第43話 キャンディリング7

遅い朝だった。自室のベッドで目が覚めたのは。頭が痛かった。二日酔いのせいだ。




昨日千葉に戻ってから、珍しく酒を飲んだ。酒は、いつか貰って置いたままになっていたサントリー響の瓶を開け、冷凍食品を数品加熱して、それをつまみにした。つまみというより、やけ食いにやけ酒だった。




元来お酒には弱い方なので、明け方に一度起きて吐いたが、その後ぐっすり眠った今も、体内に酒が残っている感じがした。俺は風呂を洗って熱いお湯を張った。












田中浩三、名前を思い出しただけでも腹が立った。初めて出会う、本物の悪意ある存在だった。大介とキャンディリングを利用して金儲けを企み、そして俺の弱みにもつけ込んできた。




大学の学生名簿の乱用は確かにやるべきではなかったし、おいそれと人に明かすようなことではなかった。ヤクザへの資金提供についても、言い逃れはできない。岡本に金を渡したことは今でも悔やまれるし、今現在ヤクザに金を払ってデモ隊を組織しているのも、何も知らない人からすれば、なんともキナ臭い話だろう。その二点は確かに俺が悪い。




だが、その弱みに漬け込む田中は、俺以上の悪人であることは間違いない。田中の裏は、今現在中原さんと黒田たちが洗っているところだ。おそらくすぐに割れるだろう。どこと繋がっていたとしても、田中を許しておくつもりは毛頭ない。ただ、田中がなんでもない一般市民だった場合にはどう対処すべきなのか、それが一番の問題だった。法的には何もしていないので表の力は使えなく、かといって裏の力も使えないだろう。下手なことをして騒ぎになれば、一番被害が来るのは神奈川芸術高等学校の生徒たちだろうし、神谷グループの企業にも風評被害がやってくることは間違いない。




とにかく、俺の立ち居振舞いを考えさせられる良い経験になったことだけは確かだ。




しばらく風呂に浸かり、心を落ち着かせた。












水曜日は喫茶店【花房】のバイトの日だったが、今日は昼のラッシュ時のみ出てあとは帰って来ようと思った。店主のハナさんは先週骨折して入院した。既に退院していたが、まだ店に出られるような状態ではなく、田嶋さん(グループホーム神谷の介護士)が付きっきりで世話をしている。月曜も火曜も田嶋さんが花房を開けたのだ。さすがに今日は行かないと田嶋さんに迷惑がかかるだろう。




俺はサッと髪を乾かして、花房の制服を持って出かけた。アパートの玄関前には、警備員が一名待機していた。俺のアパートの四階には、部屋が一つしかない。そのため、共有スペースも俺しか使わない。そこに椅子と簡単な台を持ち込み、警備員が常駐できるようにした。俺は部屋に入るよう言ったが、仕事だからと固辞されてしまった。今は夏だからいいものの、冬になるとこれは考えなくてはならない。




「会長、お早うございます。」




「あ、お早うございます。」




俺は年上の人間にため口を使うような真似は絶対にできない。祖父も同じだったように記憶している。よほどのことがない限り、このスタンスでいくつもりだ。




「バイトですか?」




「はい。短時間ですけど。」




「今、車出します。」




この日は、元自衛隊の格闘教官が警備に当たっていた。磯崎さんという名前だ。今年で六十一歳になるが、そこら辺のごろつきでは全く相手にならないだろうことは俺にもよくわかった。俺たちは車で花房に向かった。




昨夜、警備会社から、この磯崎さんともう一人の警備員を引き抜いた。待遇としては、今の会社の三倍を提示したが、二人とも即決してくれた。そして中原さんから警備会社に連絡を入れてもらった。こういうときの交渉は、中原さんの右に出る者はいない。二人は何事もなく移籍が完了したのだった。




「そういえば、車買わないと駄目ですね。これ磯崎さんの私物ですよね。」




「そうですね。」




警備会社を辞めたので、当然会社の車は使うことができなくなった。そのため、こうして車で出勤してもらっていた。




「ちょっと中原さんに言っておきますんで、大きめの車を買っておいて欲しいんですけど。」




「わかりました。」












花房では、田嶋さんが店を開けていた。ハナさんも店に来ていた。俺が入ると笑顔で迎え入れてくれた。




「ハナさん!良かった!退院されたんですね。」




「神谷くん色々ありがとうね。」




俺とハナさんはハグをした。これは決して大袈裟ではなく、俺はハナさんの無事と再開を心底喜んだ。ハナさんも涙を流してくれた。




俺は磯崎さんを店に招き入れ、コーヒーを淹れた。




「もうすぐ忙しくなるんですけど、それまでゆっくりしてください。」




磯崎さんは礼を言ってコーヒーを飲み、すぐに車に戻っていった。




この日も高齢者はやって来た。職員が以前とは変わっていた。一人はベテランの女、この人は前からいた。もう一人が若い男ではなくて、かなり年配の女に変わっていた。俺はその人に、いつもの若い男は休みなのか、聞いてみた。




「あの人ね、辞めちゃったの。先週いっぱいで。送別会も開かなくていいなんていうもんですからね。こっちも慌ててお餞別だけ渡したのよ。」




俺が質問した人は施設長だった。男は案の定辞めていた。花房に来なかった時点でなんとなく予想はついていたが。明らかに、あの男にこの仕事は向いていなかった。それは仕事ができるかできないかではなくて、向いているか向いていないかの問題だと思った。




老人たちは、花房でのティータイムを堪能して帰っていった。俺と田嶋さんはフル回転だった。手を抜こうと思えばいくらでも抜けるのだが、俺も田嶋さんもそんな性格ではない。そう考えたとき、ふと今考えたことが何かのヒントになるのではないかという気がした。












老人たちが帰ったあと、田嶋さんと後片付けをした。




「坊っちゃん、海神には戻って来ないんですか?」




海神は、俺の実家のある住所のことだった。田嶋さんは、実家のすぐ向かいにあるグループホーム神谷で、祖母の専属介護士として勤務している。祖母にもしばらく会いに行っていなかったが、実家に行く用事は当面なかった。




「今ちょっと忙しくて。落ち着いたら必ず顔を出します。」




「坊っちゃん、身体壊さないようにしてくださいね。ちゃんと食べてますか?」




俺は返事をしたが、苦笑いになっていたかもしれなかった。田嶋さんが心配してくれるのはありがたい。俺もハナさんも身寄りがないようなものだが、こういう他人だけど近くで支えてくれる人の存在は大きい。




田嶋さんの存在が大きい分、俺は頭の中で暴れているやはり田中浩三という男が、どうしても許しがたかった。人の弱みを探り、優位に立ち、そして法の抜け穴をつついて生きる。賢いということが、余計に性質が悪かった。




「田嶋さん、目の前に悪い人がいたらどうしますか?」




「なんです、急に。悪い人ですか?」




「はい。例えばの話です。」




「そうですね。関わらないのが一番じゃないですか?今どきの悪人は何をするかわかりませんからね。」




田嶋さんは考えながらそう言った。おそらく、俺に諭しているのだと感じた。坊っちゃん、変な人とは関わらないでください、と。




「もし、その悪人が、自分に何かを仕掛けてきたらどうしますか?自分には守るものがあって、逃げられないような状況なら。」




「そうですね。それでも逃げますね。守るものって家族ですよね。私なら家族を連れて逃げます。家族以外に守るものなんてありませんからね。」




なるほど。その考えも、十分に理解できるものだった。だけど、やっぱり俺と田嶋さんは違うとそのとき思った。俺は逃げるつもりなど全くない。ここは逃げてはいけないとき、戦いの準備をしなくてはならないときだ。田嶋さんの答えを聞いて、かえって俺の気持ちは固まった。




「田嶋さん、ありがとうございます。」




俺は着ているエプロンとワイシャツをその場で脱ぎ、バッグの中のTシャツに着替えた。革靴を脱いでカウンターの下のスペースに置き、黒革のサンダルを履いた。ハナさんは店の奥のスペースにいたので、ハナさんに挨拶をして、俺は表に出た。初夏の陽気が風とともに渦巻いて、鼻腔を微かに若草の香りがさらった。磯崎さんの車の助手席に乗り込んで、俺は久し振りに窓を開けた。緩い風が車内に流れ込み、俺の心の蟠りや色々なものに優しく触れていった。俺は咄嗟に尾見くんやユウナたちの顔を思い出した。




「星田組の事務所に行ってください。」












岡本は事務所にいた。




「坊っちゃん、ヤードの件ですか?あんなもんで良かったですか?」




岡本には、ダミーのヤードを運営してもらっている。デモ隊の活動が外国人への差別だと取られないために、デモの対象になってもらっているのだ。当然デモ隊にも星田組の組員はいる。デモをしている方もされる方も、本人たちは何をしているかよく分かっていないかもしれない。




「岡本さん、ヤードの件ではありがとうございます。別件です。奥の部屋でいいですか?」




岡本は俺と磯崎を奥に通した。




「飲みますか?」




酒のセットを出したが、俺たちはすぐに断った。岡本は事務所から冷たいお茶を持ってきて、それをグラスに注いだ。




「それで、なんの話ですか?」




「岡本さん、以前百六十万円をお渡ししましたが、全額返して貰いたいんです。」




岡本の顔つきが一瞬で、殺人熊のように殺気をはらんだものに変わった。無理もないことだった。俺は丁寧に丁寧に事情を説明した。












「そういうことですか。白川組ですかい、坊っちゃんに舐めた口を利いたのは。あいつら、叩き潰しますか?」




「いや、今回は絶対に動かないでください。表に出ないでください。裏で何かやってもバレると思ってください。ここの事務所は一発で消し飛びますよ。」




岡本は一瞬、俺相手に険しい顔をした。以前の俺なら震え上がっていたことだろう。だが、岡本に顔に耐性がついたことと、何より目的意識があったので、そのときは全く動じなかった。




「慎重にいきましょう。金は、車を売って作ってください。車は必ず返します。それならいいでしょう。この動きは周りにバレてもいいんで、とにかく動いてください。」




「ちょっと、待ってください。車を売るのは構いまへんが、必ず戻ってくるっちゅう保証はあるんですか?」




「保証は残せません。岡本さん、俺を信じてもらうしか方法はないです。」




岡本はしばらく考えたが、答えは既に出ていたようだった。




「金はしばらく待ってください。こちらからお持ちします。」




岡本がそう言ったのを確認して、俺と磯崎さんは頭を下げて席を立った。




「岡本さん、恩に着ます。この借りは必ず返します。」












その足で、デモ隊の見学に向かった。中原さんからは極力近づかないように言われていたが、遠くから見学するだけだと自分に言い聞かせた。




昨日、つまり22日の火曜日から、違法ヤードに対するデモは始まった。俺は横浜に行っていたため詳細は伝わってきていないが、トラブルなどの情報は入ってきていない。北房運輸の丸山さんに連絡をしてから、一番規模の大きいヤードに向かった。




館山自動車道を君津インターで降りて、左折してしばらく行くと、目印の建物が見えたので、高速の下を北上する脇道に入った。そこを道なりに進むと、ぽつりぽつりと点在した民家が全く消え、森の中に入った。道の両側は森で、道端はかなり狭く、道路のセンターラインはない。




「こっちで大丈夫ですかね。」




磯崎さんが俺にそう聞いてきたが、土地勘もなく、正しい道は全くわからなかった。




「丸山さんが教えてくれたのはこの道だと思います。」




そこから十分ほど走ったが、何にも遭遇しなかった。これは手詰まりかと思い、一度丸山さんに電話をした。




「会長、分岐のところに大型バスが停まっていますから。」




その場所からさらに奥に進んだところに分岐があり、進むに連れて人や車が見えた。車の脇で青いつなぎを着ていたのは丸山だった。




「会長、わざわざどうも。この先に例のヤードがあるんですが、もうほとんど人はいませんね。」




俺たちは車から降りて道を進んだ。まず目を引いたのは、大型バスだった。こんなところまでよくバスを入れたものだ。これは丸山が手配したものに違いない。そして、バスの隣には白とシルバーのハイエースが並んで停まっており、その隣にはキャンピングカーが待機していた。




「もしかして泊まり込みですか?」




「交代で泊まり込んでます。酒は禁止にしていますわ。」




丸山はそう言って、白のハイエースのスライドドアを開いた。ハイエースはエンジンがかかっていた。中はエアコンで冷えており、座席が取り外されて大量のジャグタンク、それにパン箱や段ボールが積み重なっていた。




「これ、全部食べ物です。籠城しようと思えばできます。」




丸山は得意気に笑った。




「凄いですね。」




丸山は適当なパン箱を持ち上げ、中身を俺に見せた。ぎっしりと、コンビニのおにぎりやサンドイッチなどが詰まっていた。そして壁際の段ボールに手を突っ込み、中から缶コーヒーを二つ取り出して、俺と磯崎さんに渡した。俺はコーヒーの缶を開けながら、デモ隊を目で確認した。




「今は何人くらいいるんですか?」




「今で百人はいないですね。他のとこも行ってますから。」




「え?全部で四ヶ所ですよね?」




「ああ、デモ隊増えましたからね。ホームレスですよ。うちの連中がどっからか声かけて連れてきたんです。食べ放題に飲み放題、風呂代も出すと言って。見てください。」




丸山の視線の先には、高齢者たちの集団がいた。腰が曲がって白髪が目立った。彼らは看板を持って佇んでいた。俺は「なるほど」と呟いていた。丸山はいい顔をした。


若いホームレスたちもいたが、皆痩せていた。そしてヤクザとニート、派遣社員と思われる集団もいた。総勢、百名くらいは確かにいた。声を上げたりはしていない。立って、睨みを利かせている感じだ。それだけでも十分だった。




彼らの視線の先には鉄の柵で粗末に囲まれた工事現場のようなものがあった。ヤードだ。以前に見た白川組のヤードよりも二回りほど大きいが、物静かだった。丸山の話では、昨日は確かに中国人がいたが、今はおそらく一人が待機しているだけだということだ。昨日の夕方に車が二台出ていき、夜にはプレハブに電気がついていたという。それ以来、入ってきた車はないそうだ。




「マスコミは来ましたか?」




「いいえ。来てません。会長、マスコミが来たら私が対応しますか?」




「お願いします。あんまり変な人に対応させないでください。」




「わかってます。」




俺たちは顔を見合わせて笑った。とりあえず、体制としてはかなり安心できるものだ。丸山の手腕に驚きながら、俺は彼らの日当について、改めて箝口令を引くようお願いした。




丸山は闘っている。自分のテリトリーではない場所で。なので、俺も俺の闘いをしなければならないだろう。缶コーヒーを飲み干して、丸山に礼を言い、車に乗った。俄然やる気が出てきた。














俺と磯崎さんは船橋の実家に戻った。既に中原さんと綾子、黒田、それに県議会議員の加藤さんが来ていた。




「坊っちゃん、結論から言いますと、奴は素人です。どことも繋がっていません。今すぐに逮捕することもできます。」




黒田は開口一番そう言った。




「昨日も交渉材料をポンポン出していましたからな。自分のカードをあんな風に切る男は放っておいてもろくなことはできませんな。」




中原さんもそう言った。




「会長、大丈夫ですか?」




綾子が心配そうな目で俺を見た。綾子は昨日、俺をアパートまで送ったあとに、一緒にいてくれると申し出てくれた。俺は断ったが、心配りが嬉しかった。




「皆さん、加藤さんも、心配をおかけしてすいません。もう大丈夫です。僕の準備は整いました。あいつと闘います。」




一同は大きく頷いた。




「まず、情報を詳しく教えてください。あいつは何で俺の個人的なことを知り得たんですか?」




俺の質問には黒田が答えた。




「坊っちゃんはどう思っているかわかりませんが、坊っちゃんの一挙一動は実は注目されているんです。政治家も県警本部もヤクザも土建屋も新聞も。坊っちゃん、四街道のキャバクラに行きましたよね?」




「まあ、はい。」




「そこで大学の名簿云々の話、しませんでしたか?」




俺は一人の男を思い出した。




「実はその翌日、キャバクラで傷害事件が起きているんです。やられたのは探偵会社の者でした。その男が、前日の坊っちゃんの会話を女から聞き出そうとして、女に不審がられて通報される寸前のところで慌てて逃げ出したそうです。しかし従業員に取り押さえられて、警察に通報が来ました。逮捕するような案件ではありませんが、内容が内容だけに取り調べを行いました。すると田中の名前があっさりと出てきたのです。」




「そうだったんですか。」




「はい。探偵会社の名前も全て調べがついています。東京の会社です。」




「そいつと連絡取れますか?いや、コンタクトはこっちからします。連絡先を教えて下さい。」




黒田はメモ帳を開き、会社名と電話番号、男の名前をメモして俺に渡した。




「でも、ヤクザへの資金提供はどうやって知ったんですか?」




「坊っちゃん、この度の大規模なデモ活動の正体は、かなり広まっています。警察でも既に全貌を掴んでいます。もちろん坊っちゃんの狙いが、ヤード撲滅とヤクザの足抜けですから、文句を言う者はいませんがね。ヤクザ界隈も全員知っていますし、千葉新聞も掴んではいます。報道規制は出していますが。」




「俺が金を出していると?」




「そうです。」




それは知らなかった。




「ある意味、簡単に掴める情報を掴んだに過ぎないんです。あの田中という男は。完全な素人です。こちらの力を見誤っています。」




黒田はそう一息に言い切った。そう言われれば、なんだか小物のような気もしてきた。




「でも、芸能事務所の移籍と白川組、この二つは関係しないんですか?その辺がどうもわからないです。」




「白川組との関係はわかりませんが、構成員の親族などではありません。瀬川の息子、瀬川大介を介して知り合ったのではないでしょうか。」




「会長、どちらにしても、急がなければキャンディリングの移籍が迫っています。昨夜は曖昧になったまま終わりましたが、マイさんの問題は何も解決していません。」




綾子がそう言った。綾子は、まだ見ぬマイに思いを寄せている。マイの境遇を偲んでのことだと思う。そうなのだ。最も被害を受けているのはマイなのだ。親に利用され、友人に虐められ、仲間に裏切られそうになり、そして今また俺や田中の都合に利用されようとしている。なんだかんだ言って、俺もマイのことは気がかりだ。そして大介への投資の話もだ。




「坊っちゃん、ここは田中を泳がせませんか?現状では、移籍が実現しても田中の手元には一円も入りません。ですので田中は何らかの動きを取るはずです。田中から手を出してくるのを待って、反撃に出るのが良いのではないですか?」




中原さんが現実的なアドバイスをくれた。俺は皆の顔を見た。加藤さんが力強く頷いた。




「じゃあ、田中は泳がせる。そして大介さんと一緒にマイの問題を解決する。マイの動画はすでにネット上から消えてはいるものの、次のライブでまたコンサート荒らしが出てこないとも限らない。白川組がそいつにコンタクトを取ったというのも気になるところです。」




俺は皆の顔を見ながら慎重に喋った。




「白川組の瀬川を追いましょう。それと、田中。二人に尾行のようなものをつけれますか?」




「任せてください。田中にはすでに簡単な行確がついています。」




黒田が敬礼をした。




「よし。問題はキャンディリングの家族です。既に移籍に向けて心を決めているみたいですが、韓流ユニットとしてデビューすることは知らないかもしれません。このことと、元町プロダクションへの投資の件で、保護者への説明会を開くよう大介さんに提案してみます。」




綾子と目があった。




「綾子さんに頼みたいです。いいかな?」




「わかりました。すぐにコンタクトを取ります。」




「坊っちゃん、田中を泳がせつつこちらから仕掛けるという手もありますぞ。」




加藤さんがそう言った。




「どういうことですか?」




「探偵にガセネタを流す。」




加藤さんはニヤリとした。俺も思わずにやっとしてしまった。そのまま中原さんを見ると、僅かだが笑みを浮かべていた。




「それでいきましょう!GO!」

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