[マヌルネコ / コマヌル] 廃線路が続く、どこまでも (前編) <中>







   キミには、兄弟って居るかな?



 ウチには居たらしい、フレンズ前だけど。でもその子らは "生まれる前に"、お星さまになったと聞いた。動物って、こういうの意外と多いんだ。


 ヒトも昔は環境が整わず、そんなのが多かったんだって。いきなりこんな話でごめんね。



 ウチ "マヌルネコ" って言うんだ。マヌとかマヌルって呼んでよ。ブサイクで太って見えるのを、かなり自分で気にしてるんだよね・・・。


 ・黄色い目、灰色姿に黒線のあるネコ種

 ・首に白いマフラー。

 ・スカートはお腹の上側で締めてる。

 ・凍ったバニラっぽい匂い



  あんまジロジロ観察するな......ニャギィ


 さて、雑談も長引けばつまらなくなるかね。そろそろウチの体験談をキミにお話するよ。




  ──

  ─┈┈これは、チビだった頃のお話。



 当時は "コマヌル" って呼び方だった。何故か毛皮の格好や目の色が今と違う。

 昔は目が青色。水面をみて確認した


なるべく覚えてる限り、チビの目線で話する。ちょっと恥ずかしいけどもね



    ┈┈ ┈ ┈ ┈ ┈┈┈



 あたしは、物心つく時から旅に出てた。

目的は住みやすい場所を探すため。今いる場所が体調に適してないと、直感で感じたんだ。


 実際には後で知ったけど本当にその通りで、あたしは寒くて高所のちほーが適してた。



 ちなみに物心つく時とは "フレンズ化した時" か "年を経て" なのかは分からない。と言うのもあたしには、同種で恰好違いの母親がいたらしく。


 つまりあたしはフレンズから産まれ、元からフレンズって可能性があるから。


 だけどお母さんと別れた理由は覚えてないし、ならもう思い出す必要もないと勝手に思ってた。

 それを考えても何故か胸がズキズキする




  旅では、色んなフレンズに出会えた。


 暑い日にひまわり畑をフラフラ歩いていると、白黒姿な鳥の娘が心配そうに飛んできて、どこで得たのか麦わら帽子を渡してくれた。

 後で聴かせてもらった彼女の歌は正直へただったけど、心配して貰えてあたしは嬉しかった。



 春の雨降り、池でネズミの娘と出会った。泳ぎが得意なその娘は "ヌートリア" って名乗り、雨宿りに水車小屋へ案内してくれた。彼女は寂しがり屋で、仲良くなれたのもあって何日か一緒に旅をした。



 ちほーの何処か、大きな建物で浴衣姿とワンピース姿な魚の娘に出会った。後で教会と知った。

 彼女らは宙を舞って天井の鐘を鳴らす。

 何故か片方の娘は、言葉が分からなかった。


    ・・・・・・


 話せばキリがないほど不思議な娘に出会い、楽しかったけどそのたび別れもあった。時間が経つにつれ、あたしの姿も少しずつ変化していった。

 大人の、親に近いぶかぶかな格好へ。


 どうでもいい話だけど、いつからあたしは太って見える事を気にし始めたのだろう。誰かに言われたわけでもないのに




   前置きが長くなってごめんね。


 

 歩くのが遅いのもあって、1年足らずが過ぎた。これは旅の途中で起きたこと。そしてあたしにとって最大の成長ターニングポイント。



 天気が良い夏のお昼だった。海や空も、他の娘の力添えで越えてきた。そろそろ寒いちほーでナワバリが見つかればなぁと思いながら、森へと入ったんだ。


 セミさんの声ひびく暑い日だったけど、森は涼しくて心地が良かった。途中、ラッキーさんにジャパリまんを貰った。


 ちなみに前に会った白黒な鳥の娘の影響か、お歌をうたう癖がついてた。


 『あれぇ 鈴虫がぁ 鳴いているぅ~♪』


──とか、どこで知ったのかも覚えてない歌を口ずさんで足を進める。あと周りで鳴いてるのはセミであり、鈴虫ではない。



 そんな調子で歩きながら、ふと右の茂みに目を向ける。すると赤さびでボロボロの "廃線路" が見えた。

 幅は大体、両腕を広げたあたし2匹分。


 ここでは線路をまだ分からなかった。本数は1本で、対向は無かった。



 近づいて見ると、先へそれは続いてた。

この時あたしの背後を涼しい風が吹き抜けた。風に押されてか、辿って行こうと思った。明確な目的地があったわけじゃないしちょうど良かった。



   でも、まず覚えておいてね。



 線路を辿る行動、コレ実は相当危ない。

轢かれるとかシビれるって意味でもそうだけど、あたしはそんな事を言いたいのではない。



 線路の鉄柱上につま先で立ち、バランスを取りながら歩く。森の木が音を立てて心地がいい。


 しばらく歩いていくと線路に沿って柵が囲いだした。腰の高さほどあり、棘付き鉄線も絡まっている。乗り越えるのは難しそう。

 まあそのうち抜けられる場所があるはず、とあまり気にせず辿り続けた。


 ところが10分ほど歩くと、あたしの体調に異変が起きた



    ──うぶっく!!?


 頭に鈍い痛みが走った。例えると、頭に被った鉄のヘルメットを鉄棒で思いっきり叩かれたような衝撃。しゃがみ込み、しばらく動けなかった



 それからどうにか動けそうと思って顔を上げるが、いつの間にか霧がはっていた。さっき晴れていたのに今は真っ白で、森にいるのかすら分からなかった。



 太陽がぼんやり見えるけど、隔てられたように薄暗い。湿気でお胸や手首の毛皮が貼り付く。


 遠くが見えないからか変な寒気を感じる。柵で無理だけど、線路から離れてはならない気がした。

 ちなみに柵を越えられないのは、鉄線のせいではない。あたしは跳ぶのが苦手、ネコなのに。



 この妙な状況、本当なら引き返すべきなのにあたしは「晴れるまで進もう」と思ってしまった。

 なにせ、旅は戻るより進むものと考えていた。もちろん間違ってると自分で思う。


 さらに進むと柵が無くなった代わりに、斜面で囲まれた場所に着いた。山と山の間・・・と言うには、傾斜が明らかおかしかった。


  まるで地面の壁だった、登れない。

  霧も晴れず疲れてはぁはぁ止まらない


 それでもあたしは線路を辿った。意地になってたんだと思う。下が砂利なのでレールにいないと足裏が痛い。

 5分ほど歩いたけど予想はしっかり裏切られ、抜け道とかは見つからなかった。



 ついにあたしは座り込み、顔を伏せてシクシクと泣いてしまった。本当に寂しくって怖かった



  あまり時間は経ってなかった...と思う


  「大丈夫ですかっ・・・??」


 突然聞こえた声に驚き、あたしは「ニャギィ!?」と情けない悲鳴を上げてしまう。恐るおそる顔を上げると、目の前には目線の高さに屈む一人のフレンズが。


・茶色と白を基調とした姿、短い茶スカート

・大きなけもの耳がよく目立つ

・パッと見の印象は、身軽でスマート


 一瞬、身軽な姿に羨ましさを感じた


 彼女の姿にあたしは安心したのか、腰を抜かした格好のままで経緯を説明してしまった。

 その娘も驚いてたけど、屈んであたしの話を真剣に聞いてくれた。



「霧が、深いですよね。私この先から歩いて、途中休めそうな場所なら見つけましたが・・・」


 彼女は遠い目をして周りを見ながら言う。

線路で休むのもアレと思い、その休める場所へ案内してもらうことにした。



   ここで腰を上げようとするが──


「いッ!? 立てないよお どうしよ!?」

「だいぶ無理して歩いたのですね。よしよし、ほら大丈夫ですよ」


 疲れて足が動かずまた泣きそうになるあたしに、彼女は「ありゃ」と言いつつ、でも落ち着いた様子で両足を擦ってくれた。それからおんぶを申し出てくれた。

 恥ずかしくも断れず、でも嬉しかった。



「初めてなので、なおさら具合悪くなったらごめんなさい...ではどうぞ」


 彼女の言葉に甘え、おいしょ・・・と言いながら背中に跨る。不思議なことに、多数のフレンズらしき匂いがした。何だか懐かしい気分で、心地が良い。



 それから歩いてもらう際に「あ、そう言えば」と思い、あたしは声を掛ける。


「えっとさ、自己紹介まだだったよね。

あたしマヌルネコ、コマヌルって呼んでよ。まだチビなものだから」


 本当は "マヌルネコ" で正しいけど、出会った娘にはコマヌルで呼ばせていた。

 チビだからってのは、ただの理由付け。


 愛称での呼び方は、お互いに心を通わすとても良い方法だから。



  彼女は "アカオオカミ" と名乗った。


 初対面だから当たり前だけど、聞き覚えのない名前。それから彼女の背中をじーっくり味わうが、その間にふと気になった事が2つある。



 まず、最初に彼女と出会った際のこと。

あたしがビックリしたこと自体に何か引っかかる。気配とか感じなかったっけ・・・って。


 もう一つのことを考えようとしたが、そこで意識が飛んだ。





 「┈─コマヌルさん あそこですよ!」


 その声によってあたしは再び目を覚ます。心地よくて短時間ながら居眠りをしてた。

 彼女の指す左先に、線路側を向く木の小屋と古いベンチが見えた。あたしは声を掛ける


「休める所ってあれか、ちょうどいいね」

「ええ、ですがベンチの方がいいかと...」



 何故か、アカオオカミは小屋を避けてるようだ。理由を聞こうとしたけど、この娘の足は意外と速くもう小屋の前だった。


 自分で見た方が早いと思い、断って背中を降りつつ中を覗く。中は薄暗く、前方左に小さな蛇口2つと右には3つ個室の扉。お手洗い・・・らしい。

 今度は何気なく一歩入るが──



「うわっ なんだこれ肌寒い...!?」

「居心地悪くて休めると思えないですよね」


 公衆トイレの割に綺麗・・・なんだけど、空気の流れが違うと言うか気持ちが悪かった。個室まで見ようとは思えなかった。



 後で分かった事だけどこれ、駅でも待合室でもない。近くに電車を降りる所もなかった。

 つまり、普通なら辿り着けないトイレだ


 地味に男女分けてない作りもおかしいけど



 外にあるベンチでアカオオカミと休む。

古びてるだけあり、まあギシギシと音がした。構わず一息入れることに



「何か食べ物あれば良かったけど、ごめんなさい」

「これあげる。ラッキーさんから貰ったの」


 森へ入る前ジャパリまんを多めに取って正解だった。前に貰った麦わら帽子も、持ち運びに一役買ってた。


 嬉しそうな様子のアカオオカミと話す中、この娘の "格好" を見てあたしは「やっぱり」と思ったことがある。



  さっきの、気になったこと2つ目──


と、ここであたしの考えを察したのか、それとも偶然なのか・・・アカオオカミがこう尋ねてきた



「コマヌルさんって、今までたくさんのフレンズに会って来たんですよね。

 私ってその、オオカミに見えますか?」


 少し不安そうな顔色。あたしも答える


「・・・正直、オオカミにしてはキミ細い姿だよね。服にそでもないし。でも気を悪くしないで、あたしはぶかぶかだし羨ましい。あとコマヌルでいいよ」



 気を悪くとは、貧弱って捉えられると思ったから。確かに彼女はオオカミと言うにはスマートに感じた。

 けどあたしの不安とは裏腹に、彼女は嬉しそうな顔をした。



「じゃあちゃん付けがいいです。それでさすがコマヌルちゃん。変なこと言うようですが、自分でもこの名前が正しいと思えないんです」


 一瞬、言ってる意味が分からなかった。

聞くと彼女は2日ほど前、ある不思議な少女から名前を教えられたのだと言う。



  ┈┈まだ霧は深く霞んでいる


「その少女って今は近くにいないの?」

「ええ、行くべきところがあるって・・・。気づいたらもういなくなってました」



 何故だか、あたしはその少女とやらに重要性を感じなかった。旅って結局は、巡り会わなきゃ意味ない。逆に会った存在はすごく大事だけど。



 それにしても "名前を教えられた" って事は、彼女は生まれて間もないフレンズらしい。よくおんぶを思いついたな・・・と少し感心した。



 あたしがなぜ旅をしているか、どんな出会いがあったのかをアカオオカミに話した。彼女は目を輝かせ、興味深そうに聞いてくれた。


 半面、少し寂し気な顔でこう言った



「コマヌルちゃん、さっき私のことを羨ましいって言ってくれたけど──


 私の方こそ、とっても貴方が羨ましい。

色んな所で色んなフレンズと会って、コマヌルちゃんは祝福されているんだなって。

 少しひがんじゃいます・・・なーんて」



 悪い気は全然しなかった。むしろ対話するうち、あたしは彼女の事をとても好きになっていた。チビのあたしを下に見てないと言うか。


 一つあたしの中で決心したことを伝える


「それなら一緒に旅をしようよ。出会いはあっても結局は一人が多くて、正直あたしも寂しかった。あたしらもうお友達だし!」



 こちらの気持ちを伝え終えてからはよく覚えてない。あたしが恥ずかしかったのもあるけど、アカオオカミもまた大げさなほど喜んでたから・・・。




  でも、あたしはすっかり忘れていた

  不幸は唐突に起こるものだって。



 この後のコトと後ろのトイレ小屋が、皮肉にもあたしたちにとって成長のキッカケとなる。


 それにしてもアカオオカミ か・・・

もしかしてキミは彼女を知ってるんじゃない?


 そうそう、まだこの時のウチは自分に兄弟がいたことを知らない。ここで知ることになる。

 身を以て、ね


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る