「始まり」のち「前兆」

 瞼を開くとそこには白い天井があった、朦朧とした意識の中で僅かに首を動かすとその視界に映る光景を目にして全てを悟る––––––。

「ここは…天国なんだねぇ、隣に紅月くんが座っているなんて…神様も中々粋な事を––––」

「現実で、医務室だ」

本を片手に熊崎くまさき恵光えみの寝ていたベッドの横で椅子に腰掛けていた『エリヤ』こと紅月あかつき未来みらいは応えた。

「ふぇっ、現実?!ない、ない…起きたら真横に紅月くん…ない、ない、ない…そんなシュチュエーション夢でしかあり得ないから……夢か!」

一瞬高揚するも、現実が信じられないと言った様子で落胆し一人ノリツッコミをする恵光。

「熊崎は俺を買い被りすぎだ、そんな大した人間じゃない…」

瞳に憂いを宿し目線を落としながら返答する、その姿に今にも消え入りそうな翳りを見た気がして––––。

「紅月くん……何を読んでいたの?」

その雰囲気に何処か高鳴ってしまう自分の鼓動を誤魔化すように、関係ない話題を振ってしまう。

「……人間失格」

「重い、重いよ…紅月くん!完全に話題の方向性間違えちゃったよ……何も知らないけど、何故か紅月くんが読んでいたらいけない気がするよ?」

「名作だぞ?」

「知っているけどもさ!」

本をパタンっと閉じ恵光の方に向き直った、思わず勢いで突っ込んでは見たもののまじまじと視線を向けられ、急に恥じらいを露わにし、髪を耳に何度もかける素ぶりをしながら頬を染め俯く。

「さ、さっきは…助けてくれて……ありがとぅ」

先ほどの威勢は何処に、と言った具合でもじもじと恵光は呟く。

「あぁ、まさか心中を理由に脅迫されるとは予想外だった」

真剣な眼差しを恵光に向け未来は嘯(うそぶ)く。その言葉を受け顔面から血の気が引いた様に青ざめ、うな垂れた恵光は。

「ですよねぇー、流石に引くよねぇー、自分でもないわぁって自覚はあるよ?……終わった…1パーセントも無かった可能性が完全に潰えたよ」

完全に消沈し膝を抱えて燃え尽き、真っ白になっている。

「面白かった…」

予期せぬ言葉に色を取り戻した恵光が栗色の双眸で、一度として目にした事のない優しげな笑顔を自分に向けている未来の姿を視界に入れ…昇天。

「危ないっ!また逝ってしまうところだった…『持って行かれ』そうだったよ…ウヨウヨの人に…」

「大丈夫か?何のことかわからないが、熊崎は面白いな?イメージと違うから少し驚いた」

未来は楽しげな雰囲気で恵光を見つめその瞳を、悪意のない…しかし世の女性には破壊力抜群の表情で覗き込む。

「くぅっ、眩しいぃ!眼球が幸福で溶けそう……わ、わたし…その、あんまり他の女の子と趣味とか、合わなくて…友達も少ないから」

「友人なら、俺もいないが?」

「紅月くんは、特別だよ…むしろ神々しいというか、みんな友達なんて恐れ多いと思ってる……私みたいなのが一緒にいる所誰かに見られたら、どんな目に合うか……」

「そうか…では既に遅いかもしれん」

顎に手を置き思案顔をする未来を見て、ここに来る前の状況と今の場所を思い起こし猛烈な焦燥が押し寄せる…

「あか、あかつきくん、わ、わたし…どうやってここに?」

「……抱きかかえて」

恥ずかしさと、喜びと、恐怖が同時に押し寄せると言う奇妙な感覚を味わいながら恵光は今まで意識もしていなかった周りの様子に恐る恐る視線を向け––––––。

眼があった、怨嗟の眼が医務室内、窓の外、扉の隙間から一見いちゃついている様にしか見えない二人…主に恵光に対して四方から向けられている。

「うぅわぁ」

額から滝の様に流れる汗、思わず気の抜けた声を漏らし打開策を頭にぐるぐると巡らせるが、次の瞬間、浅知恵を嘲笑うかのように、未来の『優しさ』という凶刃が恵光を襲う。

「汗、すごいぞ?大丈夫か?」

未来は徐に取り出したハンカチで優しく恵光の額の汗を手ずから拭い––––。

「熱でもあるのか?」

切り揃えられた前髪を優しい手つきで搔きあげ、その額をそっと重ねる。

「ぁ、あ、ああああ、あか…つきくん…だい、だいじょう…ぶ、だから」

眼前に迫る美丈夫に、顔中を真っ赤に染めて眼を回す恵光。そして突き刺さる怨念に満ちた視線と呪詛の様な呟きが周囲から木霊し……

「あぁ…オワタ、私の学園生活よさようなら。でも、紅月くんとこんなに近くで……これくらいの代償は仕方ないか」

血の気が引いた表情だが、何処か満更でもない恵光の様子をしげしげと伺っていた未来は、更に恵光の想像を遥かに覆す。

「それで?俺は何をしたら良い?」

「へ?何をと申されますと…?ある意味、もう残りの人生投げて良いぐらいしてもらった気はするけど…」

未来は何処か呆れ気味に肩を落とし続けた。

「だから、大袈裟だ…俺の命を貰うんだろ?熊崎の行動に俺は負けたんだ、約束どおりこの命、好きに使って構わない」

思考回路が完全に停止…周りの視線も呪詛も聞こえない、静寂が二人の空間を支配し恵光の時間を止める。

永遠のように思える……しかし僅かな沈黙を経て恵光は––––––。

「奴隷なり、玩具なり、好きに––––」

何だか不吉な事を語っている未来を遮り、涙を溜め込んだ双眸に熱情と溢れ返る想いを込めて。

真っ白な頭で、霊が魂が語る様に無意識な唇が言葉を紡ぐ。

「あかつきくん、私の人生を…もらってください」

真っ赤に染まった頬と、真剣な眼差し。僅かに潤んだ双眸は様々な感情が入り混じっていた。

何より––––––。

「……それじゃ、逆だろう?」

「……私…ずっと、あかつきくんの事が––––––」

力強い眼差しだった、嘘偽りのない真っ直ぐな言葉。長い間ブレる事なく想いを重ね続けてきた真っ直ぐで力強い意思。その言葉は未来の心を、貫いた。もう少し…目の前の女性と生きてみたい、と思わせる程に。

「後悔するなよ?俺は、お前が思うより業が深いぞ」

恵光の言葉を遮り真剣な眼差しを返して問いかける。

「うん、何だって受け入れる…たとえあなたが魔王でも、私は…みらい君が大好き」

一瞬恵光の言葉に驚き、唖然となる…しかし次第に込み上げてくる感情。

「……フフ、ハハハハハハハハッ」

「あかつき君?」

一世一代の告白が一笑に伏され、そんな未来を僅かに怪訝な面持ちで見つめる恵光。

「魔王か……存外、間違ってはいないかもな。熊崎…お前は面白い、気に入った。貴様の人生この魔王が奪い取ってやろう」

惚ける恵光を余所に、戯けた調子で口角を吊り上げるような微笑を浮かべ、いつの間にか医務室周辺に出来ていた野次馬を一瞥すると、恵光を軽く抱き抱え群集の中心に向かって行く。

「ひゃぁっ!あ、あかつきくん?!みんな見てるよ?そんな、本当に魔王っぽくならなくても……ちょっと…カッコいいけど……じゃなくて––––––」

何事かと更に数を増した群集の中心で軽く恵光に微笑みかけると、途端に赤面する彼女を抱きかかえたまま未来は声を張った。

「皆、聞け。刮目せよ––––」

「ぁ……かつき…くぅん…恥ずかしいょ…」

あぁ…最高に幸せだけど…明日から大学いけない…お父さん、お母さん…ごめんなさい、必ず学費は返すよ……

みんな注目してる…どうしてこうなったのかな?私が調子に乗って告白したから…だから公開処刑なのかな?

ねぇ、あかつき君…何でそんなに笑顔なのかな?…うわぁ癒されるぅ、じゃなくて…何する気なのー!?

「約束通り…お前を貰う」

「ぇ…」

「ここに居る熊崎恵光を、今日この瞬間より俺の婚約者とする!」

「婚約者…こんやく…こんにゃく?」

一瞬の静寂、その場に居た誰もが目を剥き顎をぶら下げ、のちに泣き崩れ卒倒する女性達、冷やかし混じりの歓声を挙げる男性陣がチラホラ…悍ましい形相で恵光に敵愾心をぶつける者が数名。

恵光、思考放棄…半開きの口から生気を垂れ流し、点になった目で虚空を見つめたのち。

「ぅえぇええええぇえい!」

意味不明な奇声を発し…昇天しかけるも、未来に揺すられ阻止。

「彼女に対する不敬は俺に対する不敬と知れ、好意には友好を持って返す。彼女に在らぬ敵愾心をぶつけるならば俺の全てを賭けて報復させて貰う、以上だ!」

静まる群集…一部から「未来さまぁ」と啜り泣く声が聞こえ、一人の拍手を皮切りに喝采が起こった。

実際、紅月未来という男は質実剛健、文武両道、そして屈指の美丈夫である事からその名を大学というフィールドに置いて大いに轟かせていた。極め付けは、自身が去った後の母まりなの老後に備え片手間で始めた株式投資で資産を作り、ファンドを立ち上げ破竹の勢いで企業を買い叩いては、再建しその規模を拡大。そして数社の上場企業を買収しその株式を過半数以上手にしており、母まりなは気付いていないが、現在『紅月家』の総資産は数千億円に上る。齢二十歳で長者番付に手が届く程の成功を収めた未来は「何で君大学にいるの?」と素朴に疑問を抱えられているが、全ては母の為である。だが決して『マザコン』では無い。

「あれで、下賎な輩が熊崎に妙な真似をする事はないだろう…だが、大学ではなるべく一緒にいた方が良い」

「あかつき君……本当に魔王みたいだよ?何と言うか、存在が規格外だよ?チートなのかな?」

「チート?あまり聞かない用語だ」

「ぁ、ゴメンわたし、ちょっと趣味が…アニメとか、ゲームが昔から好きで…後ラノベも少々」

「そうなのか、悪い…今までそういった類の物は経験がなくてな…」

二人は興奮覚めやらぬ群集を尻目に、踵を返して早々とその場を立ち去っていた。今は大学を後にし、駅へと向かう遊歩道を並んで歩いている。

「あかつき君が謝る事じゃ無いよ、わたしこそ変なの…女の子なのに、だからあまり周りとも馴染めなくて」

「女だから、趣味が限定されるのは不当な扱いだと思うが?他人の価値観で推し量れるものではないだろう?」

「フフ、ありがとう。あかつき君はラノベに出てくる主人公みたいだよ?私、そんなあかつき君がずっと大好きだった…」

「ぁ…」

思わず出た本音に頬を染め俯く…そして恐る恐る未来を見上げて不安な気持ちを抑え問いかけた。

「あの…さっき言ってた…あれ、本気?」

「婚約か?」

「うぅ…うん、とっても…嬉しいんだけど…私なんか…」

「熊崎が『人生を貰え』と言ったのだろう?アレはそう言う意味じゃ無いのか」

「ぃや……確かに言った、言ったのだけどね…あの時はあかつき君の気持ちも考えずに…舞い上がっちゃって、あかつき君が私なんかの事…す、好きになるはず–––––」

「ラノベとやらを教えてくれないか?」

「へ?」

「熊崎の好きな本…アニメ、ゲーム、何でもいい…俺に熊崎の事を教えてくれないか?」

「ぁかつき君……」

未来はその足を止め恵光に向き直る、それに合わせて恵光も未来を見つめ返し、その暖かい光を宿した瞳を見て恵光は思わずその双眸を潤ませた。

「共に時間を過ごそう、多くの時間を…そして俺は熊崎の事をもっと知りたいと思っている」

「わたしも……知りたい…」

「ああ、語ろう。互いの全てを、そして宣言しよう。俺は熊崎の全てを知った上で、愛する事を」

恵光の双眸から溢れ出た雫が頬を伝う、言葉が出なかった…彼の優しさに胸が締め付けられ呼吸が出来ない…

憧れだった、ずっと追いかけて来た人が自分にこんな眼差しを向けてくれる日が来るなんて。

夢かもしれない、夢でも良い…ただ夢なら覚めないで欲しい、そのまま永遠の眠りについても、この夢に溺れていたい。

「わたしも……愛します、あかつき君にどんな事があっても、どんな過去があっても、わたしは…わたしに今日まで光を与え続けてくれたあなたを…愛し続けます」

二人の空間が時を止めたように、辺りの喧騒が薄れ二人だけの静寂が訪れる…

見つめ合い、吸い寄せ合うように抱き合った二人は、お互いの瞳にその表情を写し合い…そのまま優しい口付けを交わす。その瞬間だけは『エリヤ』と言う永遠の呪縛から解き放たれ、『未来』になれた気がした…

それから十年––––––。

「祐真、起きて!今日から小学生だよ?遅刻しちゃうよー」

「眠い…小学校は明日からにする…」

「何バカなこと言っているの?もしかして、またお父さんと遅くまで起きてた?」

そこには母となった恵光と二人の間に生まれた息子『祐真』が微笑ましい論争を繰り広げる幸せな光景。

「未来くん!祐真を遅くまで付き合わせちゃダメだよー!」

「いや、昨日はアレだ異世界のダークヒーローになって祐真と一緒に旅をしてだな…」

「みらいくん?」

「恵光、話せばわかる…だからその黒いオーラをしまうんだ、恵光!包丁を直しなさい、危ないから…投げないで、夫に投げて良い物じゃないから?!」

「また、わたしのデータ勝手に進めたでしょう?」

「ま、まて…話し合おう、武力では何も解決できない…えみぃいーーー!」

「––––––」

「はぁ、まだ6歳の息子を夜中までゲームに付き合わせる父親がどこにいるのかな?……昔の未来くんはもっとクールで……ブーメランだ、そもそも私が魔改造しちゃったんだよね……」

恵光は自身の趣味であるラノベやアニメのキャラクター像を未来に与え、吸収率の高い未来はそのまま各種キャラクター達の特性をぐんぐん吸い上げ…恵光が「やり過ぎてしまった…」と気付いた時には既に遅し、以前の『未来』と言うキャラは完全に消失。

「お母さん…お父さんがピクピクしてるよ?」

「お父さんはそのぐらいで死なないから大丈夫よ?早くご飯食べなさい」

元々ファンタジーに生きていた恵光は『未来』の過去をあっさり受け入れた、寧ろ非現実に喜び…自分を異世界に連れて行けと狂喜乱舞した程。

「ピーマン嫌い……朝からお野菜多い……」

「ちゃんと食べないと元気出ないよ?お野菜もねー」

「むぅ……こらぷす」

皿に盛ってあったピーマンが瞬時に消失した。

「ゆうまぁー!嫌いなものだけ『消した』らダメっていつも言っているでしょう!」

「まあまあ、そんなに怒るなって。祐真…その『力』は特別なんだ、お父さんとの約束覚えてるな?」

「うん!たいせつな人をまもる時ときんきゅうじたいしか使っちゃダメ」

紅月未来と恵光の間に生まれた『祐真』は『エリヤ』の力『創造と崩壊シンラバンショウ』を半分受け継ぎこの世に生を受けた。

そして祐真が受け継いだ力は『森羅崩壊コラプス』それは全ての概念を否定する力、祐真が『無い』と信じ望んだ概念は消失する、もし…祐真が『ピーマン』と言う目の前の『個』ではなく『概念』の消失を望み、その想いが『概念』を覆す時、その存在は文字通り『無くなる』のだ。

幼くして『力』に目覚めた祐真はその幼心故に、『力』に対する疑いが無かった。その無垢な心は顕著に祐真の『力』を促進させ、未来はそれを抑えるのではなくコントロールする方法を教えて来た。

「ピーマンはきんきゅうじたいだった!」

「そうか、なら仕方ないな!」

「……みらいくん?ゆうま?」

「ゆ、ゆうま…お母さんが悲しむから、ちゃんと食べような?」

「う、うん、ちゃんと食べる」

そんな、特殊な家庭という事もあって…もっとも逞しく成長したのは恵光だろう。

「じゃぁ、俺は先に出るよ、祐真、小学校頑張るんだぞ?『力』は人に見られ無いようにな?」

「うん!見られないように頑張る!」

「もし、見られたら?」

「きおくにバイバイしてもらう」

「未来くん?息子になんて事、教えたのかな?」

「えみっ!今日も美しいな、愛しているよ」

「もう、そんな事言ったって…許してあげちゃぅ」

頬を赤らめもじもじと俯く恵光の頭を撫でて、抱き寄せ、額に軽く口付けをして玄関に向かい、通り過ぎざまに祐真の頭をわしゃわしゃと撫で、片目を瞑って戯けてみせる。

「じゃぁ行ってくる、何かあったらいつでも呼べよ?三十秒で駆けつける」

「はいはい、未来くんは本当にやっちゃうからね…頼りにしてます、旦那様」

恵光は玄関で鞄を手渡し、再び口付けを交わす。

「行ってらっしゃい…未来くん」

「お父さん、頑張ってね」

「おう!今日も新しい風を日本に起こしてくるぜ!」

「ぁあ…はははは…行ってらっしゃーい」

自身の失態に頭を抱える恵光、ここまで影響してしまうとは……後の祭りだ。未来は恵光の影響で、日本のサブカルチャーに惹かれ、現在ゲーム会社や新人の漫画家支援など手広く事業を展開している。

『紅月家』の躍進は止まることを知らず、遂には長者番付五位以内に必ず名を連ねる程。ちなみに矢面に立たされているのは『紅月まりな』だったりする。

「お父さんは、本当に困ったさんだねぇ」

「うん、お母さん…お父さんのこと好き?」

「ふふ、大好きよ、お母さんの世界一はいつでもお父さん。そして祐真は『特別』だよぉ」

恵光は祐真を抱き上げ、頬をぐりぐりと押し付ける。

「ボクも、お父さん大好き!お母さんは怒ってない時だけ好き!」

「ゆうまがお利口さんだったら、お母さんいつも優しいと思うよ?」

「お母さん、びじんだね。あいしてるよ」

恵光は目を細め愛しい我が子の成長に口元を緩めながら優しく頭を撫でる。

「お父さんの真似は、あと二十年早いかなぁ?でも、ありがとう。特別に許しちゃう」

「へへへ」

「悪い顔しないの!お父さんはそんな顔しないでしょ?」

「たまにしてる」

「ほほぅ……」

今日はアイツ飯抜きだなと心に決め、黒いオーラを漂わせる恵光。

「そんなことより、祐真も学校行かなきゃね?ランドセルからって」

「はーい」

祐真は身支度を整え、母である恵光に見送られながら颯爽と玄関を飛び出し、学校への通学路を急ぐ。

同じような黄色いカバーをランドセルに付けた同級生達と並び軽快な歩調で歩いていると。

「君ィ、ちょっとォお兄さんにィ道を教えてくれないかァ?」

痩せ型のブロンド、容姿は整っているがどこか不気味さを放つ碧眼の双眸…外国人だ。

「お兄さん、道わからないの?どこに行きたいの?」

「あァ…君のお父さんにィ会いたいんだァ…お友達ィなんだけどォ…お家ィが分からなくてねェ」

「お兄さん喋り方変……お父さんのお友達なの?」

「チィッ、あァそうだ…だからァさっさと––––––」

「きんきゅうじたいだ」

「ぁあァ?なにをッ––––––!?」

意識を向けた瞬間、ブロンドの男に六歳児の放った頭突きが腹部にクリーンヒットし、ブロンドの男は為す術もなく盛大に吹き飛んでいった。

「お父さん、お友達いないから…お友達って言う人はバイバイしなさいって」

「お兄さんのじゅうりょくにバイバイしたから飛んで行っちゃった……」

「お母さんにきんきゅうじたいって教えないと」

祐真は来た道を振り返り母の元へ駆け出した、しかしその場所で彼を待ち受けるのは『悲劇』

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