにするって言ってくれていたからね。
「キャッ!」
一瞬視界が揺らぐ。
下を見ると、私は浮いていた。正確に言うと、吊るされている感じだ。
「何用だ。ゴブリンの長よ」
私の胸に手を伸ばしているゴブリンの手が止まる。
私を通り越して、グレンの目の前に立ち塞がる。
「お前らの、嫌がりそうなことをしに来た」
「それがこやつを狙っていた理由か?」
私を狙うって、どうゆうことですかー?もしかして、してはならないことをした、とか?
えー。どんだけ巻き込まれるんでしょうか。
スローライフを送りたいだけなのに~。はぁー。ダルいってこうゆうの。
はー。己の力で倒せたらいいんだけどなぁ。毎回誰かに頼ってるし。
私よ性格上、人を頼って生きていくのはあまり好きではない。けど、ここでは頼っていないと生きて行けない。#仲間__・__#の大切さがよく分かる世界だ。
てか、いつまでこの私を吊り下げているつもりだ。首が締まりそうなんだけど。
殺す気でいるのか。高いしさぁー。高所恐怖症なんですけど。私。
「この人には、手出しはさせんぞ」
「あれか?お前らが護っていたいって言う。あの人間に似ているからか?」
グレンは、私を吊り下げたままゴブリンに飛びかかる。
私をおろしてぇぇぇえ!怖いぃぃぃい!
「この人はそんなんではない!」
「威嚇ととるぞ?その行動。《我 祖の名わ グレリモース 今ここに誓う この地を燃やし この世を支配すべし 炎の神よ 神獣なる キマイラよ 現れろ 》」
キマイラって、口から炎を出す。いわゆる、キメラでしょ?勝てる気がしないんだけど。ヤベー奴だよ。絶対。
けど、ここから逃げたらグレン達はどうなるの?
キメラに、燃やされて死んじゃうの?嫌だよそんなの。
出会って直ぐに、死んじゃうなんて私の精神が耐えられないんだけど。
確か足も早くなかったっけ?そんなのに勝てねぇーよ!
「シル!この人と一緒に、ここから離れろ!」
「クゥーーン」
シルは既に、《クレル》を乗せて待機していた。
頭がいいなぁ。シルは。
「《クレル》ゥゥゥ!会いたかったよーー!」
話していなかっただけだけどね。あはは。笑ってる場合じゃねーよって。
私は、家から離れた泉のそばの岩に立てかけてあったスコップを手に取り、三人で逃げた。
私は崖に目をつけた。反対側に登れば、いつでも助けに行けるのではないか、と。
いつの間にか私たちの足元には、大きな赤い光を放つ魔法陣が現れていた。
禍々しい雰囲気を漂わせている。
「頑張ってください!」
私は応援の言葉をかけて、崖に行くために走っていった。
* * * *
あれから数分だった頃。私とシル、《クレル》は崖の裏について急いで登っていた。
《クレル》は怯える素振りもなく、ズカズカと崖をスライムのジャンプ力で登っていく。
すると、《クレル》が上から見下ろしてきた。
「速くしないと、グレン達が大変なことになりますよ!」
なんでそんなことお前にわかるのさ。もう、喋れる体力がなかった。
頂上まで長いな。まだ、半分しか登ってきていない。
私が足を引っ張っている感じなんだけどなぁ。
《クレル》だけ、先に行ってもらおうかな。
「《クレル》。先に、行って……あげて」
「シルじゃなくて?」
分かるでしょうが!シルの親みたいな人が死にそうになってたら、飛び込んでいくに決まってるでしょうが!
そんなことも分からんのか。無能が!!と目で訴えるようにして睨みつけた。《クレル》が理解したように先に進んで行った。
疲れるなぁ。本当に。
頷いて、返事をする。
「なら、先に行ってるね~。ノロマさん」
あら?最後になんか余計な言葉が聞こえた気がしたのだけれど。
きぃーー!ムカつくなぁ。本当に。腹が立つ!こうゆうときに使うのかな?はらわたが煮えくり返るって!
くやしぃなぁ。
でも、確かにノロマかもしれない。
速く行かないと、グレン達がどうなっちゃうのか分からないから。
一秒一分でも速く行かなきゃ。
「よし!シル。ペース上げてこー!」
「クゥーン!」
私とシルは、グレン達を見るために急いで登っていくことにした。
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