4/9 門出
現在、夜は短しを痛感し、小説を勉強し直している。
私が小説を書き出したのは十歳の頃。
兎に角金が無かった。当たり前だ。十歳なんだから。
家の本も学校の本も読むに読んだが、もう何もないみたいな状態。新しい本を買う金もない。
それでも、本を読むのが好きで何か読みたくて、私はノートに鉛筆で書き殴った。
しかし、読むのが目的としながらも、一度も読み返した事はなかった。
残念ながら、書いたのはいいが書いたら書いたでその物語を知っているのだ。当たり前だろうに。だって、私は書いた本人だから。
書いた物語は興味はそのままなくなり、どれも読み返される事はなかった。
つい、最近までは。
私の初めて書いた小説は、歴史小説だった。
当時好きであった、人間無骨……。勿論今も好きで絶賛片思い中だが、人間無骨の所有者である森長可を中心とした長篠の戦いを描いた作品であったのだ。
文章を読み解けば、むせ上がる程の司馬遼太郎臭。
齢十歳で、何をやっているんだと呆れ返るのも無理はない。
そして、読み返すとどうしても強右衛門が主人公か? と言う違う視線配置で度々出張って来る。当時の私の趣味が垣間見れて虚無になりそうだ。
さて。そんな学習ノート、四冊分に及ぶ私の想像の中の長篠の戦い。
実に面白く無かった。
滅茶苦茶、面白く無かった。
特に武田信玄の亡霊が出て来る所が一番の盛り下がりを見せてくれた。書いている間は、多分自分の中で一番盛り上がっていたつもりなのだろうとわかる筆圧がまた私を悲しい気持ちにさせくれる。
まるで、関ヶ原ウォーランドの武田信玄の亡霊がラブアンドピースじゃ! と言ってるのを見た気分である。
此処までクソみたいな歴史小説を、私はまだ知らない。
次に書いたのは、明らかに赤川次郎の影響を受けている推理小説である。
これは、後々リメイクしても良いかもしれないと言う変態トリックが三つも載っていた。
赤川次郎をリスペクトしていたお陰で、文章は随分と読み易い。武田信玄の亡霊を書いたクソ作者の話だとは到底思えないぐらいに。
だが、登場人物が実にクソだった。
男女のペアだが、二人とも平凡な人柄過ぎて、モブの恋愛を沸騰とさせる内容だった。熱くもならず、そして冷静にもならず。淡々と終わっていく推理小説は少し不気味だった。いや、少しではない。大層不気味だ。普通に怖い。
これはノート一冊半で終わっていた。
半分ぐらいは読まんで良い内容が詰め込まれていたのを見て、これまた虚無になる。
無意味にノートの端を彩るこげぱんの無表情が嘲笑う様に見えるぐらいに被害妄想を抱く程。
推理小説の残りのページは星新一リスペクト短編集である。
これは、正直本人がかいたのでは……? と思う自画自賛が出掛けるぐらい面白かった。
けど、タイムパラドックスが酷いのもあってリメイクは無理だと思った。
でも、過去の作家を殺していく話はとても良かった。個人的に。今なら知り合いのWeb作家さんの名前あげて書きたい。
次に出て来たのはわかりやすい程の志賀直哉風の短編。
もう此には流石に説明もいらないだろう。
次は、佐々木譲。
次は、夏目漱石。
次は、あかほりさとる。
次は……。
父のお下がりのノートパソコンを手に入れる中学生時代まで、ノートは消耗品の様に消費され続けた。
その数、八十二冊にも及ぶ。物語は、数え間違えていなかったら大小含め、百七。
なんとも、キリの良い数字には熟縁がない。
縁がないのは、なにもキリの良い数字ばかりではない。物語の質もだ。本当に、質の悪い物語ばかりで、初めて読み返しては苦笑を繰り返す。人に見せたくない程幼稚だからではない。人に見せたくない程の猿真似に顔が火照るのだ。
読み終わるまで、随分とかかった。なんせ、字が汚ないのだ。最早暗号だろうに。何度も書き直して真っ黒な行も多かった。何度も消して書いて消して書いて。誰にも見せる訳もなく、苦悩を抱えて。
でも、不思議と自嘲は出なかった。
一丁前に。そう、馬鹿にしてやるな。十歳から十四歳までの四年間の私が必死に出力し続けた結果なのだから。
そう思いながら、実家の捨てるフライパンの上で三冊焼いた。残りの七十九冊に、早々と心が折れて家で燃やすのはやめた。無理だろ。身体的に普通にキツい。終わりが見えなさ過ぎる。
早々に諦めた私は、残りは一括で近所の幼馴染の実家の畑で、ゴミと一緒に焼いてもらった。
もう、本当に誰も読めない物語たちは煙と共に空に登って消えていった。思わず手を合わせて空を見るが、側から見たら焼き芋が焼き上がるのを待つ寒い人みたいに映った様だ。帰りに焼き芋のお菓子を貰った時に言われて、真底恥ずかしかった。けど、腹は減ってたから食った。美味かった。
私は家に帰ると、机に向かう。
もうノートはない。あるのはiPad。そう、iPhoneならね! とか言いそうであるが、今日も私はノートを開く。iPadで、私が昔好んで読んでいた本を開きながら。
残念ながら、話はクソだったが文章の構成力は猿真似をしていた十歳の私の方が上手かった。当たり前だ。本が買えない代わりに、その作者になりきって本を量産させたかったのだから。内容が似せられないなら文章を何とかと言う、小癪な発想ここに極まれだ。
当時、読者は私一人だった。
いや、そもそも、読者は居なかった。なんせ、読まなかったのだから。二十年数年越しの読者は、自分一人だが。
感想を送ろうとかとも、何とも乙女チックな事も考えたのだが、考えれば考える程、書いたのは自分じゃないかと言う答えに行き着く。
それに、感想にはいい思い出が点で無い。
昔、二次創作で好きな小説書きさんに感想を送って晒されて馬鹿にされ笑い者にされた過去を思い出した。このタイミングに? とも、思うが、それを思い出すぐらいやめておいた方がいいと言う神託な気もして来たので筆は置いておく。
そして、また、今更ながら勉強を始めた。
構成や文章の書き方を分析。話のテンポに見習いたい所、個人的に見解が分かれそうな所を洗い出し、何故そう思うのか、ノートに書き殴る。
やってる事は、小学生の自分と変わらない。
あの頃、自分が作家になりたいなんて夢にも思わなかった。夢とか、無かった様にも思う。
少し興味が湧いたのは、父の友人の作家先生の助言で、高校卒業時に公募と言う存在を知る。
四回は軽く落ちた。三回は粘った。一回は、微妙な所だが、日の目を見た。そして、微妙な日の目の打ち所が悪かった。
私は、いつしか本を出すと言う目標に駆られてしまったのだから。
それからは、苦節の日々だ。
日の目を見たと思った瞬間、次からはダメだった。本も出なかった。担当が言ってる事、半分も理解出来ていなかった所為だ。若さを理由にすればそれまでだが、圧倒的に自分の愚かさで身を滅ぼした。
公募から逃げるように、二次創作にWebに向かった。
二次創作は、人気ジャンルということもあって多少いい目も見た。痛い目はそれ以上に見た。
Webはこれと言ってなにもなかった。
はじめはなろうに。自信作、最終まで粘った話を挙げだが、一年間で読まれた人数は一桁だった。流石に、落ち込んだ。最終でいい争いを見せてくれたと言われた鼻が根からポキリと折れる音を奏でる。日頃からメンタルがオリハルコン出て来てると仕事でもプライベートでも言われ続けて来だと言うのに。
読まれない。自分の過信した結果に結びつかない。たったそれだけのことで。心が折れ過ぎて、なろうのアカウントを削除した。
また、逃げた。
逃げたと言うが、私は逃げる事が悪いことだとは思わない。敵前逃亡はヘッドショット!! とも思うが、一度体制を立て直す重要さは人生の中で嫌程知っている。向いている向いていないの重要さも、それと同時に知っていた。
だから、私はこの逃げを恥だとも悪だとも何とも思っていない。
だが、逃げは逃げだ。
その後は、細々と自身のサイトに挙げたり、挙げなかったり。
そんなある日、カクヨムの事前登録の広告を偶然見つけた。仕事中だったが、私がいてもいなくてもどうでも良い会議中。何で私呼ばれたん? と聞いても、取り敢えず富升さんは会議に入れとけって誰かが言ってたと言われたぐらいクソな会議だった。私は隣の上司の目も気にせず、事前登録を行った。
因みに、上司は真剣な顔で聞きながらずっと右手でよくわからない生物を書いていた。それもそうだ。何度聞いてもうちのチームには一ミリも関与しない話だったからだ。上司も、何故呼ばれたか全くわからない一人だった。
当時、推理小説を書いていた私は、担当の人に恋愛を入れろと言われていた。
これが、ダメだった。
本当に、ダメだった。
何度書き直しても、意味がわからないと言われ続けた。
私にもわからなかった。
私は、恋愛と言うものを理解できないでいたのだ。
少女漫画とは無縁だった。恋愛と言えば、I"S。ぐらいの認識だ。でも、絵は好きだったが話はてんてわからなかった。
ダイの大冒険でも恋愛あるでしょ? ポップはマームの事好きじゃん? そんなこと言われても、何でポップはマーム好きなん? いつのタイミングでどう好きになったん? ぐらいのレベルであった。
恋愛偏差値マイナス五億である。
マイナス五億の私は恋愛を大層恐れていた。
普通に怖い。意味わかんないと言われる意味のわからなさ。人の恐怖をくすぐるには十分過ぎる。でも、苦手だとは流石に言っていられない。本を出す、その目標の為に、私は再度立ち上がった。
私はカクヨムで恋愛を書き始めた。
恋愛下手なのは自覚していた。いや、最早悟り切っていたのだ。そこで、私はこんなに下手なんですよ! アピールで文章の書き方を素人っぽくしてみた。ぽくってなんだ。素人が。その通りなのだが、一文字開けないとか、当たり前のルールを無視して書きてみた。文章が下手なら、こいつぁ、恋愛も下手だなって思って読んでもらえる免罪符だと思い込んで。
当時、確か恋愛に関する賞がカクヨム内で募集されていて、私は無謀にもそれに参加する事にした。
何故か。
それが思いの外読まれていたからだ。意外に、私もいけるのでは? そんな甘露煮のようにしょっぱ甘い見解が私の中で充満していたのだ。
出だしは良かった。
二十位以内に入っていたし、このまま逃げ切れる! そう、思っていたのに、開始一週間で私の順位は下りに下がった。何故だ。更新頻度も下げていないのに。
私はその謎を解く為に、アマゾンの奥地……迄は行かないが、自宅でカクヨムに行き、参加者の作品を読んだ。
結果、私は目眩を覚えて今にも倒れそうになった。
そう、皆、恋愛が上手い。
本当に恋愛小説なのだ。
当たり前なんだが、当時の私には衝撃を覚える程の事実であった。本当にこの賞は、恋愛を競う謂わば、恋愛の裏武闘殺陣っ!! 私の様に小手先だけで恋愛を書いている人は何処にもいなかった。
私は、麗の一人だと自分を思い込んでいた哀しき骸悪だったのだ……。いや、彼も強いと思うけど。決して弱く無いと思うけどさ。例として、さぁ。
例えるなば、国王が勇者を決める為に武術会を開かれるらしいと言う噂を聞きつけて、俺も参加するべっ! と、片田舎の自宅にある長い棒の先にロープとガムテープでぐるぐるに固定した包丁を付けたお手製のもりみないな武器と言い張り、勇猛果敢に、そしてドヤ顔で持って参加したら周りは皆、ガトリング銃やら戦闘機やら最新鋭の武器を持ってきていた感じ。
俺は自分のお手製の武器を見て、こう思うしか無い。
あ、無理だな。これ。って。
案の定、お手製の武器は早々に折れて読者選考すら引っ掛からなかった。
此処まで来ると、最早清々しい。というか、言い訳に塗れた恋愛小説で戦おうとした己の頭をそのもりで突き刺したい。何考えてんだ! 身をまきまえろ! 本当にその通りである。
そこからも、苦節の日々だった。
ノウハウのないWeb小説は、私を混乱の渦へと突き落とすには十分だった。
そして、今なお、突き落とされている。此ればかりは、どうしようもない。
だが、悪いことばかりでは無かった。
不特定多数の人に読まれると言う経験を、身をもって教えてくれた。
苦節は、何も苦しいだけじゃない。膝を折りながら、ふふっと笑ってしまう事もあったのだから。
友達も出来た。一方的な此方から視点の友人だが、交友も膨らんで行った。
でも、まだ私の本は出ていない。
多分、一生出ないかもしれない。
奇跡が起こって、出るかもしれない。
まったく先は見えない。
今日もまた、勉強片手に自分の話を必死に打ち込む。
久々に公募の門を潜ってみた。
最近は、Webのみだがどれも一次敗退。
実力のなさを痛感した。
交友を深めた友達は、皆自身の本を片手に先に行く。それを羨ましいと思う気持ちもあれば、キミの話は面白いもんな。本、買うよ。と思う血気持ちもある。
苦節は長い。長い分だけ、諦めも嫉妬もうまい具合に折り合いをつけてくれる。
誰かが、私の文章はとても幼いと言ってくれた。
最近の言葉だが、私はその言葉に酷く頷いた。
自分でも、ふふと笑いが溢れるぐらいには幼く感じる。
昔はこの幼さも、自分の都合のいい解釈では武器だった。しかし、今はただの鈍だ。何も切れはしない鈍は、最早武器だとは言い難い。
だから、捨てる事にした。その為には、勉強から始めなければ。
私には、武器がない。
振り返って見れば、それに尽きる。安牌ばかり切りがちで、それが安牌であると思い込んでる痛さが目につく。
文章、テンポ、構成。まずは必要最低限の自分なりの武器を作りたい。
余談だが、モンハンを始めた。一人である為時間がかかるがとても楽しい。最近、やっと欲しかった武器と装備が出来上がった。
それと同じだ。
小説でも、私が欲しい武器と装備がある。
そして、公募の門にもそれが必要だと、私は勝手に一人で思っているのだ。
本を出すのが目標なんて虚しい。
本を出したらどうするんだ。
そんな事を言う人もいるが、目標なんて人それぞれ。
目標を達成したからと言って、どうした? 何かなるか? 富士山に登る事を目標にした人が、富士山を登り切った後どうするのかのんて、人それぞれだろ。また新しい目標が出来るかもしれないし、また頂上へと夢見るかもしれない。新しい別の目標に心躍らせるかもしれない。
それがダメだなんて、誰が言うのか。少なくとも、私自身はそうは思わない。良いじゃないか。目標の為に頑張った。それを達成した。後の事は、その後でゆっくり考えれば。
目の前の敵ではなくその向こうにいる敵に想いを馳せた所で、目の前の敵を突破出来なかったら次なんて永遠に来ないんだ。
次が来て欲しいから、目標を達成する。それだけじゃないか。
私は、次の公募先を見つけた。
狙いはつけた。
それに対して、後何年苦節を送るのか検討もつかない。
途中で逃げるかもしれない。
けど、それはどうでもいい。
ツイッターの方で、嬉しい書呟きを見つけた。
私の話を楽しみにしてくれてる人が、一人でもいる。
そんな嬉しい事実に気付かされて、動かす手の何と気持ちいいことよ。
読者一人の二十数年前から、私を含め二人に増えた事実が、ただただ嬉しかった。
なので、今日も私は手を動かす。
きっと、明日は明るくなくても。
オリハルコンで出来てるメンタルは健在だ。折れに折れて、前よりも随分と図太くなったんだから。
願いたくば、二人の読者が三人に。三人の読者が四人に。四人が五人にと、増えていってくれる事。
結局は、そこに結びつく。本なんか出さんでも良い。けど、出したら一人でも多く読んでくれるんじゃないかな。そんなもんだ。
そしてこの日記を最後まで読んでくれた優しい人へ。良かったら、心のどかで応援してやってくれ。
以上、漸く前を向けた富升でした。
有難うございました。
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