　私の愛した人はとても優しくて、とても真面目で、とても繊細な人でした。私は彼を愛していました。もちろん彼も私を愛してくれていた……、と思います。でも、私は当時、……ううん、今もかもしれませんけど、私は世間知らずな子供で、彼もいつまでたっても子供のままのような人で、だから年月が経つにつれて、私たちの距離は次第に離れていくようになりました。ただ相手のことを愛していると言う気持ちだけでは、その距離は埋めることができませんでした。だから私はとても努力しました。あの人もとても努力をしてくれました。でも、一度離れてしまった私たちの距離は、私たちの努力だけではやはり到底、埋めることができませんでした。私はまるで自分がたった一人で、『月』にでも住んでいるかのような気持ちになりました。

　私は次第に笑う時間よりも、泣く時間のほうが長くなりました。でも私は、そんな悲しい時間は、私たちの間に子供が生まれてくれば解決するはずだと思っていました。目には見えない愛の代わりに実際に現実の形を持つ子供が、私たちの距離を縮めてくれると信じていたのです。私は子供を欲しがりました。彼は子供にはこだわりませんでした。私がいてくれればいいと言いました。でも、私は子供が欲しかったのです。私と、彼の子供が欲しかったのです。