[ギンギツネ] 寂しいキツネの青い窓 <中>

 





  ┈┈┈ビュオォォ....




 あら...! こんな夜の猛吹雪に "ゆきやま" を歩くなんて!ここは旅館、大丈夫だから入って。

今温かい飲み物を用意するわ!




  ふぅ・・・私は "ギンギツネ" よ。


 天気のせいか、最近はお客さん来なくてね・・・正直寂しく思ってた。

 貴方が久しぶりのお客、ゆっくりしてね・・・。



 怖いお話、ですって?

この吹雪自体が怖いのに全く・・・。それにここはとても静かなのよ。



  ふふ、何てね。

だからこそ・・・あるわよそういうの。


 でもそうね・・・。せっかくだし私のお話を聞いてくれないかしら。

 寒いでしょう、お部屋に案内するわ。



 ───┈┈┈



 これはね、前に来たお客さんとのお話。

カピバラもキタキツネも何日か出かけて、私だけで旅館を守っていたの。


  "ゆきやま" なだけあって天気は不安定。

部屋の窓から様子を見ても、今日みたいな猛吹雪で何も見えない状態だった。


(2人とも、ちゃんと帰って来ればいいけど・・・)


 陽も落ちた夜・・・と言っても吹雪で空は見えないけど、あの娘たちのことを考えていた。すると旅館の入り口から



 ── "カツーン 

    ──カツーン...."



 硬いものの当たる音がする。

でもすぐ分かった、これは足音だ。

呼び鈴もドアもないから、音を聞かないと誰かが来ても分からない。


 長く旅館に居るとそこは鋭くなってね、吹雪でも誰か来たことはすぐ分かった。



 ・・・

 ・・・・・・


『此処の..ちほーは寒い..わね、無理に通るものじゃ..なかったわ・・・。』



 雪にまみれ、震えるフレンズの娘。

どうやら私と同じキツネの娘だ。でも不思議な雰囲気、あのオイナリサマと似たような・・・。


 でも目の前の娘はオイナリサマではない。


 雪をほろっても白が多く、尻尾は9本もある。

それが7色以上に光り、釣り目に眼鏡、それと下駄を履いている。

 あの硬い足音はこれの音だったのね。



「こんな吹雪の中・・・大丈夫!?

暖かいところを用意するわ、さぁ上がって!」


 彼女すごい震えてて心配したけど、ここは普段通りに接する。



『フゥフ..アナタ、イイわね。

同じ..キツネの娘、逢えて嬉しい..。少しお邪魔させてもらう..わね。』


 

 敬語あまり使わないんだけど、私これでよかったのかしら・・・ と後で少し思った。


 外に目を移すと・・・何故か大きな岩が。

私の倍ほど高さがあって、そこに紅白のしめ縄が巻かれている。彼女のだろうと思い、もてなすため旅館へ戻る。



 ──

 ───


 温かい飲み物を出し、お部屋へ案内する。



 ──ガタッ... ガタタタッ....



 外からの風音に合わせ、部屋中の窓が吹雪で煽られている。


「温泉もあるから入ってちょうだいね」


『イキナリ訪ねたのに助かるわ。

アナタには後でイイ事を教えてアゲル、お代がわりよ。


 あ、イけない。名乗るのが遅れたわ──』



 お代なんていいのに。

その娘は "キュウビキツネ" といった。色んな所を跳んで、面白いことを探している "神様" だそう。



『・・・カミサマに驚かないのね。

 肝が据わってて少し残念だわ。』



 オイナリサマを知っているからね。


 それからも、少しお話をした。

キュウビは旅をしてること、イタズラや "色" が好きなこと。


 あと、外にある縄付きの "岩" も彼女のものだった。何で岩なのかは・・・よく分からないけど。


 あとは温泉に入って、くつろいで貰った。


 ┈┈

 ┈┈┈


 それから夜が明け。

吹雪も止んで見晴らしの良い朝。彼女は今日此処を出て旅を続けるって。・・・また寂しくなる。


 その前に、私は再び部屋へ招かれた。

 理由は、あのお代の事。



『昨日、お話したことを覚えてる?

 アナタにお礼をしたくてね。』


 確かに言ってたけど・・・。

彼女、 染め物をしているんだとか。

本当に "色" 好きなのね。


『前に・・・教えてもらった方法なの。

アナタにも教えてあげるわねコレ。』



 彼女が用意したのは綺麗な青い液体。

小皿に入ったソレは、よく見ると私の毛皮より少し紫寄り。


  "青い花の汁" らしい。


『普段は染め物に使うんだけど、元の花に不思議な力がある様でね。見ててなさい──』



 そう言うと、キュウビは

両手の "親指" と "人差し指" を液に浸しだす。


 両指が青に染まっていく。

 今度はそれを───



 『おいで、覗いてごらんなさい。』


 両手の親指と人差し指同士を合わせ


  "青に染まったひし形の窓"


 を形作る。促され、彼女の隣へ来て両指の窓を眺めると・・・



 「──なっ、これ・・・え!?」


 詰まらせつつ声をあげてしまった。

部屋ではなく、不思議なものが見えたから。



  "白い狐" 。



 ひし形に合わせた枠の中。

ぼやけた緑と青の背景に、 "原種の狐" が映されていた。

 目の前にいるキュウビと少し面影があるような・・・?



「もしかして、原種の貴方・・・?」


 思わず聞いてしまった。

指を合わせつつ顔をこちらに彼女は言う。



『いいえ、アタシではない。

此処にいるのはね、今は遠くにいる

アタシの "お母さん" 。


 信じられないでしょうけど、青い花たちがアタシに言ったの。


"おゆびを青くお染めなさい。それで窓を作りなさい。寂しい時は会わせてあげる" ってね。


 覗くと寂しさを忘れられるの。

カミサマだからではない。これ、やろうと思えば誰でもできるのよ。』


 それを聞いて、まず思った。

信じないワケがない。神様なんだし貴方・・・。


 そしてとても驚いた。

窓や花のこともそうだけど、神様もやっぱりお母さんがいて、寂しいと感じることに。



 ──ただ、一つ妙に思った。



 原種の母狐は、何故かこちらへ向かない。

左を向き、呼びかけても反応どころか動きもしない。


 見えるだけでお話とか出来ないのか。

 いや、それよりも・・・!


「私もいいかしら!?恥ずかしい話だけど、貴方が来るまで一人ぼっちで寂しくて・・・!」


『もちろんいいわよ。ここに映るのは、寂しくて会いたいと思う存在。・・・でも

昨日話してたキツネとネズミの娘? 見えないと思うわよ・・・?』



 私じゃ上手くできないってこと?

そんな訳ない、こちらだってキツネ。 "きつねの窓" くらいやって見せる、と躍起になり彼女の言葉はもう聞いていなかった。



 ──チャポ... 

      トポンッ....


 少し深めの小皿、青の液に私も両の親指と人差し指を浸す。

 そして同様にひし形の窓を作って見せる。


  ──スッ....



 ・・・ぁ

 ・・・・・・見える、いた!


 ちょっとして、私の作った窓の中

"キタキツネ" と "カピバラ" 2人ともいた!



 二人は膝を抱える形で座り込み、真顔で遠くを見つめている


 場所は分からないけど、真っ白。

"ゆきやま" の何処かにいるようだ、よかった。


 ただ、二人も同じくこちらを向かない。

キタキツネは7時の方向、カピバラは4時の方向を見ている。


 何故か分からないけど、涙ぐむ。

寂しかったからか、嬉しかったから・・・かしら。


 泣きべそままに、キュウビにも見せようと顔を向ける。


「キュウビ見て!私にもできたわよ、ほらっ」



   ──あれ?



 一瞬、浮かない顔をしていた?

斜め下を見て、口元をきつくしてたような。でも泣きべそかいてたから見間違いだと思って、キュウビにも窓を見せた。



「二人とも私の友達なの。ほら見て、このキツネの娘はオレンジ色だけど私と恰好がよく似ているでしょう!」


 何だか嬉しくて、この時キュウビが何か言ってた気がするけど覚えていない。



 それから、彼女は何故かもう一つ・・・

いや二つ、あるおなじないを教えてくれた。

 気前がいい、バチ当たらないかしら。



 ただ、キュウビはこう付け足してきた。


" この方法・・・寂しくて耐えられない時に使いなさい。けど多様してはだめ、飲み込まれるから。

使いどころをよく考えて。"



 よく意味が分からなかった。

キタキツネもカピバラも、青い窓の様子から近くに居るはず。もうすぐ帰ってくるから寂しくならない。


 2人にも早く見せたいと思っていた。

・・・あ、寂しくないとダメなのか と考えを巡らせて。


 それからキュウビはまた旅立った。

私の方がお世話になりすぎた気がする・・・。


 ただ、彼女は相変わらず浮かない顔をしてた。

 何だったのかしら・・・。


 

 ┈┈

 ┈──



 これでおしまい。

怖いお話できないわね~・・・でも、聞いてくれてありがとう。

 キュウビまた来てくれないかしら。



 あ、そうそう。

キュウビがさらに教えたおまじない2つ・・・教えてあげるわね。


 これはもっとすごい方法よ。

怖い? ・・・やだ、見てもらうから。


  ふ.ふ.ふ......♪



   ──バジャッ



┈┈ギンギツネは、青い液に手を突っ込む。

  ・・・両手ごと。


 そして染まった青い両手を、表と裏に構える。

左右の人差し指と小指だけを立て、右手の小指を左手の人差し指、左手の小指を右手の人差し指に重ね出す。


 他の指を絡ませ・・・

両手の人差し指と中指の間から覗ける形を作りだした。┈┈



 これはね、 "狐の窓" って言う。

印を結ぶの。最初のひし形の窓とはワケが違うわよ。


 花の液で染めてコレを作ると、映った娘と話が出来るの。声は聞こえないけど、口や身振りで話をする。

 ほら見て、ほらほら!



┈┈ギンギツネの "狐の窓" に・・・

  キタキツネが映っている。

 何故だか、キタキツネは悲し気な顔。


「寂しかった、貴方もそうよねその顔は。お話しましょうキタキツネ・・・

 フ.フ.フ.フ....♪」


キタキツネのいる所・・・青色に霞んでいる。

明らかにゆきやまや旅館付近ではない。┈┈



 ・・・何となく察したかしら?


 でも今日は一旦ココまでね、もう遅いし。 

 明日もゆっくりしていいからね。



 その次も、そのまた次も居ていいわ。

 温泉もあるし、不自由はないと思う。

 

 お代を気にしてるの?心配しないで。




  "アナタ" がお代になるの。

 それこそ死ぬまで居てもらうの。



 何でって?私が寂しいから。

こんなところにずっと一人だと、どうにかなっちゃうわよぉ。



それに安心して、 "私が" 死ぬまでだから。

もう先は長くない。でも病気とかではない。


 

 先にパークの誰かが話してなかった?

私ももう寿命なの、フレンズとしてあまり時間がない。


 何となく分かったかしら?

キタキツネもカピバラも・・・実は先に消えてた。

先が短いことを悟り、静かに出掛けて去ったのでしょうね。


 キュウビや私が組んだあの青い窓。

遠い場所と言うより・・・もういない存在を映すための窓だった。


 キュウビを覗けないか試した事がある。

何故か見えなかった、寂しいのに。他の娘も試して・・・


  "博士" と "助手" を覗いた時に確信した。



 助手は見えず、博士は黄色い空間にいた。

 博士は先に寿命でフレンズをやめてたの。



  つまり私はあの時・・・

もういない存在を見てバカみたく喜んでただけ。

キュウビの浮かない顔も、ソレが理由でしょう。


 今日まで "狐の窓" から "口の動きで" あの娘たちとお話してたけど、もう限界。


 せっかく来た貴方を帰さない。

私が消えた後は、貴方が "狐の窓" で私を覗いて。

あの娘たちと笑えてるか見て。見なさい。


 キュウビが何か飲み込まれるとか言ってた気がするけど、もうそんなの知らないわ。



 あ、そうだ逃げられないわよ。

キュウビが教えたおまじない覚えてる?

 2つあったこと。


 "狐の窓" と・・・



 雪山から抜けられないおまじない。



 だからボスのナビも役に立たないの。

寒さを舐めてると死んじゃうし、私が消えておまじないも消えないと帰られない。


 私は此処を動かない、絶対。

思い出の場所だから私はここで消える。



 逃げる以外に、何か望みはない?

誰かのために動かないと、どうにかなりそう。


 教えて? というか言いなさいよぉ!!


 ふ.ふ.ふ.ふ.....あぁ...やだぁ

 また涙が止まらない


 もういい此処にいてもらうから。

 寂しいのはもう いや。



 こんな風に、死ぬまで側に・・・

 いられたらよかったのに。




 ┈┈┈ビュオオォォ....


  外は一層、吹雪が強まっている。






┈┈┈┈.*˚


※今回、参考にさせてもらった元があります。


Special Thanks!!


・参考文書: "きつねの窓" 作:安房 直子 様

・手組(手で結ぶ印のこと): "狐の窓"


 "狐の窓" 、別のモノが見える可能性アリ。

 試す場合は自己責任で。


 貴方なら寂しい狐ギンギツネをどうします?

尽きるその時まで居てあげるか、或いは早めに引導を渡すか・・・。

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